Vol.013 早草 紀子「目は口ほどに」【ファインダーの向こうに】

クラブ公式サイトなどで目にするアルディージャの写真は、その多くがプロのカメラマンが撮影したものです。彼らが試合中に見ている選手たちの姿は、スタンドから見ているそれとは少し違います。ファインダー越しにしか見えない風景を、クラブオフィシャルカメラマンが綴ります。



Vol.013 早草 紀子
目は口ほどに


ピッチ上で大切なのはメリハリだ。90分間をトップスピードで走り続けるのは無理な話だけに、重要なのはスイッチ。それが最も分かりやすく現れるのが“目”なのではないだろうか。

私が選手たちを追う中で、注視しているのは視線だ。目は口ほどにモノを言う――とはよく聞くが、口に出すよりも早く伝わることがあるのを、ファインダー越しに気づかされることが日常茶飯事だったりする。

黒川淳史選手のスイッチは試合中だけでなく、ウォーミングアップのときにも見ることができる。あえて試合中でない場面の一枚を選んだのは、試合に向けて最も気持ちが高まっているのが、仕上げのダッシュ時の“目”にあるように思えたからだ。ユニフォームをまとう前にできる最後の調整だからこそ、見えてくる感情もある。

今回のコラムは黒川選手でいこうと決めていた。“アカデミーっ子”で「10番」を背負った彼が、今シーズンへ懸ける思いはひとかたならぬものがある。コロナ禍というイレギュラー過ぎるシーズンになってしまったが、その意気込みは一試合ごとに感じるところだ。

さらに、写真的にとても“フック”の多い選手でもある。必ずピッチに優しく触って入場をするとき、わずかに届かず逃したビッグチャンスを悔しがるとき、CKで呼吸を整えるとき、勝利して緊張感から解き放たれて安堵するとき――。10番らしい貫禄を感じることもあれば、22歳の青年らしい純粋さを感じることもあり、実に面白みのある選手だ。

なかなかうまく捉えられないのが、小島幹敏選手とワンタッチパスを交換しながら小気味良いテンポで相手陣内へ攻め入るときに見せる控えめの高揚感。これが“控えめ”なもんだから、写真になると分かりにくい。

ただ、いつもその表情を見るたびに、「きっとこういうプレーをもっとしたいのだろう」と思うのだ。撮っているこちらも一瞬で、何かが起こりそうな緊張感に包まれる。あの空気感を切り撮るには……どうしたものか。この一連の写実化は今後の宿題にさせてもらおう。

早草 紀子 (はやくさ のりこ)
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマン。

FOLLOW US