ピッチで戦う選手やスタッフの素顔や魅力を、アルディージャを“定点観測”する記者の視点でお届けする本コーナー。今回は、11月6日に行われた新プロパティ発表記者会見を取材したオフィシャルライターの戸塚啓さんに、今の率直な思いをしたためていただきました。
【ライターコラム「春夏秋橙」】戸塚 啓
一歩ずつ、少しずつ
グローバルネットワークの一員に
11月6日に発表された新しいエンブレムを見て、二つの思いを抱いた。「まあ、そうなるよなあ」という少し控え目な賛同(あるいは受容)と、「やっぱり、そうなったか」という覚悟(あるいは諦念)のようなものである。
サッカークラブにとってのエンブレムは、とても、とても大切なアイコンだ。この日の会見に出場したレッドブル・ゲーエムベーハーのオリバー・ミンツラフさんも、レッドブルサッカーテクニカルダイレクターのマリオ・ゴメスさんも、RB大宮アルディージャ(このチーム表記にも、早くなれなければいけないのだろう)の未来に壮大なビジョンを描いている。「何事も一夜にしてならない。一歩ずつ」(オリバーさん)という前提に立ちながらも、来シーズン以降のJ2からJ1への復帰、さらにはJ1でのタイトル争いからアジアの舞台へ飛び出すところまでも視野に入れる。
インターナショナルな舞台での活躍を目ざすのなら、RBライプツィヒやRBブラガンチーノと同種のエンブレムに意味がある。今回発表されたエンブレムは、RBのグローバルネットワークの一員として日本国外でも認知されやすい。「レッドブルサッカーファミリーの一員であることを示す」(オリバーさん)ものとなる。
RBと関わりを持つサッカー以外のチームやアスリートが、そのチームやアスリートを応援するファンが、RB大宮アルディージャに注目するきっかけにもなるかもしれない。グローバルな知名度を獲得できる可能性を得たわけで、それは決して悪いことではない。それが、「まあ、そうなるよなあ」の理由だ。
その一方で、エンブレムから「リス」が消えた。ヨーロッパのトップクラブでも、Jリーグのクラブでも、クラブのリブランディングのひとつとしてエンブレムを変えることはある。ただ、今回は株式譲渡による変更であり、「リス」はチーム名の由来である。この日は言及されなかったが、マスコットがどうなるのかも気になる。
エンブレムもマスコットも、このクラブの大切な一部としてファン・サポーターのみなさんに愛され、親しまれてきたと思う。それだけに、変わることを覚悟していたとしても──複雑な思いが胸に去来する。
レッドブル・ゲーエムベーハーへの株式譲渡は、「外資によるクラブの買収」だ。外資の国内市場への参入について、「黒船」という単顔が根強く使われることからも、クラブの今後について多少なりとも不安を抱く方は少なくないのでは。僕自身はその一人だ。
最先端に触れられることへの期待
クラブ内の反応は、僕の想像とは違う。
10月のメディアギャザリングに続いてマイクを握った原博実代表取締役兼フットボール本部長は、「8月に株式譲渡が発表されて、9月から相当に細かい打合せをやってきています」と話す。レッドブルの誠実さと本気度に、原本部長は間近で触れてきている。会見の前日にはオリバーさんとマリオさんがクラブハウスを訪れ、大宮アルディージャVENTUSの練習を3人で観たそうだ。
「ものすごいパワーで来てくれたので、ホントにコーチ陣がワクワクしている、楽しんでいる。RBライプツィヒはヨーロッパで世界のサッカーの最先端に位置するクラブで、彼らのノウハウや知識に触れることで、いつかはヨーロッパへ行きたいと思っている選手は刺激を受けるだろうし、選手だけじゃなく指導者も、トレーナーも、あるいはフィジカルコーチやアナリストも、みんながワクワクしていると思います」
長澤徹監督も、前向きに受け止めている。「本物のガバナンスが入ってくる、日本にヨーロッパの本当のプロが来る。本当の仕事を要求されるというのが、今回の本質だと思うのです」と語る。
10月のメディアギャザリングでも、今回の会見でも、レッドブル側はクラブ、ファン・サポーター、自治体、日本サッカーへのリスペクトを、繰り返し説明している。彼らは本気で、誠実に、RB大宮アルディージャと関わっていく。その思いはハッキリと、ストレートに伝わってくる。
それならば僕自身も、変化を受け入れていきたい。オリバーさんが言うように、一歩ずつ、少しずつ。
戸塚 啓(とつか けい)
1991年から1998年までサッカー専門誌の編集部に所属し、同年途中よりフリーライターとして活動。2002年から大宮アルディージャのオフィシャルライターを務める。取材規制のあった2011年の北朝鮮戦などを除き、1990年4月から日本代表の国際Aマッチの取材を続けている。