【聞きたい放題】石川俊輝「チャレンジャーらしく泥臭く」

選手やスタッフにピッチ内外に関わらず様々な質問をしていく本コーナー。今回はヴァンフォーレ甲府への期限付き移籍から2年ぶりの復帰となった石川俊輝選手に話を聞きました。

聞き手=須賀 大輔

「チャレンジャーらしく泥臭く」


予想外の復帰打診

――「お帰りなさい」の言葉であっていますか?
「新たな気持ちでやりたい思いのほうが強いですね。正直なことを言うと、一昨年の最終節のザスパクサツ群馬戦がアルディージャのユニフォームを着てプレーできる最後の試合だと思っていました。またこうやってアルディージャのユニフォームを着て戦えるとは思っていなかったのですごくうれしい気持ちです」

――群馬戦が最後になるかもしれないと思ったとは、どういうことですか?
「選手として必要とされるクラブでプレーしたいと思うのは当たり前だと思います。それに必要とされていないのに残るのは失礼だとも思っていました。一昨年の最終節直後はまだ漠然とした感じでしたけど、感覚的に最後になってしまうような気がしていました。そのときにヴァンフォーレ甲府が必要としてくれた。それは本当にありがたかったです」

――レンタル移籍なので帰ってくる前提だと思っていました。
「完全移籍の意識で行っていましたし、戻る前提で行くのは失礼だと思っていました。そのなかで、今回はアルディージャのほうが僕を必要としてくれた。もちろん、アルディージャへの思いはずっとありましたし、いつになってもオレンジのユニフォームは着たいモノです。いつでも、戻れるなら戻りたいと思っていましたし、アルディージャが特別なクラブであることは変わらないですね」

――「戻って来い」と言ってくれたのは、どなたですか?
「(橋本)早十さんですね。オファーをもらったときは、びっくりよりもうれしさが大きかったです。前回いた3年間は自分の実力が足りなくて結果が出せなかったので、そのことをしっかりと受け止めつつ、今回は背番号を変えましたし、本当に新たな気持ちで挑戦したいです」

――てっきり、背番号は5番を付けると思っていました。
「僕のなかでアルディージャのユニフォーム5番は隆吾さん(岡本隆吾アカデミーフィジカルコーチ)のイメージが強くて、戻ってきてその番号をもう一度付ける資格はないと思っていました。あれだけのレジェンドの方が付けていた番号を、クラブを一度離れた人間が付けるのは失礼だと思いました。それも背番号を変えた理由です。ただ、一番の理由は付け慣れた番号を付けたかったからです。自分のなかで『6』の付く背番号によいイメージがあります。16番と6番を湘南ベルマーレで付けて、甲府では26番でした。早十さんにも『背番号を変えたいです』と相談させてもらい、今回は16番を背負うことになりました」

全員で勝ち取った天皇杯優勝

――甲府での1年はどんな時間でしたか?
「ピッチでプレーする喜びを久しぶりに感じられた1年でしたね。最初は試合のスピードについていけず、空回りして苦しんでいたけど、慣れてきてからはいろいろな感覚が戻ってきました。リーグ戦の結果は苦しく、天皇杯はうまくいく、苦しみながらも充実した1年で、ピッチで仲間と喜ぶ幸福感などをあらためて感じられた1年でした」

――天皇杯優勝はどんなモノをもたらしてくれたタイトルでしたか?
「ピッチに立っていた選手だけでなく、その他の選手や監督とスタッフ、フロントの方々を含めて、本当にヴァンフォーレが一体になっていた。さらに、チームを超えて、日頃から支えてくれるスポンサーさんや地域の方々、ファン・サポーター、もっと言えば、山梨県全体が応援してくださっていることは伝わってきて、本当に力強かったです。チームやクラブを超えて地域の方々と一体となったときの強さはすごいモノがあり、すごい力を発揮できると実感しました。
それは、甲府だけでなくどのチームでも起こり得ることだと思います。アルディージャは今年でクラブ創設25周年ですけど、その25年間や前身のNTT関東時代から応援してくれている人、最近になって応援してくれるようになった人、そういう方々と一緒に戦うことが大事だと思います。NACK5スタジアム大宮の雰囲気はJリーグトップクラスだと思っていますが、いまはあの景色を見られていない選手も多いです。口で言っていても意味がないですし、結果が出ることであの雰囲気は作られてくるモノだと思うので、そこは選手が結果で示さないといけない。ファン・サポーターの方々も負ける姿は見たくないはずです。勝つ姿、戦っている姿をしっかりと見せ、あの最高の雰囲気を取り戻したいと思います」

――外から見た大宮アルディージャはどのように映っていましたか?
「常に気になっていました。アルディージャを嫌いになれないと、再認識しました。もちろん、昨季で言えば、甲府の一員としてプレーしていましたし、レンタルなのでアルディージャとの試合に出ることはできませんでしたけど、ヴァンフォーレとの試合はどっちにも勝ってほしくなかった。どちらかが負ける姿を見たくなかった。それが本音でした」

