ピッチで戦う選手たちの素顔や魅力を伝えたい。これまで書き切れなかった情感を伝えたい。『Vamos』やマッチデープログラムなどの取材から映る景色を、クラブオフィシャルライターの視点で、たまに広報・プロモーション担当の視点で、お届けします。
Vol.013 戸塚 啓
あえて
オフィシャルライターの守備範囲ではないのだろうけど、シーズンが終わったときに後悔したくないし、選手たちにも後悔してほしくないので、あえて言わせていただく。
時には、ピッチ上でぶつかってもいいのでは?
こんな場面があったとする。
相手のゴールへ迫っていくボールホルダーが、「A」と「B」の選択肢を持っている。客観的に見て「A」の方が得点の可能性は高い。しかし、ボールホルダーのタッチ数が1つ多かったために、「A」へのパスコースはかなり狭くなってしまう。結果的に、得点のチャンスは潰えた──。
パスを受けられなかった選手は、どんな振る舞いをするべきか。「なんで早く出さないんだ!」と怒るのはアリである。「次、次!」と鼓舞するのもアリである。できれば避けたいのは、モヤモヤッとした反応だ。怒るでも励ますでもなく、「なんで早く出さないんだよ…」といったやるせなさを、うっすらと態度ににじませてしまうことである。
それが悪いと言うつもりはない。ただ、自分一人で気持ちを整理するのに時間が掛かって、次への動き出しが遅れたらマズい。時間が掛かるといっても、ほんの数秒である。しかし、その数秒が致命的な遅れとなるのは、ロシア・ワールドカップが教えてくれている。
2005年から11年まで在籍し、キャプテンも務めた藤本主税は、練習でも試合でもチームメートにドンドン要求していた。「ドンドン」ではなく「ガンガン」と言っていいくらいだった。昨年まで3シーズン在籍した播戸竜二が、パスを出さなかった選手を怒鳴りつけたことがある。近くで見ていた僕が、思わず後ずさりしてしまうぐらいの迫力があった。
彼らが感情に任せていたわけではない。次に同じようなシーンがあったときに同じミスをしないため、違う解決法で対応するために、チームメートに要求をしていたのだと思う。
今シーズンのアルディージャで戦っている選手たちも、ピッチ内外で色々な意見交換しているに違いない。熱のこもった言い合いもあるだろう。だとすれば、同じことを試合中にやってもいいと思うのだ。
戦術、戦略、分析、といったものはもちろん大事だろう。その上で言えば、拮抗したゲームをモノにできるかどうかの分かれ目として、勝利への執念は欠かせない。「J2優勝、J1復帰」という目標を達成するためなら、ピッチ上で言い合いをしたっていい、と僕は思うのだ。
戸塚 啓(とつか けい)
1991年から1998年までサッカー専門誌の編集部に所属し、同年途中よりフリーライターとして活動。2002年から大宮アルディージャのオフィシャルライターを務める。取材規制のあった2011年の北朝鮮戦などを除き、1990年4月から日本代表の国際Aマッチの取材を続けている。