Vol.050 岩本勝暁「トンネルの先の光」【ライターコラム「春夏秋橙」】


ピッチで戦う選手やスタッフの素顔や魅力を、アルディージャを“定点観測”するオフィシャルライター陣の視点でお届けします。

Vol.050 岩本勝暁
トンネルの先の光


4カ月という時間の長さを痛切に感じた。

6月27日、2020明治安田生命J2リーグが4カ月ぶりに再開した。2月23日の開幕戦以来、待ちに待った瞬間だ。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大防止策として、リモートマッチ(無観客試合)という特殊な環境下での開催。スタジアムに入場できる記者やカメラマンの数も大幅に制限され、僕も自宅からDAZNで試合の様子を見守ることになった。

もちろん、できることなら現場で見たい。しかし、緊急事態宣言が発令されてからは、僕たち報道陣にも新しい取材スタイルが求められている。ステイホーム中は、デジタルVAMOSもウェブ会議システムを利用したオンライン取材に限られた。ならば、新しい様式を楽しむのも一興ではないか。そう思い、キックオフの1時間半くらい前から自宅のパソコンに向かい、準備を始めた。

クラブも様々な施策に取り組んでいる。その一つが、仮想ファンコミュニティの「橙広場オンライン」だ。さっそく、前もってダウンロードしていたスポーツエンターテイメントアプリ「Player!」を立ち上げた。司会のMCタツさんとクラブアンバサダーの塚本泰史さんのトークを聴きながら、ノートにスタメンを書き写すなどいつも通りの準備を進めていく。スタメンに抜擢された西村慧祐、小野雅史は活躍できるのか。フォーメーションは3バックか、それとも4バックか。あれこれと思いを巡らしながら、キックオフの笛が鳴らされるのを待った。

折を見て、わずかばかりの投げ銭を投入する。クレジットカードの決済もスムーズで、手続きにかかるストレスはほとんどなかった。SNSなどで事前に言われていたことだが、設定された最低金額を下げて素晴らしいプレーやゴールシーンに対してタイムリーにお金を投じられるようになると、楽しみ方がより膨らむのではないか。収益はクラブにも還元されるそうなので、今後も機会があれば参加したい。

キックオフまで10分を切った。ここでパソコンの画面をDAZNに切り替える。いよいよ始まるという高揚感、少し不思議な感覚で試合開始のホイッスルを聞いた。

試合が始まればいつものサッカーだった。躍動する選手の姿、体と体が激しくぶつかる音、レフェリーのホイッスル――、スタンドにファン・サポーターがいないということを除けば、いつものJリーグと何も変わらない。むしろ、ズームアップされた選手の表情が分かりやすく、これもリモート応援の醍醐味の一つだと思う。課題はあるが、スポーツとの多様な関わり方という点で考えれば、まずまずのスタートを切ったと言えるだろう。

4カ月のブランクを感じることになるのは、僕自身のパソコンのキーボードをたたくスピードか。原稿を書くペースがつかめない。書いては消し、消しては書いてを繰り返す。でも、慌てることはないと個人的には思っている。何しろ、トンネルの先の光はようやく見えてきたばかりだ。

確かなのは、コロナ禍という非日常の中に、いつものサッカーの光景が戻ってきたという現実である。


岩本 勝暁 (いわもと かつあき)

2002年にフリーのスポーツライターとなり、サッカー、バレーボール、競泳、セパタクローなどを取材。2004年アテネ大会から2016年リオ大会まで4大会連続で現地取材するなど、オリンピック競技を中心に取材活動を続けている。2003年から大宮アルディージャのオフィシャルライター。

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