ピッチで戦う選手たちの素顔や魅力を伝えたい。これまで書き切れなかった情感を伝えたい。『Vamos』やマッチデープログラムなどの取材から映る景色を、クラブオフィシャルライターの視点で、たまに広報・プロモーション担当の視点で、お届けします。
Vol.012 粕川 哲男
ピッチを離れると
派手、陽気、天真爛漫――。リオのカーニバルやコパカバーナの華やかな光景のせいか、ブラジル人に対するイメージは、そんなところだ。実際、これまで大宮アルディージャでプレーしたブラジル人選手たちの多くが、明るく、社交的、マイペースもしくは破天荒と言っていいキャラクターの持ち主だった。
2007、2008シーズンに最終ラインを支えたレアンドロは、練習中に必ずチームメートにちょっかいを出すほどの、いたずら好き。志木クラブハウスでの取材前にトイレに入ったら、個室のドアを全開にして用を足しているところに遭遇し、思わずのけぞった。めちゃくちゃ驚いたので、「うわっ」と激しくリアクションすると、あの何とも憎めない笑顔でニヤリ。してやったりという顔をしていた。
レアンドロと同時期に在籍したペドロ・ジュニオールは、若さが際立つ選手だった。当時は喜怒哀楽の全てをピッチで表現するタイプで、練習で怒りを露わにしている姿も何度か見かけた。初めての海外移籍でストレスを抱えていたのかもしれない。
あるとき、そんな彼に手招きされた。あれは埼玉スタジアムのサブグラウンドでの練習後だ。何だろうと思って近づくと、自動販売機で買ったアイスの包装に「?」という表情をしている。暑くてアイスが食べたいのに食べられない…。仕方ないので紙を剥いて渡してあげると、ニッコリしてペロペロ。思わず「子どもかっ」とツッコんでしまった。
マテウスは、そんな先輩たちとは一線を画する性格のようだ。試合中はどんな相手にも勝負を挑み、時には相手を挑発するようなテクニックを見せ、自陣からでもドリブルでゴールを目指すほど強気のスタイルが持ち味だが、ピッチを離れると驚くほど大人しい。「真面目で物静か」という言葉がピッタリだ。
「19歳で日本に来て、アルディージャに育ててもらった。だから、活躍して恩を返したい。そのためには、(前通訳の寺崎)大悟さんやマルコさんの言うことをしっかり聞くことが大事。そうすれば、間違いなく日本で成功できると信じている」
そんな、泣かせる言葉が返ってきた。
粕川 哲男 (かすかわ てつお)
1995年に週刊サッカーダイジェスト編集部でアルバイトを始め、2002年まで日本代表などを担当。2002年秋にフリーランスとなり、スポーツ中心のライター兼エディターをしつつ書籍の構成なども務める。2005年から大宮アルディージャのオフィシャルライター。