Vol.020 番記者座談会前編【オフィシャルライター「聞きたい放題」 】
左からMCタツさん、渡邉大剛さん、須賀さん

シーズン途中の監督交代や最終節でのJ2残留など、いろいろあった2021年。なぜこんなにも苦戦続きのシーズンとなってしまったのか――。オフィシャルメールマガジンでおなじみのMCタツさん、エルゴラッソの大宮担当・須賀記者、そして特別ゲストとしてクラブOBの渡邉大剛さんを迎えて、今シーズンの戦いを振り返っていただきました。


岩瀬監督の理想と苦悩

――お集まりいただきありがとうございます。この座談会の模様は、クラブ公式サイトのデジタルVAMOSに掲載されるのですが、クラブの公式見解にはなりませんので、外から見た厳しいご意見も含めてオフィシャル媒体のギリギリを攻めていければと思います。まずは今シーズンの始動時を思い出してください。岩瀬健監督の就任がありました。

須賀:僕は昨シーズンまでエルゴラッソの番記者として柏レイソルを担当していて、そのころから健さんにはお世話になっていました。そこで大宮の監督になるという発表を見て、今シーズンから大宮を担当させていただきました。そういうご縁があったので、あのような(途中解任という)結末はとても悔しかったです。ただ、結果が出なかったので、解任は致し方なかったという思いも正直あります。大剛さんは岩瀬監督の時期はどう見られていましたか?

大剛:難しさはあったと思いますが、シーズン途中に新人監督がチームを引き継ぐ状況と比べれば、プレシーズンはあったので、準備期間はあったと思います。開幕戦はアウェイで水戸に勝ち“こういうサッカーがしたい”という意図は伝わってきましたが、一方で「そもそもこれで大丈夫かな」と感じたことも否定できません。

タツ:岩瀬さんのサッカーは具体的にどういうサッカーだと思いましたか?

大剛:シンプルに言うと、水戸戦を見る限り、相手の最終ラインの裏、特にSBの背後にとにかくボールを入れて、ウイングを走らせてそこでまず起点を作る。もう一つはサイドで起点を作ったときにSBがオーバーラップやインナーラップをして、ボックスの角を取る。最終ラインの裏やボックスの角を取ることを徹底する意図は見えました。

須賀:特に後半はバンバン蹴っていましたよね。

大剛:前半から結構蹴っていましたよ。佐相選手と松田選手にボランチの大山選手からバンバンと良いボールは行っていましたけど、「とにかく蹴るな」と思いながら見ていましたね。

須賀:健さんはとにかく“勝つ”ということを前面に押し出して、どの試合も相手に合わせながら勝っていくと常々言っていたんですけど、“どう勝つか”の過程があまり伝わって来なかったかなと。“勝つ”の部分が強調され過ぎて、“どう”の部分が見ている方には伝わって来なかった印象はありました。だから、選手にもあまりうまく伝わっていなかったのかなと思います。

タツ:岩瀬さんは、いわゆるいまの流行りのサッカーをやりたかったと思っています。それは今シーズン昇格した磐田や京都もそうだったのですが、“何でもできるチーム”。岩瀬さんは世界の最先端のサッカーを追いかけていたから、そのトレンドに沿ってチームを作っていこうとする意図は感じていました。世界を見れば、リヴァプールが“ストーミング”からポゼッションに変わり、マンチェスター・シティがカウンターもやるようになった。今シーズンのJ2であれば、京都は最初のころ早い攻守の切り替えという色が強かったけれど、ポゼッションもストーミングもやっていて、ハイプレスもミドルプレスも全部できる。それを試合や相手によって変える。岩瀬さんもいろいろなことをできるようにしておくことが現代のスタイルだと考えて取り組んでいたと思うけど、そのためのアプローチをしっかりとできていたかというと、そうとう難しかったのではないでしょうか。

須賀:選手の立場からすると、“最初から何でもやろう”は困りますか? まずベースがあって、そこから広げていく形がよいですよね?

