Vol.59 戸塚 啓「共感の輪を広げるために」【ライターコラム「春夏秋橙」】
ピッチで戦う選手やスタッフの素顔や魅力を、アルディージャを“定点観測”する記者の視点でお届けする本コーナー。苦しい戦いが続くアルディージャが、ここから巻き返しを図るために必要なこととは――。
Vol.59 戸塚 啓
共感の輪を広げるために
第11節終了時点の順位表を見てみる。開幕前に予想していたものと、かなりかけ離れている。
昨シーズン11位のアルビレックス新潟と、同16位のFC琉球が、首位を争っている。同3位のV・ファーレン長崎が、黒星先行で11位にとどまっている。同7位のモンテディオ山形は一時J3降格圏に沈み、クラブ史上初となるシーズン途中の監督交代に踏み切った。
順位表の下位に目を移すと、昨シーズン5位のギラヴァンツ北九州が最下位となっている。大宮はと言えば、2勝3分6敗で20位なのだ。
J1昇格を争うどころか、J3降格圏に落ち込んでいる。誰にも予想できなかった序盤戦となっている。
クラブは4月28日に声明を発表した。現状を重く受け止め、それでもJ1昇格を決して諦めていないとし、ノルマを設定して期間を区切った。東京五輪開催に伴って中断される7月23日の第23節終了時までに、「J1昇格を狙えるポジションを目指す」としている。
「J1昇格を狙えるポジション」の、具体的な数字は明かされていない。第23節と言えばシーズンのほぼ半分で、J1昇格ラインを勝点80以上とすれば、この時点で勝点40を取っておきたい。第11節終了時点の勝点は「9」だから、第23節までの12試合で「31」を上積みする必要がある。
ノルマや期間を設定するのは、評価基準として分かりやすい。だからといって、数字に縛られる必要はないだろう。大切なのは試合内容だ。
ここで言う試合内容とは、「チームが目指しているものが表現されているかどうか」である。トレーニングで高めているもの、つまり目指しているものが披露できていれば、選手たちは迷うことなくプレーできる。迷いのないプレーは前向きで、思い切りが良く、アグレッシブだ。相手に脅威を与えられる。そうしたプレーを続けていれば、結果はついてくる。自分たちの基準で「いいプレー」と位置づけられるものの再現性が、高まっていく。
第11節の東京ヴェルディ戦を客観的に振り返れば、「第9節のジュビロ磐田戦と同じミスを冒した」ということになるだろう。先制した間もない時間に同点に追いつかれ、勝点3を逃してしまったからだ。
個人的には、終盤の戦いぶりに変化を見た。何としても2点目を奪うんだ、という気概がピッチ上に立ち込めていた。結局は2点目を決められなかったが、選手たちは力を尽くしたと感じた。
プロフェッショナルは結果が全てだ、と言われる。どんなに胸を打つ試合をしても、結果が伴わなければ評価されない。
そのうえで言えば、胸を打つ試合には未来があると、個人的には考える。観る者の気持ちに響く試合をしていけば、共感の輪が広がっていく。勝敗を超えた価値が高まる。それが「大宮らしさ」というものになり、独自のスタイルにつながっていくと思う。
岩瀬監督を迎えた今シーズンは、J1昇格を目指しつつもJ1で戦えるチームを作っていく1年目でもあるはずだ。ならば、試合内容を追求するスタンスは崩さずに、あらためて「大宮らしさ」を作り上げていってほしいと願う。
戸塚 啓(とつか けい)
1991年から1998年までサッカー専門誌の編集部に所属し、同年途中よりフリーライターとして活動。2002年から大宮アルディージャのオフィシャルライターを務める。取材規制のあった2011年の北朝鮮戦などを除き、1990年4月から日本代表の国際Aマッチの取材を続けている。
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