Vol.008 早草 紀子「15年後の再発見」【ファインダーの向こうに】

クラブ公式サイトなどで目にするアルディージャの写真は、その多くがプロのカメラマンが撮影したものです。彼らが試合中に見ている選手たちの姿は、スタンドから見ているそれとは少し違います。ファインダー越しにしか見えない風景を、クラブオフィシャルカメラマンが綴ります。

Vol.008 早草 紀子
15年後の再発見


現在、多分に漏れずしっかりとSTAY HOME敢行中だ。こういうときこそ、これまでいくどとなく見て見ぬフリをしてきた過去の写真たちの整理という作業をすべき! そう決意して半月……。ようやく重い重い腰が上がった。

とはいえ、膨大な量だ。せっかくなら気持ちが上がる試合からと手にしたのは、2004年のJ1昇格が決まった水戸ホーリーホックとの一戦だった。この試合の写真を最初から振り返るのは初めてのこと。16年ぶりに開いたフォルダには、懐かしさだけでなく、今だから手が止まるシーンが眠っていた。

悲願のJ1昇格まであと1勝。満員のホームゲーム。10連勝の勢いそのままに、押せ押せの前半を見れば大宮のゴール奪取は時間の問題だった。CKから奪った森田浩史(現・大宮アルディージャU-15監督)の先制点は歓喜と安堵が入り混じっていた。その後、トゥットの追加点でボルテージは最高潮に。残り24分でピッチに飛び出してきたのはバレーだ。

だめ押しのゴールをたたき込むのに、登場から5分とかからなかった。バレーが奪ったボールは、トゥットへ渡る。1対1の好機を前にしたトゥットが選んだのは、逆サイドに走り込んできたバレーへのラストパスだった。ゴールを見届け、自分のことのように両手を広げて喜ぶトゥット。そこへ一目散にかけ寄るバレーは晴れ晴れしい表情だ。次々と選手たちが歓喜の輪に加わっていく。と、ここまではどの瞬間をどう切り取ったのか、おぼろげながら記憶に残っている。

「こんなのあったっけ?」と写真を追う手が止まったのは、その輪が解けた後に残された二人の姿だった。二人は最後におでこをピッタリと合わせて、二人だけで静かに感情を噛み締めていた。表情は見えずとも、その背は雄弁。翌シーズン、バレーは大宮を離れたため、二人で生み出す最後のゴールだった。喜びだけではない思いをこの一瞬で交わしていたんだと、今ならあのときよりも深く感じ取ることができる。

昇格のへの大きなうねりがあったあの日の大宮公園サッカー場。当然、決定的なシーンが求められる。そんな中、せっかくここまで粘ってシャッターを切っておきながら、15年間もスルーし続けてしまったとは何とも……へこむ。

潤沢な時間は思いもよらない再発見をもたらしてくれる。こうした瞬間の積み重ねを忘れかけていた今日この頃。あらためて気持ちをリセットさせてくれた一枚だった。

早草 紀子 (はやくさ のりこ)
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマン。

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