10月からRB大宮株式会社として新たな一歩を踏み出した大宮アルディージャ。Red Bull Soccerの Technical Directorのマリオ・ゴメス、マーケティング責任者を務めるフィリップ・ワンダーリッヒの来日に合わせ、12日には50名のファンクラブ会員とのファンミーティング、メディア関係者とのギャザリングがセッティングされた。
【ライターコラム】早草 紀子
新たな一歩を踏み出した大宮アルディージャVENTUS
新体制となって初めてRed Bull Soccer側から直接メッセージを受け取る機会となったこの日。時期的に男子は昇格・優勝を目前にしており、女子は新シーズンが始まったばかりというタイミングということで、チーム名やチームカラーなどファン・サポーターが最も気になる点について明確な発表はなされず、時期を改めての報告が約束された。
事前にVENTUSの選手たちには、これまでに2度の説明の機会があったが、選手たちにとってもオーナー変更は初めての経験だ。「現状と何が変わるのか」「男子の変化は理解できるけど、女子についてのイメージが沸かない」と言う声が多く聞かれていた。それもそのはず。WEリーグ4シーズン目を戦うVENTUSにとっては、毎シーズンが“変化”の連続だ。これらとレッドブルサッカーネットワークの一員となった今後の変化と、どのような違いがあるのか、まったくもって未知の世界なのだ。
ゴメス氏は言う。「女子部門は我々も重要視しています。私たちのグループでは、ライプツィヒが2023-24シーズンから女子ブンデスリーガ1部に昇格しましたが、そこに至るまで本当にいろんなプロセスがありました。男子だから、女子だからと比べるようなことはしない方がいいかもしれない。歴史的な面も少し違いますので、多角的に分析することが必要です。女子スポーツとしてもっと伸びていく可能性がある。選手のポテンシャルを感じさせるプレーについては見てもいますし、聞いてもいます。女子と男子を比較しすぎてストレスを感じ過ぎないことも大切だと感じています」。
今、まさにこの瞬間から、旧体制からの“移行期間”である2025年いっぱいまでに、テコ入れが必要な点を見極めていくことになるのだろう。RBグループの強みの一つはマーケティング力だ。VENTUSにとってウイークとされる部分を補う、いい相性だ。また育成年代の強化に力を入れて成功に導いていることも、大宮アルディージャが掲げるコンセプトと合致する。VENTUSのアカデミー体制も決して盤石ではないため、ここへの大きな変革の期待も高まる。
現状はまだまだスタートを切るための準備段階ではあるが、少しグループ内の女子チームの経緯を拾ってみよう。そのままVENTUSにハマらずとも、多くのヒントが潜んでいそうだ。
レッドブルサッカーネットワーク内の女子チームと言えば、RBライプツィヒ(ドイツ)だ。2016-17シーズンからであることから、女子サッカーへのサポート歴がそれほど長い訳ではない。けれどヨーロッパ各国において、あらゆる男子強豪チームが女子サッカーへの投資を活発化させた時期としっかり重なっている。結果として改善を重ねながら、7シーズンかけて1部昇格にこぎつけ、今シーズンは現在5位。上位フィニッシュおよび女子チャンピオンズリーグ出場を狙える位置につけている。
興味深いのはやはりライプツィヒの経緯だ。抱えたであろう多くの問題をいかに解消してきたのか、その紆余曲折のなかに、アレンジ可能なVENTUSの発展のヒントがあるように感じる。また所有チームがあらゆる国にまたがっているからこそ数々の実例が経験値として重ねられているのもRBグループの頼もしい点だ。ゼロから1を生み出すことだけでなく、60競技以上のサポートをしてきた実績もある。グループ内では初めてのアジア圏でのチャレンジとなるが、これまでのアルディージャとは異なる新たなホットラインが築かれていくことは間違いない。
ゴメス氏やフィリップ氏が何度も強調していた「情報を共有しながら、コミュニケーションを取りながら、一緒に築き上げていきたい」という姿勢にどう応えていくのか。受け身でいるのではなく、どう変化を遂げていきたいのか、今こそ誰もが貪欲に吸収し、互いに要求し、共に構築していく強い覚悟が必要だろう。その先に必ず変わりゆく未来があるはずだ。
早草 紀子(はやくさ のりこ)
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。女子サッカー報道の先駆者であり、2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマンを務める。