【VENTUS PRESS】有吉佐織

デジタルバモスでは毎月1回程度、大宮アルディージャVENTUS情報をお届けします。今回は大宮アルディージャVENTUSとして初年度のシーズンを終えたばかりの、有吉佐織キャプテンに話を聞きました。

Vol.014 文・写真=早草 紀子

「想像を超える苦しさもありましたが、それも含めて笑い飛ばせた」(有吉佐織)


長いシーズンを終えて

——5月22日にWEリーグ最終節を戦い終えたばかりですが、日本初の女子プロサッカーリーグを戦い終えたいま、あらためて振り返ってください。
「本当にいろいろな課題や不安もあったのですが、この1年目を戦い切れたというのは、周りの支えがすごく大きかったと思います。プレシーズンも含めて、最終的には思っていたよりもチームとしては形になったと感じてます。ただ、1年5カ月という長いシーズンは初めてだったので、いろいろ大変でした」

——一番大変だったのは?
「1シーズンにオフが2回ある感じなんです。スタートして体を作って、また年末に一度長いオフがあって、また体を作り直さないといけない。若かったらやっていけるかもしれないですけど、この年になるとコンディションの維持がなかなか……(苦笑)。なでしこリーグでやってきた10何年かが意外と体に染みついてました。WEリーグのやり方も慣れればそれが当たり前になるんでしょうけど、初年度でしたから環境の変化が堪えました」

——それはどうやって乗り越えたんですか?
「個人的にはケガの時期と重なったので、なんとか……。ただ周りの選手を見ていても気持ちをリセットし切れない、またすぐ戦いモードに戻さないといけないのもあって、選手によっては調整不足みたいなちょっとした失敗もあったと思います。でもVENTUSとしてはゼロからのスタートだったから、ありがたいところもあったんですけどね」

——始動したころ、今季は土台作りの年で、スローガンに掲げたZERO ONEの「1」が重要なんだと言っていました。「1」は築けましたか?
「途中……ちょっと雲行きが怪しかったですけど、なんとか形にはできたかなと思います。あとは“らしさ”が最後の最後で自然に見えてきた気がします。正直なところ、プレシーズンを戦ってみて、思っている以上に厳しいなと感じてたんです。もちろん最初からそんなにうまくいくとは思ってなかったけど、こんなにかと。そこの不安、危機感は大きかったので、よくここまで来たなと思う面もあります」

——雲行きが怪しくなったとき、有吉選手はどんな行動に出たのでしょう?
「今までやったことなかったことで言うと、選手同士のミーティングをする機会をたくさん持ちました。サッカーのこと、それ以外のことも含めて、選手だけで集まって話すのは多かったです」

浦和戦、決勝ゴールの秘話

——技術面だけでなく、経験値、年齢、環境などいろいろな意味で“差”もありましたしね。その雲が晴れてきたのはジワジワと?
「ジワジワとですが、前期よりは後期のほうが成長の跡が見えました。点を決められても取り返せていたり。勝ち切れないけど、取り返したり、盛り返したりできるようになってきたのが後期。特に日テレ・東京ヴェルディベレーザ戦(第15節、0-1)は負けてはしまったけど、ただ守るだけしかできなかった前期に比べて、ベレーザ相手に自分たちがやりたいこともやれた。結果だけ見れば0-0だった前期のほうがいいんでしょうけど、内容は手応えを感じるものでした。それがあったから三菱重工浦和レッズレディースに勝つことができた(第16節、2-1)と思います。本当はそこからもう一伸びしたかったんですけど、まだまだですね」

——確かにあの浦和戦はシビれました。やっぱりあの試合は特別なものになりました?
「まさか34歳になって、自分が決勝ゴール決めるなんて! 人生で初めてだったし、長くサッカーをやってればいいこともあるんだなって思いました(笑)」

——しかも鮫島彩選手から上辻佑実選手へ渡ってからフィニッシュが有吉選手。“87会”メンバーで仕留めたっていうのもレアケースですよね。
「初めてじゃないかな。セオリー的にはサメちゃんが上がったら自分はリスク管理しないといけないから(笑)。でも、あのときはサメちゃんから佑実にパスが入ると思ってたし、佑実は絶対こっちにターンするという確信があったから、セオリー無視で走り出してました。そしたらめちゃくちゃいいボールが来たんです」