大剛:そうですね。何か一つ軸は欲しかったと思います。選手の能力によるところもありますけど、最初からいろいろとやるのは難しいです。カウンターとポゼッションをやって、ハイプレスもミドルプレスもできればそれがベストですけど、最初から全部はできないと思います。だから、例えば「自分たちのストロングは、攻撃はショートカウンターで守備はミドルゾーンでは絶対にやらせない」と、攻守で一つずつ軸を作って、そこから色付けしていくことが大事かなと思います。

須賀:なるほど。

大剛:軸が何もないと、何をしていいかも分からないですし、選手によって得意なプレーや価値観はまったく異なるので、「俺はこう思う」と意見がぶつかってしまうと思います。結局、答えは監督が提示するもので、それが軸になります。それを基に選手はコミュニケーションを取っていて、「お前の言い分はチームの軸に沿って考えたらどうなの?」といったような会話が生まれます。そう考えても、まずは軸作りが大事。岩瀬さんも落とし込もうとしていたと思いますけど、選手からすると「言っていることは分かるけど、ピッチのなかで表現することは難しいよね」となっていたかもしれませんね。

須賀:健さんのなかでやりたいことははっきりしていたと思いますけど、選手の能力やキャラクターと自分がやりたいことのバランスをちょっと間違えてしまったのかなと感じています。

タツ:実際、第2節(甲府戦)か、第3節(相模原戦)の段階で、馬渡選手が試合後の会見で「岩瀬さんのやろうとしているサッカーは“○○サッカー”みたいに一言で表現することは難しいし、レベルの高いサッカーだ」と明白に言っていましたね。



スタイルというジレンマ

須賀:今シーズン、健さんがやりたかったサッカーは、何シーズンかチームを指揮していて、その上でトライするサッカーだったのかもしれないですね。

タツ:その意味では京都のアプローチはすごくうまくて、曺貴裁監督は1年目で昇格しているけど、チームとして大事にするものをはっきりさせて、そこからいろいろと適用できるようにしたと感じました。また、今シーズンのJ2を見ていて感じたことは、スタイルを作ってしまうことは良くないということですね。新潟や琉球は確固たるスタイルがあった分、前半戦はリーグを引っ張る存在になりましたけど、対策をされた後半は難しそうでした。
 それは現代サッカーでは当たり前で、J2でも“スタイルが弱点になる”ことがものすごくはっきりしたシーズンでした。岩瀬さんも、今年がどういうシーズンになるか見えていて、スタイルを作り過ぎたくない思いがあったと感じます。ただ、先ほど大剛さんが仰っていたように、最初にチームを作るときは何か一つ軸はあったほうがいいとも思います。スタイルを持ち過ぎないサッカーに慣れ親しんだ選手が多くいるチームなら別ですが、そうではないと難しいですよね。

大剛:いまは分析で相手のウィークをいかに突いていくかの時代なので、スタイルを持つことはストロングでもあり狙われどころにもなってしまいますよね。新潟や琉球は前半戦で本当に素晴らしい戦いをしていたと思います。ただ、1回対戦をしたり、試合を分析したりして分かってくることもあるので対策をされてしまうことは仕方ないことかもしれません。その相手の対策の上を行けるようになると、川崎Fみたいになれるんだと思います。

タツ:そこは身も蓋もない話をすると、予算との兼ね合いになってきちゃうんですよね……(笑)。選手で超えていく発想も必要になってくるから、最後は予算との勝負になってしまうことが多いですよね。


結果が出ないが故に

大剛:岩瀬監督は何節で交代でしたっけ?

須賀:第15節の北九戦です。2点差以上で負けてしまったのはこの試合だけで、スコア上は際どい試合が多かったことも事実なんですよ。ボロ負けはなかったと思います。

タツ:スコアや試合内容を考えれば、前半戦の課題はストライカーの不在だと思います。ゴールを計算できる選手がいれば、もっと違う結果になっていたとも思います。昇格した2チームを見ても、磐田はルキアン、京都はピーター・ウタカとストライカーがいましたから。

須賀:選手からすれば、ボロ負けはないけど勝てない。それで15試合終わって2勝は精神的に難しいですか?

