文・写真=早草 紀子
—就任一年目はどんなシーズンでしたか?
1シーズンをトップカテゴリーで戦うことの難しさをすごく痛感しました。プロリーグである以上勝つことがプライオリティとして一番高い。けれど個人的に指導者としては選手一人ひとりうまくなってもらいたい、そこの天秤はやはり難しいと思うところもありました。特有の“慣れ”と言っていいのかわかりませんが、監督としてのメンタリティの面では、自分自身も少し成長できたとも思います。チームとしてなかなかうまくいかないことも多かったシーズンだったので、とても責任を感じますし、だからこそもっと強くなりたいと思う一年でした。
—新シーズンのチーム構成はガラリと変わりました。監督が最優先とした改革ポイントとは?
球際のバトル、ゴール前に出ていくスプリント、気迫といった勢い、迫力面ですね。自分は基本的に見てる人の心打つサッカーが好きで、その打ち方はいろいろあるとは思うんです。でも根本は“戦う”こと。何としてもゴールを取る! 何としても守る! その単純なところかなって思います。昨シーズンも選手たちはそういった想いを絶対持っていてくれましたが、私の伝え方や、やるサッカーのところで、少し陰ってしまった部分もあると感じています。
—迫力を生むために、監督が重要視している要素は何ですか?
走力のある選手をチョイスしてると思います。といっても、単純に走るだけじゃなくてそこにスキルを求めています。ヨーロッパのサッカーを見ていても走りますよね。その上に上手さがある。個人的には世界の強度に近づけていくことはやっていきたいんです。その中でや日本特有の上手さや、インテリジェンスいうものを載せないと選手たちは外(海外)に出たときに勝負できません。
—走りの“質”ですよね。そこを向上させるために取り入れていることは?
今シーズン、山守(杏奈)フィジカルコーチが加わり、スプリント回数や加減速回数が変わってきました。多ければいいというものではないので、数値とパフォーマンスを見て、どこの数字を取っていけばVENTUSとして一番いいバランスになるのか、コーチングスタッフと話をしながら強化しています。もちろんプレースタイルもそれぞれあるので、一概に数値だけで判断することはありませんが一つの指標として活用しています。
—このオフ期間、男子のトレーニングに帯同されていましたよね。
1週間という短い時間でしたが、参加させてもらいました。やっぱり練習から勢いがありましたね。選手同士の要求もバチバチやりますし。自分は現役時代から思ってんだったら言えよ! みたいなタイプだったので、刺激になりました。最近選手たちにも「ムキになってサッカーしようよ」と伝えてます。何が何でもっていう気持ちが必要。一つの練習、一つの球際でも、やっぱもっとムキになってやって欲しい。そういうメンタリティはすごく大事だと改めて感じました。
—今シーズン、選手たちから「攻守でやるべきことが明確になった」という声がよく聞こえてきます。
攻守の切り替え時の動きは、今シーズンは徹底してます。昨シーズンは自分の伝え方の問題で後ろがちょっと重くなってしまいましたが、今年は戻す、出る、ブレイクするっていうところはしっかりやっていきたいです。どこで奪い返すのか、そのためにどれくらいのスピード感でどこに戻るのかが明確になっているはずです。
—練習でも“ブレイク”というフレーズが飛び交ってます。すごくインパクトがありますね。
とにかく今年はブレイクする。失ったら取り戻せ! 陣地もそうだし、ボールもそう。失ったら戻す。そのブレイクは相手のデザインを壊すことでもあるし、相手の自信を壊しにかかること、そして自分たちの殻も壊すことでもあるんです。もちろん私自身も何かの固定概念とかいろんな思いを壊して前に進まなきゃいけないこともあると思います。
—監督は言葉をすごく大事にされますが、この“ブレイク”というのはオフ中に考えてたんですか?
めちゃくちゃ考えましたよ。いくつか候補があって、意味を調べて(笑)。でも一番自分が口にするだろうものを選んだというか…。“ブレイク”は「壊す」だけじゃなくて「破る」という意味もあったので、そこを中心に据えて、ブレイクする、奪い返す、取り戻すという風に考えました。それは自分たちの誇りかもしれないし、すべてに置いて取り戻さないといけないものがある。選手たちはその中でもやはり“ブレイク”という概念が最初に来ると思います。
—そういう言葉選びはどこから影響を受けるんですか?
誰かの演説や、ロッカールーム映像や、インタビュー…。いろいろ見たり、読んだりします。業界を超えてプロフェッショナルな人の言葉や優秀な指導者の名言とか残ってたりするじゃないですか。そういうのは読みますね。
—そういう勉強家な一面も…。
結構、こういうの読むの好きなんですよ(笑)。
—そこから出てきた“ブレイク”というマインドが浸透してきていることは、先日の日テレ・東京ヴェルディベレーザとのクラシエカップ開幕戦でも十分見て取れました。
我慢強い試合が予想される中、しっかりボールを奪い取って、一つ二つのチャンスを決めきれるか。中を締めて、背後を取ってというところが見えてきた部分もありました。あちらもメンバーが変わったとはいえ、昨シーズン大敗したチームに怖がらずに戦えたことはよかったと思います。
—形が見えてきた中で、いよいよSOMPO WEリーグの開幕戦を迎えます。
やっぱり見ている人が、「お~攻撃に行った! 」「戻った! 」って展開を高揚感とともに追えるような試合をしたいです。前線からプレスして外されて、パスを飛ばされたとしても、もうここに戻ってる! みたいなサッカーをしたいですね。それを個々というよりはBOX to BOXでやりたい。それが迫力につながると思うんです。何が何でも“ここ”に戻らなきゃならない、逆に言えば戻れなくなったら交代のジャッジメントをします。
—戻れなくなったら、戻れる人が代わりに入る。明快! でもそれだけのハードワークとなると、本当にピッチ内での行く行かないの判断もシビアになってきますね。
きっとここまでブレイクしたら、ここで時間が作れるという感覚が出てくると思います。相手がいなければそこで決めきる、いれば折り返してファーサイドなのか、そういうところの勝負になってくるはずです。そういう点からも、今シーズンは試合後にしっかり休息日を取って、次の試合相手に対しての戦術は4日で仕上げるつもりです。そして勢いのあるサッカーをお見せできるようにしていきます! ここで化けなければいけない、そんなシーズンにしますので、VENTUSのプレーをぜひ見てください。
早草 紀子(はやくさ のりこ)
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。女子サッカー報道の先駆者であり、2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマンを務める。