ニコニコしながらハイトーンボイスで話す姿と、ピッチ上でゴールに体ごと突っ込んで行くアグレッシブなプレー面、同一人物とは思えないほどのギャップを見せてくれるのが平井杏幸 選手です。サッカーの土台を高校時代に培ったという平井選手はまだまだ伸び盛りの23歳。そのパワーの源流を紐解きます。
Vol.62文・写真=早草 紀子
—平井選手は高校サッカーの名門、日ノ本学園出身ですよね。
はい。高校3年間でサッカーのスキルはもちろん人間性含めて、すべてを作ってもらった気がします。
—すごく走り込みのイメージがあります(笑)。
走りましたよ~。1年生のときが一番走って、週に一回走りのメニューがあるんですけど、1キロ×5本…通称“千五”(笑)。タイムが決められてて、そこで全員が走り切らないと終わらないんです。しかもトラック。外周だったらまだ景色が変わるんですけど…、トラックの素走りはキツかったです(苦笑)。でも測定が学校のテストと同じタイミングであるんですよ、中間、期末って。その数値で主力とされるAチーム、控えのBチームに分けられたりもしてたので必死でした。毎日朝5時に起きて走ってました。この時期の走りでサッカーの基礎体力がついたと思ってます。
—寮生活でサッカー漬け…。平井選手はJFAアカデミー堺でも指導を受けてますよね。
中学時代は月曜から金曜までは堺で練習して、週末は帰省するシステムだったので、INAC神戸レオンチーナに行ってました。ほとんど入れ違いみたいな感じだったんですけど、そこで柳井(里奈)監督がコーチだったんです。監督は覚えてないかもしれないですけど、最初、集合したときに私が全然話を聞いてなくて「ちゃんと聞けよっ(怒)! 」ってすっごい怒られたんです。それが初対面の出来事です(苦笑)。
—…最悪の第一印象じゃないですか。
そうなんですよ。忘れててほしい(笑)。でも柳井さんがVENTUSの監督になって、練習参加させてもらったときも一番雰囲気がよかった。WEリーグしか考えてなかったし、ギリギリまで決まっていなかったので、オファーをもらったときは本当にうれしかったです。
—平井選手はウェストハム・ユナイテッドの植木理子 選手に憧れていると聞きました。
大学の練習試合で対戦したことがあるんですけど、そのときにはもう好きだったから…。いつからだろ(笑)?ユースの大会でずっと点を決めてるイメージがあったんですよね。対戦したときも、ピッチ上では一番遠くにいるんですけど、その怖さはビシビシ伝わってきて…、理子さんにボールが渡ったら何かされる! っていう存在感。身体的には小さいけど、何としてでもゴールにねじ込む、めちゃくちゃ気持ちが見えるプレーをする。やっぱ前線の選手はそういうの、持っておかないといけないなって思いました。
—やっぱり平井選手のプレーと通じるものがありますね。恐れずに突っ込んでいくのをよく目にします。そういうスタイルだと、ケガも多そうですが…。
あ~、顔折れたことありますね(笑)。大学4年のとき、ヘディングした後に相手の頭が突っ込んできて、頬と目のところ折れました。
—まさか平井選手、アドレナリンが出てたから折れたこと気づかなかったなんてこと…。
無理無理! めっちゃ痛かったし~さすがにそれはありませんて(笑)。
—ちょっと安心しました(笑)。でもそういうスピードを保ったままでの衝突でケガした後って怖くなったりしないんですか?
怖かったですよ。怖いけど、でも復帰からガツンといけましたね。性格かも(笑)。
—WEリーグも2シーズン目を経験している今、出場機会も増え、戦える手応えは感じてますか?
最初の頃よりは…、あります! 印象に残ってるのは三菱重工浦和レッズレディース。石川璃音 選手とマッチアップすることがあったんですけど、粘りの守備がすごい! 年下だけど、なでしこジャパンにも呼ばれる実力を持ってるし、ある程度の情報を持って臨んだんですけど、やられましたね。しかも浦和の守備は彼女だけじゃなくて隣の髙橋はな 選手含めて相乗効果があるから…、抜ける気がしなかったです(苦笑)。
—前半戦のさいたまダービーがまもなくありますね。
そうなんです。昨シーズンよりはゴールに迫る回数、シュートチャンスは作れてるから、そこはたとえどんなうまい最終ラインでも、自分も自信持って力を発揮していきたいです。少しでもボールコントロールが外れたら刈られると思うんです。前回の対戦では抜けたと思ってもすぐ追いつかれたんです。相手より先に動くことが絶対に必要で、さらに相手が触れないところにボールを要求しないといけないと思ってます。
—要求はジャンジャンできるタイプですか?
はい、結構。しかも裏抜けは大好きなので、1対1、コンタクトプレーに持ち込まれる前で勝負をつけないといけないと思ってます。
—昨シーズンも苦しい時期がありましたが、今シーズンもなかなか勝利がつかめず、苦しい戦いになっています。悪い流れを断ち切るためにすべきことは?
先日、(乗松)瑠華さんからもそういう話がありました。このチームは“人”が良すぎで、極端に言えば、イージーミスをしても「ナイス! 」みたいな肯定的な声が飛ぶ。流しちゃうところがあって、厳しい声だったり指摘する声だったりがない。年齢関係なく、そういう声が当たり前に飛ぶような雰囲気にしなければいけないと思います。
—それはそういう厳しい声も受け入れられる信頼関係を築けているか、という問題に聞こえます。
そういうことだと思います。しっかり向き合いつつ、やっぱりゴールが生まれれば、勝利は近づくし、勝てば雰囲気も変わるはず。次の1ゴール決まったら抜け出せる気がします。ゴール前で結構テンパっちゃうんですよ…。形はできてると思うので、その場面でしっかりメンタルをコントロールして仕留めていきたい。局面に入る前に心を「スン! 」とさせる一瞬を作るようにしてみます(笑)! リーグ戦、カップ戦含めて5ゴールは決めたいので、ここからは連続ゴールを叩き出すつもりでいきますので、応援よろしくお願いします!
早草 紀子(はやくさ のりこ)
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。女子サッカー報道の先駆者であり、2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマンを務める。