【大宮アルディージャVENTUS PRESS】斉藤雅人

デジタルバモスでは毎月1回程度、大宮アルディージャVENTUS情報をお届けします。今回は、強化担当として奮闘した斉藤雅人氏に話を聞きました。

Vol.015 文・写真=早草 紀子

「VENTUS“らしさ”とは、クラブと選手とサポーターの“つながり”」(斉藤雅人)

ゼロからスタートした大宮アルディージャVENTUSのWEリーグ初シーズンが終了した。多くの選手が昨季までなでしこリーグで戦ってきた。秋春制を導入したWEリーグ初年度は活動期間が1年5カ月に及ぶ異例の長期間ということもあり、選手たちのコンディション調整は厳しかった。ケガ人も多く、思うようなメンバー構成が築けない時期もあった。天然芝のピッチを求めて練習場所を日々点々とするストレスもあっただろう。それでも密にコミュニケーションを取ることで乗り越えてきたVENTUSは、終盤に勝星を拾えず悔しい9位フィニッシュ。一方で、狙いを持って臨んだ後期は躍動的な攻撃スタイルも垣間見えた。強化担当の斉藤雅人氏は初年度のチームをどう見ているのか。


開幕直前の就任

——斉藤さんが強化担当として着任する前、女子サッカーについてはどんな印象を持っていましたか?
「なでしこジャパンの監督をされていた佐々木則夫さんは、僕が大宮アルディージャに入った1年目の監督でもありましたし、その後、中村順さんがコーチに、岡本隆吾さんがフィジカルコーチに入ったりと、縁がある人たちが携わっていたので関心はありましたが、そこまでじっくりと見る機会はあまりなかったんです」

——強化担当になったのは開幕ギリギリのタイミングでしたよね。
「ホントにギリギリでした。プレシーズンはとっくに終わって、最初に話があったのは8月中旬。9月の開幕の12週間前でした(苦笑)

——その時期でも環境が整っていたとは言い難い状況でした。
「まずは選手に話を聞くところから始まりました。誰を中心に回っているのかすらわからない状態で入りましたから……。サッカーのことより、環境面の問題への声が大きく、ケガ人の人数を聞くとかなり多かったんです。すべての原因ではないですが、ケガの一因と考えられる人工芝から天然芝への練習場の切り替えを最初に着手しました」

——当初のVENTUSの印象は?
「とにかく明るい! VENTUSだからなのか、女子チームだからなのかわからないんですけど、みんなが積極的にコミュニケーションを図って、ああでもない、こうでもないと言いながら積みあげてました」

——そして迎えた開幕戦の相手はINAC神戸レオネッサでした。
「相手のことはまったくわからな過ぎて選手たちに『INACってどうなの?』と聞くと『10失点しなければいい方だと思います』と冗談か本気かわからない答えが返ってきて……でも前半にババっと点を取られるのを見て『ホントだ』と(苦笑)

——現実を突きつけられて、すぐさまシステムを変更しました。
「I神戸との試合はもちろん、そのほかの試合を全部チェックしていくと、だいたいウチはこのへんなんだろうなと順位予想を立てました。その上で、じゃこういうことが必要だろうということで、きちんと守備を[4-4-2]でベース作りをしないと大変なことになるとスタッフに話しました」


女子サッカーの魅力と課題

——初めて女子サッカーに携わって、試合を重ねていくうちに見えてきた女子サッカーの面白さは、何かありましたか?
「スピード感は男子に比べるとないと思うんです。でも逆に言うと、サッカーそのものが男子よりゆっくり流れていると言える。なので、サッカーそのものの楽しさ——例えばシステムがこうなってて、ポジショニングがこうで、どこに原因があるから失点しちゃったんだなとか、どこが良かったからシュートまで行ったんだな、というのが時差なく感じ取ることができる、理解することができると思います。意外にって言ったらダメなんですけど、すごくうまいんですよ彼女たち。面白くパスがつながる形とかすごくあるんですよね」

——それ、わかります。他のチームや監督の指揮の仕方など、自チーム以外にも目を向けたと思うのですが、気になったチームや、WEリーグの特長は何か感じました?
「やっぱりクオリティの高い選手がそろっているチームはアイデアもすごく出てくるし、おもしろいですよね。日テレ・東京ヴェルディベレーザとかはやっぱりうまい。最後のところで一手間二手間加えられる。あと、チームによって本当にいろいろなサッカーをしていて、WEリーグは個性を出せるリーグなんだと思います。男子だと守備を固めて守って何とか、1点獲ればという戦い方のチームも多いですが、WEリーグはまず自分たちの良さを出していく戦いをしている気がします」

——プロ化されて各チームがカラーを出して行こうとしているので、その影響もあるかもしれませんね。そんなプロ元年はあっという間でしたか?
「僕はまだ9月からなので、あっという間でしたけど、選手たちにとっては異例の長さだったので、『本当に疲れました』と言ってますね()。ただ、リーグの試合数がすごく少ないですよね。公式戦でしっかりとした数を戦えないと厳しい。ケガで23試合外れると、もうリーグはあと数試合しかないという状況になってしまう。そこからチャンスをつかんでピッチに出てっていうのができないので、少しのケガでも、シーズンが終わってしまうんです。なかなかリズムがつかめなかったり、連敗したら巻き返すチャンスも少ない。これはWEリーグの課題だと思います」

——かといって、40試合となるとそれはそれで厳しいですし……。
「予算的にも難しいでしょうね。ホーム&アウェイを考えなかったら、3巡くらいがちょうどいいのかな」

VENTUSはどこを目指す?

