ピッチで戦う選手たちの素顔や魅力を伝えたい。これまで書き切れなかった情感を伝えたい。『Vamos』やマッチデープログラムなどの取材から映る景色を、クラブオフィシャルライターの視点で、たまに広報・プロモーション担当の視点で、お届けします。
Vol.015 田口 和生(大宮アルディージャ広報・プロモーショングループ)
深い
「あれは、ノーチャンスでしたね」
選手たちの取材に立ち会っていると、たまに耳にするフレーズです。相手のシュートや得点の形を評価することで、GKに失点の非がないことを意図する表現。確かに、全てのシュートを止めるのは現実的に不可能だろうと思います。
ある日の練習後、この投げ掛けに対して、笠原昂史は次のように答えました。
「うーん。でも、何かできたと思うんですよね。今日のトレーニングでも藤原(寿徳)GKコーチと、あの場面について話をしていました」
「引きずってはいけないので、試合中はすぐに切り替えますけど、終わってからは、『何かできることはなかったか、どうすれば防げたのか』を考えながらトレーニングします。それがなくなったら、プロサッカー選手として終わりかなと」
彼らが言う"できること"は、自分自身の動作だけでないようです。チームメートへ声を掛けてポジションを修正したり、DFと連係してシュートコースを切ったりすることもそう。厳しい言葉で周囲を鼓舞することも一つ。打たれたシュートへの対応だけでなく、その1つ、いや2つ、3つ前まで振り返っているのです。
"できること"について、塩田仁史にも投げ掛けてみました。
「例えばクロスの場面だけでも、僕らは4つか5つのパターンを想定しています。失点したくないと思えば思うほど、ボールホルダーを見過ぎてしまうものですが、周囲の状況を把握しておかなければいけません。クロスボールをパンチングするにしても、やり方によっては失点につながるかもしれないし、自分たちの攻撃につなげることもできますから」
90分間のうち、GKがボールに触れる機会は何回あるでしょうか。近年ではビルドアップへの貢献が求められているとはいえ、手を使う場面は数えられる範囲でしょう。いつか訪れる一瞬のために、彼らは日々の練習から常に備えているわけです。塩田は、苦笑いしながら続けました。
「近年は攻撃のバリエーションが増えてきていますし、GKに求められるものが、どんどん増えてきていますよね。これからの選手は、もっと大変になると思いますよ」
GKの世界は、奥が深い。だから、彼らの話は面白い。
田口 和生 (たぐち かずお)
2005年から週刊サッカーマガジン編集部に勤めた後、スポーツクラブ勤務などを経て、2014年10月より大宮アルディージャ広報・プロモーショングループに。高校選手権の県予選で一度だけ、改修前の大宮サッカー場でプレーしたのが良い思い出。