今野浩喜の「タダのファン目線記」グラウンドキーパー


突撃インタビューシリーズ 今野浩喜 vs グラウンドキーパー

今野さんがタダのファン目線でクラブスタッフに逆取材を敢行! 今回の取材したのはアルディージャ練習場の芝生を管理している勝矢さん。いつもの部屋を飛び出して、練習場からスタートしました。


初体験

今野「緊張しますね」

勝矢「はい。普段は芝しか見ていないので……」

今野「十分じゃないですか」

勝矢「これが芝刈り機です。刃は研磨してきたところなので、指で触ると指が切れます。2つの刃が回って芝を刈る感じです」

今野「長さ調整は?」

勝矢「ローラーの高さを変えると刃の間に出る芝の長さが変わるので、1mm単位で刈り高を変えています」

今野「イチミリ!」

勝矢「今日は25mmに設定しています」

今野「免許は?」

勝矢「特に要りません。乗ってみますか?」

今野「え〜。恐すぎるよ。そんな簡単には……。車だってオートマ限定ですよ。うわっ、これはクッションがすごいわっ。言葉じゃ伝わらないだろうけど……、すごいわっ」

勝矢「変えられますよ」

今野「初めて乗ったとき、クッションすごっって思わなかった?」

勝矢「(笑)。いや、そんなに。エンジンかけます」

今野「暴走する可能性あるよ。あああぁ……、恐い恐い!」
(このあと、室内に移動してインタビュー開始)



芝生が好きな女子高生

今野「どうも今野です。始まりました」

勝矢「勝矢です」

今野「失礼ですけど、おいくつですか?」

勝矢「29歳です」

今野「何歳から、この仕事を?」

勝矢「22歳で大学を卒業して、そのまま会社に入りました」

今野「この仕事に興味を持ったのは?」

勝矢「高校3年の頃です」

今野「女子高生がグラウンドキーパー……。タピオカでしょ。女子高生は」

勝矢「私の時代は、まだ……」

今野「今だったらタピオカキーパー? になるんでしょうけど(笑)」

勝矢「あははは……」

今野「どうやって知ったんですか?」

勝矢「グラウンドキーパーという名前は知らなかったんですが、高校生のときサッカーをやっていたし、芝生にも興味があったので。造園屋さんになりたかったんです。庭師とか格好いいなって」

今野「すごいな。自分の歴史ですね」

勝矢「そうですね(笑)」

今野「でも、もっと職人感を出した方が……」

勝矢「うちの会社は着ないんですよ。危ない現場もあるので、日本の造園屋さんって長袖長ズボンが基本ですけど。上着は襟付き。私からしたらあんまり格好よくないというか、だけど、うちの会社は何て言うんですかね」

今野「スポーティーな?」

勝矢「それがいいなと思いました」

今野「でもね、ねじり鉢巻きとか」

勝矢「昔ながらの?」

今野「1回してもらいたいですね。すごみが違いますからね」

勝矢「基本的に、あんまり目立っちゃいけないんで(笑)」

今野「あははは……。目立っちゃいけないんですか?」

勝矢「ダメじゃないですか。目立とうと思ったことないですけど(笑)」

今野「職人さんだって、目立とうとしてあの格好しているわけじゃないですけどね」

勝矢「ねじり鉢巻きは……見たことないですね(笑)」

今野「やっていいと思いますよ」

勝矢「1回社長に話を持っていってみます」



思ってたのと違う

今野「今日、話を聞くのは50歳以上の若干白髪の人だろうと想像していたので、年齢を聞いて驚きました。見た目、大学生じゃないですか」

勝矢「20歳くらいに見られますね。いまだに」

今野「俺の年齢、知ってます?」

勝矢「すみません」

今野「いくつくらいに見えます?」

勝矢「35歳くらい?」

今野「もうすぐ41歳なんですけど……、遠からず近からず(笑)」

勝矢「すみません。中途半端でした(笑)」

今野「若くは見えているけど、ずば抜けては若くない(笑)」

勝矢「昔からテレビで見ている印象があるので……20代じゃないかな、と」

今野「クイズの出し方として、そんなに若いわけないですもんね。ただ、あまりに本気に当ててきたから(笑)」

勝矢「すみません。空気読めなくて」

今野「いや、読まなくていいんですよ。芝さえ読んでもらえれば」

勝矢「あははは……」

今野「この仕事、何から始めるんですか?」

勝矢「先輩のサポートです。黒いバケットを開けて芝を取って、掃除をする。芝生を一面刈ると90Lの袋が5袋とか、多いときは10袋になります」

今野「へぇ……、重いですよね」

勝矢「重いです」

今野「芝生は2種類生やしているんですか?」

勝矢「夏芝が一面ベースにあって、そこに冬芝の種を蒔いて、2毛作みたいな感じですね」

今野「同じ芝じゃないんですね」

勝矢「そうですね。関東は夏芝と冬芝の2種類でやっているところが多いですね」

今野「へぇ……」

勝矢「最初に夏芝を張って、秋に冬芝の種を蒔くんです。そうすると夏芝の間から冬芝の芽が出てくる。それで、夏芝自体は11月くらいには茶色くなるので、そのままだと冬場茶色くなっちゃうんで、緑色を保つように冬芝の種を蒔くんです」