大剛:キツイです。内容うんぬんではなく、まずは結果が出ないとキツイですね。自信も失われていき、やっていて先制点を取っても不安だし、先に失点してしまうと「今日は終わりだな」といったような雰囲気になってしまうこともあります。プロである以上、そんなことを思ってはいけないですけど、選手も人間なのでそういう心理状態になってしまうことは正直ありますね。

須賀:そうなると、「監督がどうにかしてよ」、「このサッカーでいいのかな」みたいな雰囲気にはなってきてしまうものですか?

大剛:なってしまいますね。そういう状況にしてしまうことは良くないことですが、クラブとしてどこかのタイミングで何かを変えないといけないとなったときに、移籍ウインドーが開いてなければ補強はできませんし、監督を代えることが最も分かりやすい変化になりますよね。



カギは監督のサポート体制

タツ:補強の話で言えば、僕はシーズン中の補強はもっと積極的にやってほしかったです。岩瀬さんを継続させるためにも強力なセンターFWを獲ってくることが筋だと思っていました。強力なFWがいてもダメなら監督交代は分かりますけど、FWの軸がいないなかでやっていくことは正直厳しかったと思います。その意味では夏場に河田選手を獲れたことは大きかったですね。

大剛:そもそもで言えば、20シーズンが終わって21シーズンに入るときにセンターFWを獲れなかったということですよね?

タツ:編成については課題を持って振り返ったほうがいいと思っています。大宮はアカデミーやスクールのスタッフを見てもOBが多くいて、OBを大事にするクラブ。それをクラブカラーとしていくことは素晴らしい信念だと思います。だからこそ、強化部がクラブOBでもあった岩瀬さんをサポートする体制をちゃんと作るべきだったと思います。
 監督の辛さは監督をやった人にしか分からない。監督はものすごく辛い仕事で大きなストレスがかかるのに、その辛さを分かってくれる人がいない状態だった。特に岩瀬さんのようにまだ経験のない監督ほど、監督経験のある人がコーチとして現場にいたほうが良かったと思います。強化部にも監督経験がいることが重要ですが、そう考えると、サポート体制がちょっと足りなかったとは思いますね。
 来年の話をすると、監督主導の編成になるのではなく、ある程度、客観的なポジションで対等に言い合える強化部の人がいたほうがいいと思います。対等というのは、ケンカすることではなくてサポートすること。フラットな第三者の視点を与えることが一番のサポートになります。それをできる環境を作れるといいなと思います。

大剛:クラブとしてサポート体制をしっかり作っておくことはすごく大事だと思います。その体制がうまくいっていないクラブも見てきましたから。

須賀:それは選手たちにも雰囲気や空気として伝わりますよね?

大剛:すごく伝わってきます。どこかから情報は回ってきますし、空気を感じ取ることもあります。そうなると選手たちは不信感を持ってしまいますよね。2013年にズテンコ・ベルデニック監督でやっていたときはすごく調子が良くて、連敗してしまったけど4位でした。でも、クラブはズテンコを解任しました。いままでの大宮の歴史を考えれば、残留争いをしていたチームが何で4位の監督を切るんだろうという話ですよね。正直に言えば、選手もズテンコのサッカーに100%の信頼は置けていなかった部分もありました。「夏場もこの戦術でいくのか」とか、「このメニューは無理だよ」といった思いはありました。それは現場にも強化部にも「監督に伝えてください」とお願いしていたけど、届いていたかどうかは分かりません。


不十分だった‟解任ブースト”

タツ:大剛さんとすれば、第15節のタイミングでの監督交代はどう思いますか?

