Vol.052 岩本勝暁「最高の演出家」【ライターコラム「春夏秋橙」】


アルディージャを“定点観測”するオフィシャルライター陣が、日々の取材活動を通じて感じたことや思いを綴ります。


Vol.052 岩本勝暁

最高の演出家

JR上野から高崎線で大宮へ。巣ごもり生活が長かったからか、駅前の雑踏に少しホッとする。NACK5スタジアム大宮に向かう道すがら、氷川神社の参道をオレンジのユニフォームを着て歩く人を見かけるだけで心に安堵感が広がっていく。

明治安田生命J2リーグの再開から3カ月以上が過ぎ、「ウィズ・コロナ」での取材にも慣れてきた。DAZNによるリモートマッチは楽しめているし、オンラインでのインタビューにストレスを感じることもなくなった。毎日のうがいや手洗い、検温も完璧に習慣化している。外出時にマスクを忘れることも、今はもうほとんどない。

9月に一度、スポーツ少年団の取材で他県に出かけた。4連休の初日だったこともあり、朝イチにも関わらず羽田空港は旅行客でごった返していた。県をまたいでの移動に少し抵抗はあったものの、現地の人たちは温かく迎え入れてくれた。新型コロナウイルスの影響を感じさせたのは、最後に撮影した集合写真で自然に隣の人との距離ができていたことだ。地域によって温度差はあるものの、まだまだスポーツの現場における感染拡大防止の意識は高い。

それでも、久しぶりの対面取材は面白かった。目を見て話をするだけで、相手の心情がよく伝わってきた。会話のラリーも続いた。マスクからのぞく子どもたちの明るい表情が見られたことも良かった。スポーツの世界にも、ありきたりな光景が少しずつ戻ってきた。そんなことを感じさせてくれた出張だった。

一方のJリーグでも、9月にリリースされたガイドラインによってスタジアム観戦様式が緩和されている。例えば10月10日(土)の第25節・栃木SC戦からは、これまで一人に対して“半径1m”の距離を空けなければいけなかった座席利用が、“1席”の距離に変更された。それによって収容人数も最大約4,000人から約6,200人に増えている。コロナとのせめぎ合いは続くが、運営に携わる全ての人の尽力によって試合が成立していることを忘れてはいけない。

子どもたちによるフレンドリーマッチも行われるようになり、今後はダンスパフォーマンスなどのショーイベントも段階的に実施されるという。各種イベントが再開されれば、スタジアムに足を運ぶ楽しみも広がることだろう。

ただ、静かなスタジアムだけはどうしても慣れない。これが本心。

もちろん、Jリーグが設けた禁止事項<大声での発声、歌唱、声援、罵声など>は遵守しなければいけない。盛大な拍手に心を揺さぶられることもある。でも、大事なのは耳に届く具体的な音ではなく、そこにいるだけで感じられる熱量ではないだろうか。

NACK5スタジアム大宮で行われたここ数試合の入場者数を見ても、第25節・栃木戦が1,389人、第23節・水戸ホーリーホック戦が1,917人、第21節・徳島ヴォルティス戦が1,312人と、天候の影響もあるとはいえ決して芳しくない。どうしても、そこに寂しさを感じてしまう。

単刀直入に言うなら、チームの背中を押し、試合を盛り上げる最高の演出家は、やはりファン・サポーターだ。コロナ禍で遠のいてしまった足を、もう一度、スタジアムに向けてほしい。

一日も早く日常が戻ることを、心から願っている。


岩本 勝暁 (いわもと かつあき)

2002年にフリーのスポーツライターとなり、サッカー、バレーボール、競泳、セパタクローなどを取材。2004年アテネ大会から2016年リオ大会まで4大会連続で現地取材するなど、オリンピック競技を中心に取材活動を続けている。2003年から大宮アルディージャのオフィシャルライター。

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