ピッチで戦う選手やスタッフの素顔や魅力を、アルディージャを“定点観測”するオフィシャルライター陣(たまにクラブスタッフ)の視点で、毎月1回程度お届けします。今回はクラブ公式メールマガジンを執筆しているMCタツが担当です。
他とはひと味違う、大宮の“シャレン”
大宮アルディージャが取りくんでいる手話応援が、Jリーグが主催する『シャレン! アウォーズ』にエントリーされた。
大宮アルディージャは年に一度『手話応援デー』と題して、スタジアムに多くのろう者を招いている。手話応援とは、言葉を発しなくてもチャントの歌詞を手話で表現し、スタンドからエールを送る画期的な応援の仕方である。
オフシーズンには選手たちが大宮ろう学園を訪問し、互いに行き来する形で交流を深めるなどしながら、手話応援の文化を育てあげてきた。2006年に始まった手話応援デーは2020シーズンで12回目を迎え、今ではクラブの代表的な社会連携活動の一つとなっている。
昨年、大宮の手話応援について取材をしていたとき、クラブスタッフや選手たちの言葉に何度もハッとさせられた。
クラブスタッフの池田正人さんは「『社会貢献』という言葉が独り歩きしている。『貢献』という言葉とは、別の言葉を見つけないといけない」と話してくれた。
池田さんの言葉は、Jリーグのクラブはそもそも『クラブはその地域のもの』という信条から発せられた言葉だ。そう言われてみると、本来クラブと地域は二人三脚で歩むパートナーのような関係であり、『社会貢献』という言葉を使うのはしっくりこない。地域の人々がクラブを活用することは当たり前なのである。
しかしながら、それがスムーズにできていないクラブが、まだまだJリーグにはたくさんあるのだろう。だから、わざわざJリーグも『シャレン(社会連携)』という組織を作り、そういう心掛けでいるよう各クラブに投げかけているのだ。Jリーグも貢献という言葉は使わず、連携という言葉を使っている。
大事なのは、全ての前提において『クラブはその地域のもの』ということを、常にクラブが意識できているかどうかであって、「Jリーグから社会連携と言われたので、それをクリアするためにいくつか活動を行っています」というような意識では、ダメだということ。
大山啓輔選手は毎年行っている大宮ろう学園の訪問について、「障がい者の方に何かを与えている感覚は全くない。純粋に僕らが楽しいから行っている」と話してくれた。大山選手は大宮ろう学園に訪問し、選手としての気づきも得られたという。
「日々過ごしている中で見落としてしまっている、楽しいことやチャンスがいっぱいあるのかもしれないと、すごく感じるようになりました。プロサッカー選手として、いろいろできる体を授かっておきながら、みすみすチャンスを見逃しているかもしれない。もっと自分が熱量を持ってやっていれば成功していたことも、失敗で終わっちゃっていることがあるんじゃないか。(中略)自分に与えられたチャンスに、全力で向かっていけているか――。そういうことをすごく自分に問いかけました。今、自分が与えられた立場で試合に出られなくても、練習や与えられた環境の中で、全力でやれているか。それをもう一度考える良いきっかけになりました」(大山選手)
私が強く訴えたいのは、社会と密接となることは、実は選手のためになっているという事実である。地域のためにという一方的なことではなく、選手のためにもなっているということ。その双方向が成立していることが、本当の社会連携と言えるのではないだろうか。
サッカークラブは社会と密接でなければ強くならないし、サッカー選手も社会と密接でなければ成長していかない。これを知っている大宮アルディージャは、この先もどんどんクラブとして成長していくであろうことは自明の理である。
※『シャレン! アウォーズ』は3月31日(火)13:00まで一般投票を受け付けています。
MCタツ
ニコ生サッカーキング ハーフ・タイム初代MC。フリーランスでインターネット番組の制作(企画、キャスティング、構成、制作まで全て)、スポーツ系の書籍やインターネットコンテンツの企画編集をしている。2019シーズンからは大宮アルディージャの公式メールマガジンでも執筆を担当。