——しかも浮かさずに振れてました。
「あれね…(笑)。じつはめちゃくちゃヒザが痛くてロキソニン飲みまくって出てたんです。あとで映像を見たら、ヒザが痛いもんだから軸足がすごく遠くて、若干芯を外してアウト回転かかった感じになって浮かさず、枠に決められたんですよね」

——まさかのこれが“ケガの功名”ですか!?
「そうそう(笑)。あれはヒザが痛くなくてしっかり踏ん張れてたら普通に芯食って、GKの池田(咲紀子)さんの正面に飛んでたと思う(笑)。あれを実力でやれたら最高なんだけどな」

“87会”の絆

——終盤戦のサンフレッチェ広島レジーナ戦では阪口夢穂選手がピッチに立ち、87会メンバーがようやくピッチにそろいましたね。
「少ない時間でしたが、最終戦までのそのわずかな時間はずっと待っていたものだったから、大事に大事にプレーしました」

——いつも阪口選手がピッチに入ると、近場にいればハイタッチしますけど、遠くにいても必ずアイコンタクトを交わす4人を見てると込み上げてくるものがありました。
「でもあれ、ミズホに『サメちゃんとキング、顔死んでたで』って言われてます(笑)」

——良いシーンなのに……(笑)。まあ最初から出ている身としては力を絞り出す時間ですもんね。
「そう、それは仕方ない! そんな状態でも、ずっと楽しみにしてた時間だし、また違う攻撃の形も見せられたし、最終戦のINAC神戸レオネッサ戦はそれが形になったと思ってます」

——阪口選手ならではの優しく的確なタテへのアシスト。一緒にリハビリを頑張っていた鳥海由佳選手のゴールが決まったのは本当に大きかったです。
「完全にスタジアムのお客さんを持って行きましたよね。2-5だったけど、ウチらが勝ったみたいな雰囲気のなかで終われました(笑)。試合としては早い時間に失点してしまいましたが、一点ずつ返して行こうと声を掛け合っていて、何もできなかった開幕戦よりは、得点やその姿勢といったものを見せれたんじゃないかなと思ってます」

——一方で試合終了後、乗松瑠華選手は泣き崩れてました。
「ああやって熱く素直に5失点を悔やむ気持ちはルカならでは。ずっとその熱さは持っててほしいんです。すごく大事なことだから。『胸張って挨拶に行こう』と胸と背中を思い切りたたいときました(笑)。ルカにはキャラでもサッカーでも助けられた一年でした」


もっと笑顔があふれるシーズンに

——一年かけて、ようやくチームとして形になり始めました。来季はこんなところを成長させたいというのはありますか?
「前への推進力が半端ないチームだからこそ、ここはリスクを負うべきところなのかどうか、試合の流れ、そこのバランスを取れる選手がもう少し増えれば、もっとよくなるチームです。個人的にはやっぱりサイドバックですから、無失点の試合を増やしたいですね。自分たちがゼロで抑えれば90分間ずっと得点のことだけ考えればいい選手が増えますから」

——楽しいシーズンになりましたか?
「めちゃくちゃ楽しかったです! 想像を超える苦しさもありましたが、それも含めて笑い飛ばせた。VENTUSはネガティブを笑い飛ばしてポジティブに変えられる。みんながそうなんです。来シーズンはもっと笑顔が多いシーズンにしたい。対戦相手から『NACK5スタジアム大宮の雰囲気ってすごくいいね』とよく言われるんです。素直にうれしいし、『同感!』と思いながらも、あれだけたくさんの人が応援にきてもらったけれど、勝利で応えることはできなかったじゃないですか。来季は特にホームであるNACK5スタジアム大宮での勝利を増やしてみんなで笑いたいです」



早草 紀子(はやくさ のりこ)

兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。女子サッカー報道の先駆者であり、2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマンを務める。

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