Vol.58 戸塚 啓「高まる期待感」【ライターコラム「春夏秋橙」】

ピッチで戦う選手やスタッフの素顔や魅力を、アルディージャを“定点観測”する記者の視点でお届けする本コーナー。今回は、就任が発表された新監督への期待感を、戸塚記者が綴る――。


Vol.58 戸塚 啓
高まる期待感


開幕戦は特別だ。全42試合のうちの1試合であることに間違いはなく、勝ったからといってボーナスポイントがもらえるわけでもない。


目に見える付加価値がないとしても、開幕戦の白星は価値がある。J1の優勝候補でも、J2の昇格候補でも、J3に昇格してきたばかりのチームでも、「ひとつ勝って落ち着きたい」との思いは共通する。それだけに、開幕戦ばかりは結果をつかむことが優先されていいと、個人的には考える。


開幕戦を現地で取材して、「生まれ変わったな」という思いを抱いた。監督が代わったのだからチームが変わるのは当然なのだが、昨年の開幕戦に先発した選手はひとりもいなかった。1年前は後半から出場した奥抜が今回は先発して、1年前はスタメンだった翁長とハスキッチが今回は途中出場した。


ピッチに立つ選手が様変わりした中で、システムが4-4-2だったことに特別な感情を抱く。NTT関東当時から、大宮が伝統としてきたものだからだ。


システムにはトレンドがある。進化もする。同じ4-4-2でも、細部を見つめれば様々な違いはある。


ただ、岩瀬監督はクラブの礎を築いたピム・ファーベークさんに師事している。強い影響を受けた指導者にもあげている。ピムさんが大宮に持ち込んだ4-4-2からスタートしたことに──あくまでも個人的かつ勝手な解釈だが──岩瀬監督の思いが込められているような気がして、じんわりと胸が熱くなったのだった。


胸が熱くなると言えば、水戸ホーリーホック戦では柴山昌也が同点ゴールを決めた。記念すべきJリーグ初ゴールは利き足と逆足の右足で、GKにとってノーチャンスの一撃を蹴り込んだ。



勝ち越し点は奥抜侃志だ。馬渡和彰のピンポイントクロスが絶妙だったとはいえ、マーカーの前へ体を食い込ませたヘディングシュートは、勝利への意欲の表れだっただろう。



数年前からアカデミー出身選手が増えている。彼らに必要以上のプレッシャーをかけるつもりはなく、移籍してきた選手も、高卒や大卒の選手も、等しくチームに必要な存在である。全員が大切な戦力だ。


そのうえで言えば、アカデミー出身の選手がトップチームで多くプレーする段階から、アカデミー出身の選手が勝敗を決する存在となっていくことで、クラブは新たなフェーズを迎えるのではないだろうか。アカデミー出身の選手が「トップチームへ上がる」から、「トップチームを勝たせる」ようになっていくことで、チームの芯が太く、強く、ブレなくなっていくと思うのだ。


今シーズンのJ2では、新監督を迎えたクラブは少数に属する。多くのクラブが継続性を重視する中で、大宮は45歳の指揮官のもとでリスタートを切った。


長いシーズンでは、何が起きるか分からない。何が起きてもおかしくない。それでも、水戸戦で抱いた期待感を忘れることなく、チームを見つめていきたい。




戸塚 啓(とつか けい)
1991年から1998年までサッカー専門誌の編集部に所属し、同年途中よりフリーライターとして活動。2002年から大宮アルディージャのオフィシャルライターを務める。取材規制のあった2011年の北朝鮮戦などを除き、1990年4月から日本代表の国際Aマッチの取材を続けている。

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