今野浩喜の「タダのファン目線記」 盆栽美術館編①
今野さんが“タダのファン目線”でクラブ関係者らに逆取材を敢行するシリーズ企画から一転、迷走する雑談コーナーとなっている本連載。前回のキャンプに続いて、今回は今野さんが個人的に気になっていたという、さいたま市大宮盆栽美術館を訪れてみた。
副館長の登場
今野「よろしくお願いします。今野です」
岩崎「副館長の岩崎です。私は、去年の4月にこちらの大宮盆栽美術館に来たので、まだ1年くらい。ご案内がたどたどしいかと思います」
今野「美術館自体は、もっと前からありますか!」
岩崎「平成22年3月28日にオープンしたので、今年で12年目になります」
今野「ほ~」
岩崎「順番にご案内しましょうか」
今野「駐車場から玄関までの道中が、すごく気持ちよかったです」
岩崎「ありがとうございます! 美術館に行くぞって感じがしますよね。私は門で、よく頭をぶつけるんですけど(笑)」
今野「へへへ……」
岩崎「2回くらいは」
今野「背が大きいですからね」
季節のひとさしがお出迎え
岩崎「最初にお客さまの目に止まるのが、こちらの季節のひとさし。いまは雪柳ですが、昨日までは桜がありました」
今野「桜は、これからなんじゃないですか?」
岩崎「今は外に出してあります。1週間も屋内にいると、かなりストレスがかかるようで。まぁ、私の言っていることの半分くらいは嘘かもしれないですけど」
今野「ふははは……」
岩崎「雪柳はもうひとつ展示してあって、そっちは花が咲いています」
今野「柳って花が咲くんですか?」
岩崎「そうなんです。このあたりだと、荒川にかかる橋の下に自生していますね。ここに来る前、私は自然豊かな西区役所で、花に囲まれて仕事をしていたので……」
今野「ふ~ん、半分くらい嘘なんでしょう」
岩崎「そうなんです(笑)」
今野「あははは……」
岩崎「盆栽の見方には大きくふたつあって、まずは正面と裏。その両方から楽しめます」
今野「右上に流れる形が自然に見えますね」
岩崎「……」
今野「日本地図が右上がりだからじゃないかと思っているんです」
岩崎「確かに。見方のもうひとつは、屈んで下から見上げるということ。小さい盆栽でも、そこに小宇宙があるってことですね」
今野「(説明書きを見ながら)ふ~ん、清香園かぁ。……清香園って、与野本町の焼肉屋じゃ?」
岩崎「大宮盆栽村のなかにある盆栽屋さんです(笑)」
今野「そうですか」
岩崎「この時期のモミジは、葉っぱがなくて枝だけですけど、その枝の細やかさみたいなところにも魅力が……」
今野「普通の木にしか見えないですけどね。うちにもありますけど……」
岩崎「持っているんですか?」
今野「盆栽じゃないですけどね」
岩崎「等身大のやつですか。モミジは、私もここに来たときに何かひとつ買おうと思って買いましたけど、まだ枯れないでいます」
今野「ちゃんと紅葉しますよね」
岩崎「します! 秋は、とくに素敵ですよね。だけどモミジは春夏秋冬、葉がない時期も楽しむことができますよね。芽が吹いてきたときの爽やかさとか」
今野「不安になりますけどね、ちゃんと生えてくれるのか」
岩崎「確かに(笑)。これが、さっきロビーにあった雪柳です」
今野「こんなに花が咲くんですね」
岩崎「はい。コロナ禍なのでボランティアさんの案内を止めていて、ここでバーコードを読み取って番号を入れてもらうと、音声案内が聞けるようになっています」
今野「岩崎さんもう帰っていいですよ」
岩崎「そっちの方が正確ですね(笑)」
今野「いやいや。これは誰が話しているんですか?」
岩崎「業者さんです」
今野「新しく声を入れるときは、俺にやらせてください」
岩崎「いいですか!」
白い盆栽の謎
今野「それにしても、これはすごい盆栽ですね。推定樹齢200年だって」
岩崎「なんて読むんでしょうね、紫泥外緑長方鉢……」
今野「こっちは、なんでこんなに白いんだろう?」
岩崎「盆栽技師さんを呼んできますので聞いてみてください。齊藤さ~ん、大丈夫?」
