【VENTUS PRESS】林みのり 後編

今シーズン、リーグ開幕から唯一フル出場を果たしているのが林みのり選手。いずれの試合でも、猛者たちが集うピッチ中央で、攻守の絡むプレーを見せてくれています。空中戦、キック、忍耐強い守備——自身ではあえて“得意”ではなく、“得意な方”と表現するのも彼女らしいところ。それでも奥底に湛える闘志も垣間見せる林選手の魅力に迫ります。


Vol.54 文・写真=早草 紀子

「後ろめのポジションでも得点したい! 」 林みのり

—林選手はずっとボランチ一筋ですか?
小学生のときはトップ下とか、中学ではサイドハーフもやりました。守備側はあまりなかったと思います。

—守備に目覚めたのは?
高校時代です。私の悪い癖で、このボールは私が行った方がいいかなってプレー面でも気を使っちゃうところがあって、気が付くと守備をしている時間が増えてました(笑)。もちろん攻撃で上がることもありましたけど、ずっと攻撃に入っていたら守備のことはわからなかったかもしれないです。元々は足を出して一発でいっちゃうタイプだったんですけど、小さい頃はそれでよく怒られてました。だから我慢する、というのは今も頭の中にあります。

—WEリーグで戦うようになって、守備の意識に何か変化はありましたか?
高校とか大学時代は自分1人である程度奪えましたが、さすがにWEリーグでは力及ばずなかなかそういう形にはならないです。でも時間をかけさせて誰かに奪ってもらったり、またはその逆や、複数人で奪ったりということはできるようになってきました。

—林選手の特長の一つにはフィードを決めるキック力があります。
小さい頃から“蹴れる方”で、そのままきちゃった感じなんです。

—「得意です」とは言い切らないんですね(笑)。
はい、そこは(苦笑)。(上辻)佑実さんを見てると自分が「はい」とは言えません。あんな天才を見てるので、私は“得意な方”、ですね。

—ご自身が思うターニングポイントは?
大学時代だと思います。戦術をちゃんと理解できるようになったのが大学で。それまでは勢いと自分の感覚だけでやってたところがありましたが、大学ではポジション別で映像を見せてもらいつつ、タスクをわかりやすくまとめてもらってました。そういうアプローチが私的には初めてで、大きな変化になりました。

—そこに触れるとサッカーを見る目も変わりませんか?
日常ではあまりサッカーを見ないんです。でも、それじゃダメだなって最近思っていて・・・。もっとサッカーを知らないと! ボランチの能力って、練習の中でというより、実践の中で磨かれるものが多いので、トレーニングと言っても難しいところもあります。いろいろピッチ上で流れを見る“目”が大事なので、トレーニング後の仕事先への移動中、いろいろ映像を見るようにしようと思ってます。

—WEリーグは3シーズン目。最初の頃は「思ったよりもやれる」と語っていました。今はどう感じていますか?
そんなこと言ってましたね(苦笑)。今はむしろその逆、です。もっとやらなきゃいけない!って思うことばかり。「思ったよりもやれる」って、思ってると一生そのままな気がして…。実際にはゲームの作りでも物足りないし、ボランチとしてのタスクは全然足りていないと痛感しています。今、自分に欲しいのは支配力。単にボールをずっと握るということではなくて、攻守で支配できるような力。攻撃だったらその架け橋となる能力、自分主導で守備を動かせる能力を高めたいです。

—理想のボランチ像があるんですね。
前向きでかつ高い位置での配球が理想ではあります。行かなきゃいけないけど行ったら行ったで自分の背後にリスクが生じるし、なかなか難しいです。

—トップリーグで揉まれることで成長したところは?
空中戦はその一つかもしれません。元々得意だったんですが、競り合いのところは手応えを感じてます。これも試合で培われた要素だと思います。今シーズンは結構後ろめのポジションに入ることが多いので、上がるタイミングはチャレンジしてますね。やっぱり攻撃に貢献したいという想いはあるし、得点したいっていう気持ちもありますから!

—それでいくと、第14節のアルビレックス新潟レディース戦の有吉佐織 選手のゴールの流れは林選手がかなりゴール前に食い込んでましたよね。そして絶妙にスルーして有吉選手のゴールを引き出しました。
自分が一番ニアに近かったから、とりあえず入り込みたいと思って走ってたんですけど、ボールが結構マイナス気味だったので、自分的には「お願い誰かスルーって言って! 」と耳を澄ましていたら、アリさんの声が聞こえたんです(笑)。自分がボールを持ったとしてもシュートは打てなかったと思うので、ホントよかったです。

—アシストをつけたいくらいです。
私もそうして欲しい! 攻撃への絡みとしては、手応えのある形でした。

—守備の面で、自分の形を出せた試合はありますか?
この試合! というより、最近ちょこちょこあるパスカットをしてそのまま前線につなぐパスを出せるようになってきたことは成長かなと思えるところです。CBが関わらずにボールを奪えたら後ろも楽ですよね。それは空中戦でも言えることだと思います。私のところで奪うことが出来たら、攻撃にもいい形でつなげることが出来ると思ってます。

—今シーズンはチームとしても狙いがハマって勝利できたかと思えば、次の試合では良さを封じられてしまうなどアップダウンの激しいシーズンになっています。耐えどころだと思いますが、ここから終盤戦に向けて、一番大事なこととは?
チームとしてやりたいことを明確に表現すること。そしてそれを徹底すること、だと思います。苦しいから、良くなかったからとやめてしまうと何が正しいかわからなくなってしまうこともあると思うんです。苦しい時間帯もあるけど、必ずチャンスもある。前線の選手がプレッシャーをかけて奪える場面も今シーズンは増えてます。あれは狙っているからできること、それを全員がわかってるからサポートできる。そういう形もできてはいるから…。それをどの試合でも出せるようにしたいです。

—そういう目線は林選手らしいですね。
性格だと思いますよ(笑)。ちょっと引いてるというか…。ボランチは多いかもしれないですね。(牧野)美優もちょっとそんな感じです。新加入の選手はどの選手も個性豊かで面白いです。チーム内に競争も生まれて、いいことだと思います。

—ここから終盤戦。どう戦いますか?
やりたいことが埋もれちゃうことがある。守備の形や、攻撃の狙いどころを埋もらせないようにすることが大事。相手に合わせすぎなところも正直あると感じてます。相手がこう来たらウチらはこうしようっていうのも大事だけど、自分たちの良さをもっと出すための立ち位置を出していきたいです。個人的には少しでも、やれることを増やして今シーズンを終わりたいんです。

—目標は3ゴール5アシストでした。
まだいけますね! ホームで勝つ喜びは何物にも代えがたいと本当に感じているので、チャレンジし続けながらも、勝ちたいし、勝たなければいけないなって思ってます。


早草 紀子(はやくさ のりこ)
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。女子サッカー報道の先駆者であり、2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマンを務める。

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