今野「これまで、何か失敗したことあります?」

勝矢「ありますね。肥料の選択とか」

今野「肥料の選択って結構、後引く間違いになりそうですね……」

勝矢「そうですね。タイミングと種類と量を間違えると、思った方向と180度違う方向に行っちゃうこともありますね。でも、そこで正解は分からない。去年やって大丈夫だからと言って同じやり方をすると、ダメなこともある。気温も天候も違うから」

今野「危ういですね。芝って」

勝矢「だから何十年やっても、失敗し続けないと分からないと思います。その年その年の取り巻く環境とか天候に左右されるので。あとは監督が代わったりすると……」

今野「えぇ、練習の仕方で肥料の量を変えたりするんですか?」

勝矢「そういうこともあります。サブグラウンドばっかりを使う監督もいるので」

今野「言った方がいいんじゃないですか監督に。『芝に関わってくるので、もうちょっと場所を変えてやるなり。ずっとやるなら先に言ってくれ』と(笑)」

勝矢「こういうリスクがあるとお伝えするなど、チームの方とはコミュニケーションは取っています」


ジェネレーションギャップ

今野「ところで、生まれたときにJリーグがあったわけですか?」

勝矢「いや、まだ……」

今野「でもすごいですよ。物心ついたときにはプロサッカーがあるわけですから」

勝矢「そうですね」

今野「日本にサッカーは『キャプテン翼』しかなかったですから。だいたい、芝生でやるスポーツがなかったですよ。良かったですね」

勝矢「そうですね。この時代に生まれて(笑)」

今野「だから、瑞穂でのストイコビッチのリフティングとか、今後起きないでしょうね」

勝矢「すみません。ちょっと分からないです(笑)」

今野「えぇ!? 分からないんですか。みんな知ってますよ」

勝矢「そうですか。じゃ、今日You Tubeで(笑)」

今野「あははは……。雨でグラウンドに水が溜まるとドリブルできないじゃないですか。それでストイコビッチはリフティングで、だいぶ進んでいったんですよ。見てください」

勝矢「分かりました」

今野「革靴のゴールは見ました?」

勝矢「見ました、見ました。監督のときのですよね」

今野「あれもすごいですよね」

勝矢「よかった、ひとつ知ってて(笑)」



イライラはしません

今野「ご家族はどういう構成ですか?」

勝矢「父と母と姉です」

今野「グラウンドキーパーの家族っていうのは、どういう……。やっぱり、例えば選手の家族は試合を見に来るわけじゃないですか。試合を見に来たことは?」

勝矢「ないです」

今野「えっ!」

勝矢「グラウンドキーパーになってからはないですね」

今野「一目、見たくないですかね」

勝矢「スタジアムを管理していたとき、少しテレビに映ったときに電話はきました」

今野「選手どけよっ、みたいな。娘が見えない(笑)。対戦相手に合わせて、芝の長さを変えてくれって監督がいると聞きますが、それはあるんですか?」

勝矢「言われたことはありますね。次は長めだから、できたら長めがいいなって」

今野「短めはできますけど、長めは急にはムリですよね」

勝矢「そうですね。芝を刈らないくらいで」

今野「そんなに違うもんですかね、芝の長さで」

勝矢「違うみたいですね。あとは芝の種類とか。ボールの走り方が違うらしいです」

今野「ボールが止まるとか?」

勝矢「長いとそうなのかもしれないですね。雨だと滑るとか」

今野「イライラしないですか?」

勝矢「しないですね(笑)」

今野「なんでもいいからやれって思いませんか?」

勝矢「いや……」

今野「だって、役者が『舞台の高さを3mm上げてくれ』とは言わないでしょ」

勝矢「言わないですね。でも、違うんじゃないですかね。私には分からないですけど」

今野「何か要望はないですか?」

勝矢「要望ですか。芝の状態を見て、その都度相談はさせてもらっています。提案して、最終的に決めるのはチームの皆さんですけど」

今野「優しいですね」

勝矢「厳しい方がいいですか?」

今野「要望が通らないこともありますよね」

勝矢「でも毎回毎回、逆のことをしてくるわけじゃないので……」

今野「それは良かったです。文句はないですか?」

勝矢「大丈夫です。勝ってもらえれば何よりです」

今野「それですよね、結果が出ればね。最近のチームくらいだったらいいですか」

勝矢「そうですね。うれしいです」

今野「何か言い足りないことはないですか? サインは書きますよ。そもそも、俺のこと知ってますか?」

勝矢「はい」

今野「知らないで頼む人がいますからね。どう思いますか?」

勝矢「失礼ですね」

今野「最近すごかったのが、『お金を貸す人』って言われた」

勝矢「え?」

今野「例のCMを見たんでしょうね」

勝矢「あぁ、そういうことか(笑)」

今野「じゃ最後、お仕事頑張ってください」

勝矢「ありがとうございます」

今野「芝刈り機の刃に気をつけてください」

勝矢「わかりました(笑)」



インタビュアー:今野浩喜
構成:岩本勝暁

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