クラブ公式サイトなどで目にするアルディージャの写真は、その多くがプロのカメラマンが撮影したものです。彼らが試合中に見ている選手たちの姿は、スタンドから見ているそれとは少し違います。ファインダー越しにしか見えない風景を、クラブオフィシャルカメラマンが綴ります。
Vol.012 早草 紀子
報われた。ようやく報われた。第23節・水戸ホーリーホック戦、アディショナルタイム最後のチャンスで畑尾大翔選手の決勝ゴールが決まったとき、真っ先に浮かんだのがこの感情だった。なかなか勝利をつかめなかった8月、V字回復のきっかけを探し続けた9月……。さまざまな立ち位置にいた畑尾選手も、もがき続けていた。
「ここだぞ! 集中しろ!」
相手の流れに引き込まれないよう、セットプレー時には必ず手をたたき、声を張り上げた。たとえ自分の立っている場所がベンチサイドであってもその姿は変わらない。
「ナイス! ナイス!」
大量失点を重ねても、ピッチの覇気を生み出す声をライン際から届けた。
どんなに気持ちを切り替えて臨んでも結果につながらない時期、失点後のピッチに拳をたたきつけたこともあった。敗北の瞬間に立ち上がれないこともあった。それでも貫いたのは、静まり返ってしまいがちな味方を鼓舞し続ける姿勢だった。
そんな畑尾選手が2試合続けて試合を決めた。「マジ、神……」と思わずつぶやいたのは私だけではないはずだ。何より、やっとホームでファン・サポーターと共感できる勝利へのゴールだ。選手みんなのはじける表情とスタジアムが沸き上がる熱量。忘れかけていた感情を一気に思い起こさせてくれた。
そこに潜むプラスアルファを知ったのは、ゴールから数秒後のこと。畑尾選手が一目散にゴール脇に置かれたボールにかけ寄り、ユニフォームの中に仕込む……。途中でチラリとこちらを見た。はい、逆ロックオン! 「お? 珍しいな〜」と思いながら向かって来るのを待っていると、繰り出されたのはポッコリお腹におしゃぶりポーズ。「そうなんだ!」。わずか1、2秒で彼のメッセージは伝わった。「承知した」とうなずきながら、カメラ前でのパフォーマンスをしっかり残させていただいた。
畑尾パパ、次はゴール後のゆりかごパフォーマンスをお待ちしておりますよ!
早草 紀子 (はやくさ のりこ)
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマン。