ピッチで戦う選手たちの素顔や魅力を伝えたい。これまで書き切れなかった情感を伝えたい。『Vamos』やマッチデープログラムなどの取材から映る景色を、クラブオフィシャルライターの視点で、たまに広報・プロモーション担当の視点で、お届けします。
Vol.028 平野 貴也
気付き
参入プレーオフ1回戦で敗れ、J1復帰は、ならなかった。何度思い返しても悔しいが、過ぎ去ったことを悔やんでも始まらない。少し落ち着いて考えれば、今後に向けた収穫も浮かんでくる。アカデミーの生え抜きである大山啓輔が、一年を通して主力として戦えたことは、その一つだ。今シーズンは守備面で大きな変化を感じた。
的確なパスやクレバーなゲームメークは、ユース時代から見せていた強みだ。しかし、プロ入り後はコンタクトプレーという課題に苦しんでいた。パワー不足でボールを奪われたり、相手を止められずにファウルをしてしまったりする場面が多かった。
ところが、どうだ。「今は守備のことしか考えていない。守備ができなければ、石井さんに起用されることはない」と、シーズン序盤から話していたが、相手にプレッシャーを掛けるだけでなく、苦手なはずのコンタクトプレーで何度もボールを奪った。
ヒントになったのは、元日本代表の中田英寿のプレーだ。年始のキャンプで大山を見た大塚慶輔フィジカルコーチは、「こんなに体をうまく使えるのに……と思った」という。その上で、「中田みたいに足を運んで、腰をグッと低くしてひねるとか、相手の懐にお尻から入って行くとか。あれは彼の特長だし、特異な能力だよ」とアドバイス。ボール奪取の際に、ボールに対して足から飛び込んだり、上体で腕を絡めたりという方法ではなく、我慢して相手に接近し、低い重心でコンタクトするのが特徴だ。
中央でボールを奪って相手と入れ替われば、その後の選択肢は豊富だ。ドリブルで前に持ち出し、相手の守備を動かしながらパスを送れる。サイドに散らすパスではなく、得点チャンスを演出するスルーパスが増えたのは、ボール奪取が増えたからだろう。プレーオフで負った眼窩底骨折を治し、今シーズンに得た手応えを、きっと来シーズンに生かしてくれるはずだ。
平野 貴也(ひらの たかや)
大学卒業後、スポーツナビで編集者として勤務した後、2008年よりフリーで活動。育成年代のサッカーを中心に、さまざまな競技の取材を精力的に行う。大宮アルディージャのオフィシャルライターは、2009年より務めている。