【ライターコラム「春夏秋橙」】不屈の闘志を持つCBが浦和でもがいた2年間

ピッチで戦う選手やスタッフの素顔や魅力を、アルディージャを“定点観測”する記者の視点でお届けする本コーナー。今回は、夏の中断期間にベガルタ仙台から期限付き移籍で加入した知念哲矢選手について、昨年まで2シーズン所属していた浦和レッズの番記者に紹介してもらいました。

【ライターコラム「春夏秋橙」】沖永 雄一郎
不屈の闘志を持つCBが浦和でもがいた2年間


思わず膝を打ちたくなる補強

知念哲矢が浦和にやってきたのは、2021年のシーズンオフだった。2020シーズンから始まった『3年計画』の3年目を迎えるにあたって、浦和は大刷新を実施している。槙野智章、宇賀神友弥などの大物がクラブを去り、武田英寿が武者修行のため大宮アルディージャに期限付き移籍。そして阿部勇樹と塩田仁史がスパイクを脱いだ。

大幅に選手が入れ替わるなか、一つ前のシーズンから主流となっていた、“伸びしろ”を見込んだ選手獲得をこの年も行った。その対象となったのが、大宮ユース出身の松崎快と知念だった。前年の明本考浩や小泉佳穂という成功例があったものの、「果たしてJ2の選手が浦和でやれるのか」という疑念を、少なからず抱かれることになった。しかも知念は、負傷により前年の9月以降プレーをしていなかった。プロ2年間ともフルシーズンを戦っていない選手が不安視されるのは致し方ないところだろう。

ただ、そうした不安は彼のプレーを見たことがない故のものであって、J2ウォッチャー諸兄からの評価は高く、加入発表時も「浦和にもっていかれたか!」といった感想が多かったように記憶している。当時の浦和の状況を考えても、思わず膝を打ちたくなる補強だった。

攻撃的な守備が売りのCB

「ディフェンスラインを複数ポジションこなせる左利きのCBです。外国籍FWにも負けないフィジカルの強さに期待しています」(西野努テクニカルダイレクター/当時)

「相手FWに対人で絶対に負けないところは僕の強みでもありますし、インターセプトから攻撃に向かう、僕からそのまま縦に速いボールをつけて攻撃につなげるような、攻撃的な守備が僕の特長。そこを生かしていければと思っています」(知念)

新加入会見でのコメントにあるように、知念の特長は地上戦の強さ、特に前への強さと、攻撃に直結するパス能力だ。当時の浦和で主力を張っていた岩波拓也とアレクサンダー・ショルツは両名とも、どちらかというとカバーリングに秀でたタイプで、安定感は高かったがラインが低めになる傾向があった。同時期に加入した犬飼智也と知念には、攻撃的な守備をもたらすことが期待されていた。

また、槙野の退団によりムードメーカー枠も空席となっていた。GK西川周作はキャンプ序盤の取材時に「新しいチームでそういう選手は、知念選手じゃないかと思っている。テツには盛り上げてほしいし、素質がありそう」と期待を語っている。

実際の性格はというと、沖縄出身らしいおおらかさを備えつつも、当初のイメージよりも真面目なタイプだった。一説によると、チームの裏側を撮影する人気企画『デジっち』の担当を任されたものの、真面目過ぎて企画の主旨からずれてしまったため、別の選手が担当になってしまったらしい。翌年のキャンプ時に浦和の公式SNSで沖縄の方言を紹介した際も「よく使われていると思われがちな『はいさい』や『ちばりよ』だったりは、沖縄の人は意外と使わないんですよ。より実生活で使えるような方言を選びました」と真摯に取り組み、ここでも真面目さを発揮している。

練習の合間はホテルの自室の窓を開けて「景色を見ながら地元の友達と電話をしたり、波の音を聞いて過ごしています。潮騒を聞くと落ち着くというか、やっぱりうれしいですね。埼玉では聞けないので(笑)」と、ゆったりとした時間を過ごしていた。


不屈の闘志で一時は巻き返す

シーズンに突入すると厳しい現実が待っていた。犬飼の負傷離脱でCBの3番手に繰り上がったものの、岩波とショルツの牙城をなかなか崩せない。浦和初年度は出場10試合、先発4試合にとどまった。

そのわずかな出場機会のなかでも、大きな浮き沈みがあった。最初に先発の機会を得たのは、第23節・川崎フロンターレ戦。コロナ禍に見舞われ、敵味方ともに欠場者が続出する状況でチャンスが回ってきた。試合序盤には硬さを感じさせたものの、つつがなくプレーして勝利に貢献した。

2度目のチャンスは、第24節の名古屋グランパス戦。直前のルヴァンカップでショルツが負傷したことで再び先発の機会を得た。しかしここで大きな挫折を味わうことになる。0-1で迎えた前半終了間際、相手クリアボールの処理をミスしてカウンターを招き、追加点の引き金を引いてしまう。後半も失点を喫してチームは敗戦。試合後のミックスゾーンでも「本当に悔やまれるシーンでした。レベルが高いチームなので次のチャンスがいつくるか分からない。厳しいミスをしたと思います」と、さすがにショックを受けている様子だった。それでも、最後は「次は絶対勝ちます。挽回します」と言葉を振り絞ってスタジアムをあとにした。

ショルツが軽傷だったこともあり、本人の予想どおり、その後は再びサブに回ることになる。しかしコロナ禍が猛威を振るい続け、チームから離脱者が止まらない。思いのほか早く挽回のチャンスが回ってきた。前回のミスから約1カ月後の第29節・柏レイソル戦が3度目の先発出場となった。

「この前と同じようなミスがあれば、今シーズンの出番はもうないなという気持ちでしたが、逆に割り切りました。消極的なミスで試合に出られなくなったので、積極的にやろうと前向きに試合に入れたと思います」

その言葉どおり積極プレーを貫き、攻守に渡って大いに貢献した。まずは7分、ライン間の大久保智明へ鋭く縦パスを通すと、大久保がドリブル持ち運び、最後は松尾佑介が左足で流し込む。先制点の起点となった。さらに57分には、セットプレーの流れから得点もマーク。4-1の大勝の立役者となり、見事に雪辱を果たして見せた。

相次ぐ離脱者によりメンバー選考に苦慮していたリカルド・ロドリゲス監督も、サブ組のプレーに感謝を述べた。

「誰が出ていてもパフォーマンスを維持して闘うことができているのは、監督として非常にうれしく思いますし、何より、これまで出場時間が短かった選手たちが、しっかりとピッチのなかでプレーしてくれた、準備できていたことを非常にうれしく思います。チームとして必要なタスクをしっかりとやりきってくれましたし、CKからゴールを取ることもできました。知念は非常にいいプレーをしてくれたと思います」

しかし残念ながら、知念の浦和での物語はここまでになる。翌年は同じ左利きのCBマリウス・ホイブラーテンが加入。ショルツとマリウス、息もぴったりの北欧コンビの壁は厚く、5月の練習試合では内側側副靭帯を負傷。1カ月と少しで復帰を果たしたものの、2023シーズンは結局、リーグ戦でメンバーに入ることがなかった。

首位をひた走る好調なチームにおいて、新加入選手が出場機会を得るのは容易ではないが、希少な左利きのCBとしてチームのオプションになってくれるだろう。さらには、オプションにとどまらず、“なんくるないさー”の精神と不屈の闘志によって、浦和で起こしたような巻き返し劇を大宮でも見せてくれるはずだ。

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