ピッチで戦う選手たちの素顔や魅力を伝えたい。これまで書き切れなかった情感を伝えたい。『Vamos』やマッチデープログラムなどの取材から映る景色を、クラブオフィシャルライターの視点で、たまに広報・プロモーション担当の視点で、お届けします。
Vol.003 戸塚 啓
一流たるゆえん
今シーズン何度目かの「そのとおりです!」だった。
5月6日のジェフユナイテッド市原・千葉戦で、アルディージャはゴールネットを二度揺らした。しかし、どちらも認められなかった。その結果として0-1で敗れたのだから、愚痴の一つもこぼしたくなる。
ピッチでプレーした選手の悔しさは、僕が抱いた感情の何倍も大きかったはずである。実際に試合後のミックスゾーンには、そこはかとないやるせなさが漂っていた。4連勝を懸けた一戦を落としたのだから、それも仕方のないことだと感じた。
ところが、三門雄大は違うのである。
VARと呼ばれるビデオアシスタントレフェリーがJリーグに導入されたら、試合中の判定はこれまで以上に確度を増す。映像が語る真実はミスジャッジを確実に減らしていくが、それによって不利益を被ることになったチームの選手やファン・サポーターは、複雑な思いを抱きそうだ。テクノロジーがサッカーと密接に結びついても、ジャッジに納得する側と納得できない側、という立場は生まれる気がする。
だとすれば、ジャッジに一喜一憂するのではなく、自分にできること、自分たちにできることに集中していくべきである──。プロ生活10年目を迎えた31歳の経験者は、つまりそういうことを伝えたかったのではないだろうか。何しろ、三門の口ぶりには判定に対する不満が1ミリもなかったのである。「いやあ、そのとおりだなあ」と深く、深く納得したのだった。
これまで所属した3つのJクラブでコンスタントにゲームに絡んできた。どんな監督の下でも、どんな戦術でも、チームに必要とされてきた。
中盤の複数ポジションに対応するユーティリティー性を備え、チームメートを輝かせるハードワークが、キャリアを積み上げる要因となっているのは間違いない。加えて、彼を一流のプロフェッショナルたらしめているのは、謙虚で真っ直ぐなメンタリティーなのだと思う。審判へのリスペクトを忘れないスタンスは、フットボーラーとしてはもちろん、人間としても尊敬できるものだ。
2月の宮崎キャンプから、何度か話を聞いてきた。アルディージャへの熱い思いに触れ、NACK5スタジアム大宮でプレーする喜びに共感し、J1昇格への使命感に胸を打たれた。
背番号7の話を聞くたびに、僕は「そのとおり!」と心の中で叫ぶ。首を大きく縦に振って納得する。そして、「プラスマイナスゼロ」の先には、J2優勝とJ1昇格がきっとあるはずだと信じている。
戸塚 啓(とつか けい)
1991年から1998年までサッカー専門誌の編集部に所属し、同年途中よりフリーライターとして活動。2002年から大宮アルディージャのオフィシャルライターを務める。取材規制のあった2011年の北朝鮮戦などを除き、1990年4月から日本代表の国際Aマッチの取材を続けている。