——本当に今季はどこのチームもケガが多い。VENTUSもかなり多いですよね。
「多いですね。複合的な原因があると思いますが、試合や練習の強度が上がったというのもあるんじゃないかと思ってます。今まで出してなかった強度を求められるから。今までのなでしこリーグを知らないので何とも言えないですが。本当にウチは多かったので、そこは本当に見直す必要があり、予防のメニューをよりしっかりと取り入れていくつもりです」

——後期に入って、ケガ人が少しずつ戻ってきたりもしつつ、面白い攻撃の形の数々を目にしました。
「守備に時間を割いた前期を終えて、選手一人ひとりと面談をしたんですよ。やはり多くの選手からもっと攻撃に取り掛かっていきたいという声がありました。ある程度無失点に抑える守備も身についてきていたので、中断期間中は攻撃に時間を割いていたので後期は自分たちのやりたいことが出せたのだと思います」

——ジワジワとVENTUSの良さが出てきましたね。
「みんな本当に練習からストイックにやってくれますし、すごくコミュニケーションを取ってやっています。そこはVENTUSの良いところだし、そうできるようにしてくれているベテラン勢には感謝してます。初めて女子チームを持つということでクラブとしても足りないことがたくさんあって、選手たちには本当に苦労をかけました。そこをベテランがバランスを取ってくれていたと思います。ただ、あまりチームのこと、チームのためにと考え過ぎずに背中で見せてもいいよって思うところもあります。もう十分やってくれているので、気を使い過ぎず自分自身が楽しんでプレーしてほしいと思う一面もあります」

——VENTUSらしさはどう表現していきますか?
「大宮アルディージャというチームの前身がNTT関東、電電公社と言われている通信事業を生業としている会社です。いまはインターネットという手段に変わってますけど、人と人とをつなぐっていうのがチームの流れ。大宮という街もかつては中山道の宿場町であったり、いまで言うと東日本の玄関口でもある。飲食店や商業施設もたくさんあって人と人とがつながりあって成り立っている街です。大宮アルディージャというチームも人と人がしっかりつながっていく、選手と選手にボールがつながってゴールまで届ける、サポーターと選手がつながってあのNACK5スタジアム大宮で一つのものを作る——クラブと選手とサポーターのつながりというのが、VENTUSらしさだと思うので、“つながり”をキーワードにしていけたらと思ってます」

「15番」の継承者

——話はガラっと変わりますが、どうしても聞きたかったことがありまして……。ウィンターブレイクに東洋大から加わった林みのり選手は、斉藤さんと大山啓輔選手で口説き落としたというのを小耳に挟んだのですが、本当ですか?
「そうそう()。去年、僕がVENTUSに入って外部のところからも人材を取りにいかないといけないということで関東大学リーグを見に行ったんです。9月に見に行ったときに4年生はもうほとんど行き先が決まっているなかで、林がまだ決まってないと聞いてすぐにオファーを出したんです。何チームか競合していたんですが、どうしても欲しい戦力だったので、『15』という番号を用意して、その意味を伝えたいと思いました。クラブハウスに来てもらったときにちょうど啓輔がいたので、『ちょっと一緒にやろうよって言って!』と()。林にしてみればなんのこっちゃわからなかったと思いますけどね()。たまたま東洋大の監督が大宮アルディージャのユース、Jr.ユース、東洋大の出身だったので、逆に彼のほうが『15番』の重みを知っていて、林に説明してくれたと聞いています。おそらくそれで決めてくれたのではないでしょうか()

——キメ台詞はなんだったんですか?
「そんなのないですよ()。ただクラブがすごく大事にしている番号であるということと……テクニックとインテリジェンスのところは僕自身も現役時代にすごく大事にしていたし、啓輔にもそこを託したところもあります。あとはクラブへの愛を『15番』をつける選手には持っていてほしいと」

——新旧の15番に挟まれては落ちない訳ないですね。それに……斉藤さんと林選手、プレースタイルが似てます。
「やっぱり? じつは僕も少しそう思ったんですけど」

——いろいろハマり始める来季が楽しみです。最後に来季はどんなところを高めていきたいですか?
「初シーズンは、やり切ることで精一杯になってしまいました。2年目はサッカーの中身でも成長を見せて、サポーターの皆さんと喜び合える瞬間をたくさん作りたい。やっぱり一番はホームでの勝利! NACK5スタジアム大宮で皆さんと一緒に勝利を分かち合いたいです」


斉藤 雅人 (さいとう まさと)

1975年12月1日生まれ、埼玉県出身。1998年から2009年まで大宮アルディージャでプレーしたクラブのレジェンド。テクニックとインテリジェンスあふれるプレースタイルで、ファン・サポーターの支持を集めた。引退後は指導者や強化担当としてクラブで活躍している。


早草 紀子(はやくさ のりこ)

兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。女子サッカー報道の先駆者であり、2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマンを務める。

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