――大宮に在籍する前と在籍した後では、外からの見え方は違いましたか?
「湘南時代は憧れの目でしか見ていなかったので、勝敗に対する感情はそこまでなかったです。甲府のときと比べればぜんぜんです。逆にうまくいっていたほうが嫉妬していたと思います()。もちろん、昨季のように苦しんでいる姿は見たくないですけど、外から見ることで自分の正直な気持ちは分かりました」

プロ10年目の節目に思うこと

――今季はプロ10年目と節目のシーズンになります。
「まずはプロ10年を迎えられることに感謝したいです。家族、両親、親戚のサポートがあってこそです。また、プロ10年目という意味では、アルディージャだけでなく、ベルマーレ、ヴァンフォーレ、育成年代で関わった方々のおかげで、それぞれのクラブに感謝しかないです。湘南での5年間があったから、いまがあると間違いなく言えますし、甲府での1年間があったから今季があると思っています。10年目を大好きなアルディージャで迎えられることは幸せですけど、これまで関わってくれた人たち全員に感謝しています」

――30歳を超え、何か変化を感じている部分はありますか?
「昨季の時点で一回り下の選手が入ってくるようになり、『歳取ったな()』とは思いつつも、ルーキーや若手と話す機会は20代半ばのころよりも増えたと思います。今季で言えば、初日の練習でフミ(高柳郁弥)が隣にいて話しました。自分が若いころにお手本にしていた先輩の行動を伝えたり、練習姿勢で見せたりすることは意識しています。そういうことを若いうちに知っておくだけで数年後の成長速度がぜんぜん変わってくる実体験があるので。僕は、3年やれればいいくらいの選手だったけど、先輩たちに助けられてここまでやれた部分があるので、今度は自分が伝えていくべきだと思っています。
もちろんプロは競争の世界で、言わない人もいるかもしれないけど、僕は“競争意識が低い”タイプなので……()。誰かを差しおいてという気持ちはないですし、若手が成長してくれればチームにとってプラスです。若手の成長に自分も刺激され、もっとやらないといけないとなればプラスの効果しかないですから。自分は優勝も降格も知っています。いろいろな経験をしているからこそ言えることがあると思うので、そこは惜しみなく伝えていきたいですね」

――プレースタイルの変化はありますか?
「この年齢になっても、『これをやれば勝てる』、『こうなってしまったら負ける』なんて分かりません。もちろん、球際で戦うとか戻るべきときにちゃんと戻るなど、大切にしていることはありますけど、それは30歳を過ぎてやり始めたわけでなく、20代のころからやっていました。そもそもエゴがないんですよね。天皇杯決勝でもPKは蹴りたくなかったですからね()。前日練習では外していたので……。たぶん、今後も『俺が、俺が』という気持ちは出てこないと思います」

チャレンジャーとして上を目指す

――今季はどんなことを発信、還元してやっていきたいですか?
「選手それぞれに性格があるので伝え方は変えないといけないと思います。キャリアによって話し方も内容も変わるはずです。そこは考えながらも、いろいろな人と話していきたいですね。表に全部、何をどう話しているか伝える必要はないと思っています。ちゃんと当人に伝わっていれば十分です。それがチームの輪から外れる選手が出ないようにすることにつながると思います。若い選手はイケイケな時期はそれでいいんです。苦しんでいる時期があれば、そのときこそ手を差し伸べてあげて何かきっかけを作ってあげられればいいと思っています」

――では、どんなことを大事にしてやっていきたいですか?
「失うモノは何もないので、どの相手にもチャレンジしていかないといけないですね。数年前、J1にいたころといまは違います。近年の成績を見ればそう考えるのは当たり前です。リスペクトし過ぎる必要はないですし、立ち向かっていくべきです。自分たちの立場を分かった上でチャレンジし続ける。きれいな戦い方に固執することなく、チャレンジャーらしく泥臭く、勝利にどん欲にやっていくしかないと思います」

――今季、約束してくれることはありますか?
「チャレンジャーだからといって、昇格を諦めているわけではまったくないです。アルディージャでJ1を戦いたい。そのためにもどの試合でもチャレンジしないといけない。試合だけ戦えばいいのかと言われればそうではなくて、日々の積み重ねがあってこその試合なので、11日を無駄にしないで立ち向かっていく姿勢はなくさずに戦い切る。それはベースとして持っていたいと思います」

――すでに、NACK5スタジアム大宮でのプレーにワクワクしていますか?
「あの雰囲気は忘れないですし、何度でも味わいたいですけど、いまはまだ毎日の練習で出し切ることを意識してやっています。まだ、そこまで先を見据える余裕はないです。もちろん、あの光景と歓声を知っているからこそ、開幕が近づいてきたら自然と気持ちは昂ると思います」

――「ただいま」の意味を込め、ファン・サポーターにメッセージをお願いします。
NACK5スタジアム大宮の雰囲気は最高ですし、そういった雰囲気をただファン・サポーターの方に作ってもらうだけでなく、一緒に作っていくことが、より一体感を作っていくためには大事だと思うので、僕たち選手と一緒に戦っていただけるとうれしいです。ぜひ、スタジアムで一緒に戦いましょう」

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