齊藤「すぐ行きます……盆栽技師の齊藤と申します。よろしくお願いします」
今野「失礼ですけど、おいくつですか?」
齊藤「36歳になります。盆栽界に飛び込んだのは30歳前なので、まだ6年くらいで、まだまだですけど師匠や先輩方からいろいろ教えていただきました」
今野「これはなんで白いんですか?」
齊藤「だいたい冬、葉っぱがない時期にしっかりと枝を洗ってあげるんです。ブラシとか高圧洗浄で洗うことで、幹肌が出てくるので」
今野「へ~、皮が取れている状態ですか?」
齊藤「若い枝は、もう少し緑がかっているんですけどね。あとは薬でもこのような色に」
今野「薬の色でもあるんですね」
厳しい自然が作り出した美
今野「これは推定年齢350年越え……」
齊藤「もともとは山のなかで、250年くらい育ってきたものですね」
今野「自然のなかで、この大きさだったんですか?」
齊藤「だと思います。葉っぱも、こんなに充実してなかったはずです。五葉松は高山系の植物で、十分に根を張れない環境で強風や雪にさらされていたんだと想像します」
今野「天然でこんな形に……」
齊藤「この骨の形は、自然しか作れないものです」
岩崎「そういう場所にあったということですか」
齊藤「ですから、我々職人もこういった松を見本にして、それに近づけようとしています」
今野「すべて人の手で曲げているのかと思っていました」
齊藤「ゼロから作り上げるのは困難です。9割以上が自然の力です」
岩崎「ってことは、齊藤さんとか私の代じゃムリなんだね」
齊藤「一代ではなんともなりません。松類の良さが出てくるには、少なくても100年……」
今野「じゃ、孫に設計図だけ渡して」
齊藤「そうですね(笑)。一方、モミジのような雑木類は20、30年で形ができてくるので、しっかりした育成ができれば、一代でも良いものができると思います」
今野「ゲスなこと聞いていいですか? この美術館で一番高い盆栽は?」
齊藤「一周見ていただければ、もしかしてこれかなっていうのがわかるかもしれません」
今野「値段は、樹齢とかに比例しているものですか?」
齊藤「そこまで単純ではなくて、木の形とかバランス、あとは歴史的な背景も関係します。誰が所有していたのか、とか。だけど結局、盆栽の値段を正確に決めることは難しくて、その人その人で価値は変わります」
今野「買った値段をキープできるとも限らない」
齊藤「そうですね」
今野「この取材、何時からやってますっけ?」
岩崎「10時です」
今野「あっという間だな」
齊藤「ほぼ一周しましたか」
岩崎「そうですね。今回、一緒に話を聞いていて気付いたんですけど、盆栽と言っても、ほとんどが自然のなかで生きてきた植物なんですよね」
齊藤「そうなんです。盆栽として楽しまれるようになったのは本当にここ100年くらいの話で、自然の成長に対して、こうなって欲しいという願望を込めて促して、より美しい姿を鑑賞できるように手助けしている感じですかね。人間本位の考え方ですけど」
岩崎「となると、最終的には、そんな姿を見て癒されてほしい?」
齊藤「そうですね。盆栽から気をもらってもいいし、楽しみ方は各々でいいと思います。手塩にかけて育てた盆栽が、冬を越えて花を咲かせるだけでうれしいですからね。あるいは、盆栽園を訪れて推しの盆栽を見つけてもらってもいいかと思います」
今野「俺は川沿いなどを歩いているとき、とにかく誰よりも早く桜が咲いているところを見たいんです。桜は枝の先から咲くのか、木に近いところから咲くのか。どう思います?」
齊藤「日当たりじゃないかと思います」
今野「場所は関係ない?」
齊藤「夜はしっかり冷えて、それでいてよく陽が当たるような場所。もちろん、土の状態とかも関係あるんでしょうけど。早く見つけたいなら南側を意識してもらえると」
今野「わかりました。そろそろ、少し座ってお話しましょうか」
次回に続く
構成:粕川哲男
協力:さいたま市大宮盆栽美術館
〒331-0804埼玉県さいたま市北区土呂町2-24-3