大剛:遅くはなかったと思います。当初は、あくまでも目標はJ2優勝とJ1昇格でした。このペースだと優勝も昇格もできないと考えれば、どこかのタイミングで手を打たないといけない思いはあったと思います。先ほど、須賀さんが仰っていたようにスコアが惜しいゲームが多かったかもしれないですが、内容を見れば、「相手を圧倒できた」とか、「あとは結果だけ」といった感じでもなかったと思います。そう考えれば、どこかのタイミングでテコ入れは必要だったと思います。

須賀:健さんを解任したあとが問題ですよね。後任が決まっていないから解任できないけど、もうこれ以上待てないみたいな状況で、結局は暫定監督を挟まないといけなかった。結果的にJ2に残れたから良かったですけど、「暫定監督で戦ったリーグ戦2試合で勝点1でも取れていたら……」といった結末になっていたら目も当てられませんでした。

タツ:これはあくまでも僕の邪推ですけど、西脇さん(前フットボール本部長)は岩瀬さんとセットで辞める考えだったと思うから、後任を水面下で探せていなかったんじゃないかなと。ここで日本のGMや強化部の方々に言いたいことは、水面下でもっと動いていてもいいのではないかということ。表では「君しかいない。信じている」と言いながら、裏では探し回っている。そういった立ち回りがへたな人が多い。日本は建前の文化なんだから、建前でもっとやって水面下で動いたほうがいいとは思います(笑)。

須賀:勝てていない状況で暫定監督を挟むことに選手はどう感じるものですか?

大剛:佐々木さんのコメントを見ていたら、暫定感が出過ぎてしまっている印象を受けましたね。

タツ:僕も暫定を挟んだことは良くないと思っています。俗に言う、“解任ブースト”というものは存在すると思っています。例えば、すごく絞めつけるタイプの監督だった場合は解放すればいいけど、解放し過ぎてしまうと緩くなるからまた締めつける。そういった足りないものを埋めることが解任ブーストの正体だと思っているので、暫定を挟むことで効果を発揮しづらかったのかなと思いました。

須賀:あの時期、ノリさんのキャラクターに救われた部分もあったと思います。ただ、結果は出なかった。特に第17節・金沢戦を落としたことが、もしかしたら命取りになっていたかもしれませんからね。



いまの流行りは“微調整”

タツ:J2全体を見ても、今シーズンは監督交代が多くて、そのタイミングが早いチームも多かったですよね。例えば、山形はJ1昇格を目標にしていて、このペースでは上がれないと思って代えたと思います。他のチームも降格しないために早めに手を打ったところはあったと思います。大宮は岩瀬さんをサポート仕切れなかったけど、毎年のように“昇格”を目標にするのではなく、「今季は岩瀬さんでチームを作り、選手を育てる1年にします」と言えれば良かったとも思います。

須賀:もう、その昇格の話は別の議題として話したいようなもので、多くの人がそう思っていると思います。

タツ:僕はそれが気になって、シーズン後の佐野社長の会見で来シーズンの目標を聞いてしまいました。そうしたら、はっきりとは“昇格”と言わなかったので良かったなと(笑)。

須賀:もう一度、監督交代の話題に戻ると、今シーズンは半分くらいのチームで監督交代がありましたけど、J3に落ちたチームは松本、愛媛、相模原と、北九州以外は監督交代をしていますし、反対に監督交代をした山口や大宮、群馬は残留できましたから、正解はないですよね。

タツ:監督交代で成績が上がった2チームがすごく明確だと思います。山形も長崎もここ3年くらいは監督が代わってもスタイルを変えずにやっていますよね。先ほど、「スタイルは弱点」と言ったものの、変えすぎてしまうと選手を適応させるために大幅に入れ替えないといけないから時間がかかる。だから、大切なのは変えるというよりは“微調整”だと思います。どうしても日本人は180度、大幅に変えたがってしまいますけど、いまの流行りは“微調整”ですね(笑)。

大剛:その通りで、大きく変えることにはリスクがすごくあります。歴史の長いクラブには、そのクラブのフィロソフィやプレースタイルは根付いていて、それに沿った監督選びがすごく大事だと思います。

タツ:そのチームの根幹が狂ってしまうから、ガラッと選手を入れ替えることは難しいです。4、5人の選手が残っても違うチームになってしまい、残った選手が「なんだこれ」とやりづらくなってしまいますからね。

大剛:まさに京都にいたときにそういうことがあり、在籍していたのに移籍してきたような感覚になりましたね。だから変えすぎないことは大事だと思います。


前編はここまで。次回後編では霜田正浩監督の就任以降について、喧々諤々の議論を繰り広げます。

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