ピッチで戦う選手やスタッフの素顔や魅力を、アルディージャを“定点観測”する記者の視点でお届けする本コーナー。今回は、来季からの加入が内定している、東洋大の中山昂大 選手(大宮アルディージャジュニア、Jr.ユース、U18出身)、筑波大の福井啓太 選手(大宮アルディージャジュニア、Jr.ユース、U18出身)、そして大宮U18の磯﨑麻玖 選手(さいたまシティノースFC、アルディージャU15出身)を紹介します。
【ライターコラム「春夏秋橙」】平野 貴也
未来のセンターラインを担う3人の新戦力
新たな力が楽しみだ。8月17日、NACK5スタジアム大宮で行われた明治安田J3第24節のツエーゲン金沢戦の試合前に、来季新加入選手が場内であいさつを行った。すでに公式戦デビューを果たしているMF中山昂大(東洋大)に加え、特別指定選手となったDF福井啓太(筑波大)、2種登録のFW磯﨑麻玖(大宮U18)の3人は、いずれも大宮のアカデミー出身だ。
目指すは点が取れるDF
あいさつを終えたあと、ゴール裏のサポーターから名前をコールされたことについて、福井は「あんなに大勢のサポーターから、間近でコールされるのも、それをピッチから見るのも初めて。興奮しました」と喜びを隠さなかった。U12からU18までアカデミーに所属。大澤朋也や中山と一緒にトップチーム入りを目指してきた。「大学に行った時点でJ1を目指したけど、J2以下なら大宮しか考えていなかった」と出身クラブへの思いは強い。
身長は、180cm。CBとしては大きくはないが、身長175cmでもイタリア代表で大活躍したファビオ・カンナバーロをモデルに、予測の早さと強気の判断でピンチの目を摘む。ボールを持てば、「ボールを大事にするスタイルが、自分のプレースタイルになった」と話すアカデミーで磨いたビルドアップが光る。客観的に見れば、予測力や展開力が持ち味だが、サポーターに見てもらいたいプレーを聞くと、意外な答えが返ってきた。
「DFだから、ゴールを守るところや対人。でも瞬間的に一番うれしいのは、ゴールをしたとき。だから、小さいときからずっと、点が決められるDFになりたい思っていた」と、得点に意欲を見せた。体を張って失点ゼロで守り切り、自ら点を取って勝つ。かつて、アルディージャのトップチームで活躍したCBを見てきた選手らしい発想だ。
今季の後半は、主将を務める筑波大で日本一を目指すが、特別指定選手となり、Jリーグの試合も出場可能になった。スタジアムでのあいさつで刺激を受け、大学での役割を重視しながらも「練習に参加させてもらったときは、すべてを注ぐし、本気で先発出場を狙う」とアルディージャのトップチームでのデビューにも前向きだ。
トップデビュー済みのセントラルMF
福井と同期のMF中山は、今季のルヴァンカップで2試合に出場済みだ。しかし、直前合流で難しい部分もあり、持ち味を出せたとは言えない。トップチームデビューを果たせたうれしさはあるが「もっとできる、という気持ちがある」と悔しさも抱えている。今は、長身のセントラルMFとして役割が明確になっているが、アカデミーではあらゆるポジションを経験した。U12では、技術と速さを生かして、大澤朋也との2トップで活躍。中学生になると1年間に13~14cmも身長が伸び続け、すばやく動けないもどかしさを感じたが、U15からU18ではサイドハーフ、SB、CB、ボランチと複数のポジションを経験。「それぞれのポジションの楽しさを知ったし、どう動けば隣のポジションがラクなのか気づいた」とサッカーIQを高めていった。
U18時代から度重なるヒザの負傷に苦しんできたが、東洋大では、異なる感覚や考えを持った選手たちに出会い、心身両面でタフさを身につけてきた。今季は、福井と同様に大学で主将を務めている。コントロールタワーとして中盤の潤滑油となり、なおかつ自ら前に運んでゴールを狙えるプレーが持ち味だ。今季の後半に向けた抱負を聞くと「まずは大学で、啓太がいる筑波に負けないように食らいつきたいし、全国大会に出たい。大宮のトップチームでは、カップ戦2試合に出たけど、悔しい思いがすごくある。どこかでチャンスがあれば、試合に絡んで目に見える結果を出したいし、それをサポーターの方に見せたい」と心残りがあるトップチームでの名誉挽回への思いも口にした。
期待値抜群。192cmの快足FW
U18から昇格するFW磯﨑は、ポテンシャル抜群のストライカー。ガーナ人の父と、日本人の母を持つ。クラブが提携する、さいたまシティノースFC出身では、初のプロ選手となる。小学生のときは、アカデミー出身でトップチームに在籍していた西村陽毅コーチに学んだ。幼少期から、長身とスピードが武器。当初は、能力任せのドリブルが武器だったが「キープの仕方、背後の狙い方も教えてもらった」とFW起用で様々な技術を習得していった。それでも、U15に入ると「パス回しの鳥かごをやると、大体、自分が鬼役になる」状況だったが、島田裕介コーチの指導の下、ボールを止める、蹴るの精度を追求。世代別日本代表に選出されるまでになった。
192cmの長身でスピードがあり、トップチームでも、裏への抜け出しや、得意のヘディングシュートによるゴール量産が期待されるが、本人は練習参加などを通じて「武器はあるけど、出せている回数が少ない」と課題を感じている。高校入学時から体重は8キロほど増えたが、まだ筋量が足りていないと認識している。プロ仕様の体が出来上がれば、才能は一気に開花するだろう。
スタジアムでのあいさつは、大きな刺激になったようで「歓声だけでワクワクした。あれを聞いて、このスタジアムで早くプレーをしたいという思いが強くなりました」とプロデビューに思いを馳せていた。ただし、その前にやり遂げたい目標もある。所属するU18は、プレミアリーグEASTで残留争いの真っ最中。「プレミアリーグで3年間もプレーさせてもらったので、後輩に残したい。今、厳しい状況だけど、自分の力で残さないといけないという気持ちでいっぱい」とエースとしての矜持をのぞかせた。
最終ライン、中盤、そして前線。それぞれに特長も成長過程も三者三様だが、アカデミー出身という共通点を持つ。未来のセンターラインを担う可能性を持った新戦力の合流が待ち遠しい。