ピッチで戦う選手たちの素顔や魅力を伝えたい。これまで書き切れなかった情感を伝えたい。『Vamos』やマッチデープログラムなどの取材から映る景色を、クラブオフィシャルライターの視点で、たまに広報・プロモーション担当の視点で、お届けします。
Vol.004 平野 貴也
原風景が、よみがえる
楽しみなルーキーがデビューした。第10節のアルビレックス新潟戦で初先発を飾り、勝利に貢献したMF奥抜侃志だ。
今シーズン、ユースから昇格。持ち味のドリブルは、見る者をワクワクさせてくれる。「ボールを持ったときのプレーは、通用すると思った」と振り返った新潟戦以降、4試合連続で先発起用された。
もちろん、初めて臨むプロの舞台は簡単ではない。第13節のジェフユナイテッド市原・千葉戦では、ボールを触る機会が減少。「狭いところでパスを受けたいけど、もっとコミュニケーションを取らないといけない」と課題を口にした。これから、プロの世界で持ち味を発揮するために必要なプレーを学び、さらに成長した姿を見せてくれるだろう。
本人に写真を見せると、「小学4年生のときですね。2歳上の兄と一緒に出ていました。当時は、ボールを持ったらドリブルしか考えていなかったです。このころは本当に楽しんでやっていたし、今もプレッシャーとかを楽しみながらやりたいですね」と笑った。
当時と今とでは、格段に力量が違う。ドリブルは鋭さや多彩さを増し、ジュニアユースでアルディージャに来てからは、パスとの使い分けも磨かれた。ただ、ボールを持ったら、まずドリブルという姿勢は、今も変わらない。
あらためてデビュー戦の感想を聞くと、「あれだけ観客が入った試合は初めてでしたけど、思ったより緊張しなくて、ボールを触ったら楽しくなっちゃって…。ボールを持ったら(誰にも)渡したくないんですよね」と話した。
相手の守備網を切り裂く姿には、ドリブル小僧の姿が重なる。ずっと磨き続けてきたドリブルこそが、彼の最大の魅力だ。プロになる夢を実現したこれからも、それは変わらないのだろう。
平野 貴也(ひらの たかや)
大学卒業後、スポーツナビで編集者として勤務した後、2008年よりフリーで活動。育成年代のサッカーを中心に、さまざまな競技の取材を精力的に行う。大宮アルディージャのオフィシャルライターは、2009年より務めている。