【VENTUS PRESS】杉澤海星 後編

今シーズン、ピッチ上で人一倍気迫を沸き立たせているのが杉澤海星 選手です。副キャプテンとして迎える4シーズン目は、「6番」を背負い、“若手”の枠をぶち破ってチームを牽引しようとしています。その想いが詰まっていたのが、SOMPO WEリーグ開幕戦で見せたチーム初得点だったのではないでしょうか。そんな杉澤選手のVENTUS PRESSをお届けします。


Vol.60文・写真=早草 紀子

「“大宮アルディージャ”という誇りを崩しちゃいけない」 杉澤海星

—まだ22歳の杉澤さんですが、ケガも含めて紆余曲折が結構あるイメージなんですが、一番きつかった時期というのは?
本当にないんですよ、そういうの。でもVENTUSに入った当初はちょっとあったかな。みんなと年が結構離れてて、近くても3個上の(今村)南海さん。加えて人見知りなもので精神的に食らった部分もありましたけど、それはどこに行ってもあるものですから。

—最大の成長期は?
圧倒的に中学3年間ですね。ここで人間性のベースができた。この負けず嫌いとか(笑)、上の人にわからないことは自分で聞きにいく貪欲さとか、サッカーに関するものを培った気がします。日テレ・メニーナ(日テレ・東京ヴェルディベレーザのアカデミー)のセレクションに落ちて、その下のセリアスに入ったっていうことが大きかった。まさにターニングポイントでした。兄が東京ヴェルディのアカデミーにいて、当然自分もそこに行くものだと思ってたけど、それが叶わなくなって…。上には上がいるという厳しい現実を12歳で知りました(笑)。

—セリアス出身の選手のみなさんは、打たれ強い上に考え方がすごくしっかりしてません?
それはあるかも。上手い人がいっぱいいるなかで、どう自分が上に行くかと考えないといけないチームだったから、みんな向上心があった。たとえ今メニーナに落ちた現実があっても、将来どうなってるかはわからない。それは自分たちで変えないといけないっていう指導だったので、逞しいですよね。

—スキルの面でもこの3年間で相当鍛えられましたよね。
走力はつきましたよね。走りって結局メンタル。限界を自分で決めない限り走れるはずなんです。これくらいの順位でいっか、って思っちゃうと“そのくらい”な走りに留まっちゃう。

—出ました、海星理論(笑)! それでいくと今シーズンのVENTUSのスタイルは杉澤選手が一番ハマるんじゃないですか?
そうなんです! クラシエカップ開幕戦の東京NB戦でも、劣勢の中でもハイプレスで自分たちの攻撃の時間を作る、こういう戦い方が出来るという道筋が見えました。もちろんまだまだ相手ボールの時間が長すぎて、あまりマイボールに出来ず、頻繁に駆け上がってはいけませんでしたが、今はそれを続けていくことが大切だと思ってます。

—そして今シーズンは自ら志願した「6番」を背負います。
セリアス時代も「6番」だったということもありますけど、VENTUSの6番には重みがある。次の「6番」は自分がつけるしかないと思いました。アリさん(有吉佐織)には「6番つけます! 」と報告はしました。サラッと「そうなんだ~」みたいな感じでしたけど(苦笑)。

—有吉さんは杉澤さんをライバルとして認めることで、成長させようとしてました。
最初はその存在が偉大過ぎて…。でもそのとき私ともアリさんとも組むことがあったマルさん(山崎円美)に「アリさんだったらこうする。海星も理解してるし、できるのになんでやらないの?」って言われたんです。「ああ、アリさんと競い合える存在にならないといけないんだ」って気づきました。

—昨シーズンの有吉さんは負けたくないというプライドをあえてわかりやすく前面に出してくれてましたよね。
それは感じてました。でも自分は素直に聞きに行けるみんなと違って同じポジションだったから、気軽に聞くのは違うと思っていて…。だから実際には直接話す機会は減ってきてました。でもそれはお互いが真剣に負けたくないとバチバチやれてたからだと思っていて、自分の中でアリさんをライバルとしてとらえることができていました。

—そういう真剣勝負が必要だと有吉さんも言ってました。ちゃんと伝わってたんですね。
本当にすごい存在だったし、でも自分だったらこうするっていうのもあって…。自分はアリさんには絶対になれないから、盗めるものは盗ませてもらいます! っていう存在です。アリさん、サメさん(鮫島彩)っていうタイプや人間性がそれぞれ違うSBがいて、その下でプレーできたのはすごくありがたかったです。

—副キャプテンも2シーズン目。メンバー構成が変わって、ご自身の中で変化はありますか?
昨シーズンは自分の姿勢で示せばいいって思ってたけど、今シーズンはちゃんと言葉にしないといけないなって思ってます。副キャプテンというか、上に立つ立場の人としての行動をあえてしないといけないかなって。言葉にして伝えてくれていた人がいなくなってしまったので、そこは自分もやってるし、自分と年が近い人たちとしっかりコミュニケーションを取って、一緒に上がっていこうって話したりはしてます。

—昨シーズン苦しんだ分、今シーズンはどんなチームにしていきたいですか?
チームとしては今シーズンの目標は3位! でも、そこを本当に見てる人がどれだけいるかとなると、実力は置いといて(苦笑)、意識としてまだ薄い部分もあると感じます。一人ひとりが、絶対上手くなる! 上に行ってやる! っていう気持ちを全員が持ってるチームにしていきたいです。

—そのために、これだけは貫きたいことは?
連敗をしないこと! それは強く思ってて、それができればチームの雰囲気が変わってくると思うから。前線の選手は走ってくれるし、クロスに何人も入ってくれるっていうのは練習試合でも東京NB戦でもあったので、そこをもっと上げていくこと。守備はまだまだ改善も必要で、最後体を張るとかはできてましたけど、体を張るまでに解決できることもいっぱいあって…。守備は最終ラインだけじゃないからFWからGKまでの守備の認識を上げていきたいです。

—東京NB戦はハイプレスがしっかりハメられていました。
正直、東京NB戦はめちゃくちゃ楽しかったんです(笑)。攻めこまれても、しっかり奪い返して自分たちも攻撃する。バチバチやれてて、サッカーしてる感じがした。あの試合はみんなプライドを持ててたと思うんです。“大宮アルディージャ”としてのプライドを崩しちゃいけないっていう想いは、特に1シーズン目からいた人は持っていて、(乗松)瑠華さんとかイノさん(井上綾香)からも感じるし、今シーズンはそのマインドに違いを感じます。

SOMPO WEリーグ開幕戦は惜しくも負けてしまいましたけど、杉澤選手による今季チーム初ゴールが生まれました。
自分たちの弱点がもろに失点につながってしまったので、そこは気を引き締めていきたいです。得点に関しては、雷雨で中断してるあいだに「逆サイドに入っていくから早い段階でもクロスを上げてほしい」と(金平)莉紗さんに伝えてました。それまでガッツリと深く入り切れてなかった。あのときは、何がなんでもゴールを取りたかったし、絶対こぼれてくるっていう感覚があったんです。個人的にWEリーグ初得点なので、得点だけ見たらすごくうれしい。守備側の選手ですけど、どんどん得点を重ねられるようにがんばります!


早草 紀子(はやくさ のりこ)
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。女子サッカー報道の先駆者であり、2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマンを務める。

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