ボールを持って仕掛ける北川愛莉 選手は独特のバランス感覚の持ち主です。どこかつかみどころのないしなやかなドリブルからの一撃は彼女独自のリズム。昨シーズン、リーグ戦7試合に出場するもノーゴールだった悔しさを燃料にして、VENTUSに加入して3シーズン目。秘めた闘志を持つシャイな北川選手が、今シーズンへの想いを語ります。
Vol.58文・写真=早草 紀子
—北川選手は、幼少期からサッカー一筋ですか?
ピアノはやってましたが、スポーツはサッカーだけですね。家が習い事を始めたらやり通す、という方針だったので(笑)。
—高校は寮生活でサッカー漬けとなる常盤木学園高校に進学します。これは覚悟が必要な決断だったのでは?
いろんなところに練習参加に行かせてもらっていたんですが、最後が常盤木でした。練習の雰囲気に衝撃を受けてしまって…。すっごくピリピリしてて、めっちゃ怖かったんです(苦笑)。「うわ…、絶対に行きたくない」って最初は思ったんですけど、でもこういうところでサッカーをやるとうまくなるんじゃないかと決断しました。
—その決断によって、高校で得られたものとは?
一番はインターハイ(2018年)で優勝を経験できたこと。毎日が選考会みたいな雰囲気で、一回のプレーで外されることもあれば、その逆もある。だからこそ一本一本シュートにはこだわりながら練習をしてました。ゴールに貪欲になった3年間でしたし、間違いなくメンタルは鍛えられました。
—ピリピリムードのなかにいる北川選手…、上手くイメージできません(苦笑)。
ですよね(笑)。こんな感じでフワフワしていても、こだわりは強めでした(笑)。「さっきのはこういうほうがよかった」「(ゴール前では)こういう形でボールを受けたい」とか…。でも最初は本当にしゃべることができなくて、よく「今日は誰かとしゃべった?」ってチームメートに聞かれていました。寮生活が進んでいくうちに、徐々に話ができるようになって、と同時にこだわりも強くなっていったような気がします。
—ポジションはずっと前線ですか?
高校のときはトップ下をやってました。大学でサイドハーフをやるようになって、3年生の途中からFWになりました。やっぱりゴールに近いところでプレーするのは気持ちよかったです(笑)。大学では試合の勝ち越しゴールとか、同点ゴールとかを挙げることが多かったんです。そういう勝負強さ?みたいなの持ってるな~とは感じることもありました(笑)。結構高校のときから途中から出て、いいところをさらっていくタイプだったかもしれません(笑)。
—その才能、ぜひVENTUSでさらに高めてください! そんな北川選手のターニングポイントは?
大学の3年。ポジションがFWに変わったときです。サイドでプレーしていても、やっぱり前でプレーしたいなってずっと思ってはいたので…。
—そこで磨かれたことでWEリーグへの道が開けました。実際に戦ってみたWEリーグはどうでしたか?
球際の強さ、スピード…、すべてレベルが高くて、自分の力の足りなさを感じさせられました。全部の試合でそれは感じるんですけど、特に日テレ・東京ヴェルディベレーザと対戦したときが衝撃でした。めっちゃボールを回されて、一生取れない鳥かごトレーニングみたい。でも、いろいろなチームと対戦を重ねることで、やっと“WEリーグ”に慣れてきたところです。
—2022年11月にVENTUSへの加入が決まり、2シーズンを戦いました。ご自身の成長を感じるところは?
ボールを収めるところです。最初は本当に収めることができなくて…、とにかく死に物狂いでボールをキープしてました。今もそこは変わりませんが、相手の死角から落下地点に入ることができるようになりましたね。相手の前に立ってたら、押されて負けてしまう。なので、後ろ(死角)からいってみようってトライした感覚がよかったので、続けています。
—北川選手が刺激を受ける選手というのは?
同期の大島(暖菜)さんかなぁ。彼女が世代別代表とかに選ばれたりするのを見ると自分もがんばろう! って思いますし、彼女はめっちゃ負けず嫌いで、それを前面に出すじゃないですか。自分とは全く違うからすごいなって思います。
—北川選手も少しメラメラ感出してみますか?
監督からももうちょっと闘志を出せ! って言われます。本来、熱いものを内に秘めるタイプなんですが…、がんばってもう少しメラメラ感出してみます。
—ちょっとずつ出していきましょう! ここからクラシエカップ開幕まで、北川選手にとってもすごく大事ですよね。
はい。今シーズンは結果が欲しいんです! そのためにもオフの過ごし方は大事だと思ったんですけど、自主練習しかできず、“サッカー”をしたかったから、出身の東洋大学の練習に行ってました。なんかすごく懐かしさがありました。
—学生選手は北川選手のことを“WEリーガ―”として見る。その差は示せました?
そういうのは意識せずに、めっちゃ溶け込んでました(笑)。でも1対1は負けられないので、気合が入りましたね。大学生はアクションの数が多くて、ずっと動いてるんです。こういう再確認できることもありました。
—VENTUSでは前線の守備が重要。あまりやってこなかった守備は大変でしたか?
それはもう! 寄せる角度、タイミング、距離、コース…、すべてが大変でした。それをしっかり出すにはスタミナも大事なので練習後、20分は必ず走るようにしてます。最近は体が軽くなる感じがします。
—今シーズン、ここをがんばりたい!というのはありますか?
シュートを打てるところまでいく! 昨シーズンは位置が低すぎてシュートを打てもしなかった。改善のために味方とつながる必要があるので、コミュニケーションをしっかり取っていきたいです。ゴールを奪うための要求もどんどんしていくつもりです!
—9月1日のクラシエカップ開幕まで1ヶ月。いよいよ2024-25シーズンが始まります。どんな目標を立てますか?
とにかくゴール! 5ゴール決めたいです! …ちょっと多いですか?
—いえいえ(笑)、そこは目標なのでいいと思います!
ペナルティエリア外で前向きにボールを持ったら狙い時。そこから一気にゴールを狙いますので、そのときは大きな声援で後押しをお願いします!
早草 紀子(はやくさ のりこ)
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。女子サッカー報道の先駆者であり、2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマンを務める。