MF11 奥抜侃志【マンスリープレーヤーインタビュー】


想定外の長期離脱

 後半戦のスタートとなった7月11日の第22節・V・ファーレン長崎戦で、奥抜侃志は今シーズン3試合目の出場を果たした。3月6日開催の第2節以来、およそ4カ月ぶりの戦列復帰を果たした。

 「久しぶりの出場だったので、アグレッシブに前から守備をすることと、チームとしてもとにかくゴールが欲しかったので、得点を奪うことを意識して入りました。監督からも前を向いてアグレッシブにやってほしいという指示がありました」

 試合直後に語った思いを、のちに補足するとこうなる。

 「だいぶキツかったですね。僕のなかでは過去イチぐらいにキツかったです」

 シーズンの入りは最高だった。開幕戦は[4-4-2]の2トップの一角でスタメンを勝ち取り、1-1で迎えた83分にヘディングシュートを叩き込む。2-1の勝利につながる得点を、幸先よくマークした。

 ところが、第2節のヴァンフォーレ甲府戦で左ハムストリングを肉離れしてしまう。全治までは8週間と診断された。

 リハビリから復帰までは、当初の見立てどおりに進んでいった。しかし、復帰までは4カ月強を要した。チームに完全合流して復帰間近、というタイミングで再発をしてしまったのだった。

 「再発から1週間ぐらいは『またか』という気持ちでした。僕はそんなにケガをしないタイプで、しても1カ月とか2カ月ぐらいで復帰できていたので。こんなに長く休んだことがなかったので、ホントに苦しかったんですけど、一度再発をしているのでまた再発というのは絶対に避けたかった」

 自分自身に対する期待を抱けるなかで、戦線離脱を余儀なくされてしまった。しかも、チーム状況は芳しくない。歯がゆさやもどかしさが、奥抜の胸のなかで広がっていった。

 「なかなか結果が出ていないのに、自分はチームの助けになれていない。試合をスタジアムで観たり、画面越しで観たりしていて、『自分は何をしているんだろう』という思いに駆られることもありました」

 1999年8月生まれの奥抜は、東京五輪の出場資格を持つ。五輪を戦っている選手とともに、U-20日本代表候補のトレーニングキャンプに招集されたこともある。開幕直後の負傷さえなければ、メンバー入りの競争に加わることができたかもしれない。

 「東京五輪を目指していましたし、選ばれたかったのですが……開幕戦でゴールを決めることができて、そこからいい流れに乗っていければと思っていましたが、ケガでアピールもできなかったので。まあ何とも……言えなかったですね」

 負の感情を振り払うには、ピッチに立つしかない。奥抜は気持ちを切り替え、リハビリに励んだ。「最初はあまり見たくなかった」という東京五輪を目指すチームのテストマッチも、「自分ならいまはどうするか」という視点で観るようになった。

 そうやってつかんだのが、長崎戦での途中出場だった。

 「ピッチに立てる喜びは、それはもう大きくて。練習は強度が高くて激しいんですけど、ボールに触れる楽しさがもう……うまく表現できないんですけど、これまでにないぐらいに楽しいです」


 
 リハビリ期間中には、筋トレに取り組んだ。

 「体を大きくしたいなというのがあったんですけど、大きくし過ぎるとバランスが悪くなってしまう。痛めたのがハムストリングで、下半身の筋トレはできなかったので、上半身だけ少しやったりしました」

 メンタル的には『EURO2020』に刺激を受けた。6月中旬から7月にかけて開催されたヨーロッパの頂点を決めるバトルには、奥抜と同世代の選手が出場していた。世界で活躍することを目指す21歳は、気持ちを奮い起こした。

 「EURO2020を観ていて、インテンシティは全然違うなと感じました。同い年の選手がいる刺激は大きかった。僕と同世代で海外挑戦している日本人選手も出てきているので、大宮で早く結果を残したいです。チームの勝利が第一なのでそれを求めつつ、自分のプレーを100パーセント出していきたいです」


もっと自分を追い込む

 岩瀬健前監督には2トップの一枚で起用されたが、霜田正浩監督の構想では3トップのウイングに当てはめられる。立ち位置が変わっているが、「やりにくさは感じていません」と話す。

 「自分はスピードが持ち味なので、サイドで1対1の場面があれば突破できる自信はある。その試合で起用されたポジションで、どうやってパスを受けるのかを考えています」

 奥抜と同じドリブラータイプでは、柴山昌也や松田詠太郎もウイングの候補だ。ボールの供給とシュート力に秀でる小野雅史も、このポジションで起用されている。

 「チーム内の競争は楽しいですよ。練習からバチバチ感を楽しみながらやっていきたい」

 霜田監督のサッカーへの理解も深まっている。「分かってきたと思います」と、奥抜は頷いた。

 「チーム全体で共有できている部分が増えています。僕自身も監督から要求されていることを、しっかり意識してプレーしていきます」

 今シーズンは「点を取る意識」を強めている。クラブの公式サイト上で、「2ケタゴール!」の目標を掲げた。

 「ゴールを取れる選手が上にいくなというのは、ここ何年か見て感じているところです。ドリブルだけでは、ステップアップできない。試合を決定づけられる選手になりたいと思っています」

 東京五輪の開催に伴う中断期間は、ゲーム体力とゲーム勘の回復に充てた。後半戦はスタートからチームに貢献するために、日々のトレーニングから自らを追い込んでいる。

 「スタミナを戻すことを第一に考えています、正直、けっこう落ちていたので。スタミナを戻しつつ、自分の得意なドリブルとかシュートの感覚をつかんで。試合勘もけっこう落ちているので、再開後に自分のプレーを出せるように準備できれば」

 長丁場のJ2では、夏場をいかに乗り切るかが大切と言われる。過去のシーズンを振り返ると、8月の戦いを経て上位、中位、下位という色分けがなされていく。

 奥抜も表情を引き締める。「夏場は苦手なほうです」と苦笑いを浮かべるが、気持ちはすでに再開後のリーグ戦に向いているかのようだった。

 「夏場の期間に、どれだけ自分を追い込めるか。残留から上の順位にいけるどうかは、ここでどれだけ自分を追い込めるかだと思っています。ファン・サポーターの皆さんにしっかりと勝利を届けられるように、頑張っていきます」


 

 

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