現役引退を決めた田嶋みのりスペシャルインタビュー

WEリーグ初年度、思いもよらないケガを負った田嶋みのり 選手。キャンプ中も悔しさを秘めながら黙々とリハビリメニューをこなしている姿が今も鮮明によみがえってきます。ようやく昨シーズンから出場機会を増やし、あらゆる局面で流れを変えるプレーを見せてくれました。引退の一報は周りを驚かせましたが、田嶋選手は1年前にこの大きな決断をしてラストシーズンに臨んでいました。彼女の表情から伝わってくるのは達成感。彼女がどのような思いでこの決断をし、どうシーズンを過ごし、どう終えようとしているのか——その思いをお届けします。




──引退という決断をしたのはいつ頃だったのでしょうか?
今シーズンが始まる前…、1年前です。昨シーズンの途中から引退というのはよぎっていたんです。ケガしてから身体のキレが戻らなくて、そんな自分がイヤでした。もうそろそろ(引退)かなって思ったのが、昨シーズン中。でも、ここで辞めたら絶対に後悔すると思ったので、あと1年できる限りやってみよう! って決めて臨んだのが今シーズンでした。

──リハビリ中は復帰に向けて強い想いを持てていたけれど、ピッチに戻ってきてみたら…、どうしても越えられないものがあった、と。
はい。昨シーズン、ようやく全部練習に参加できるようになりましたけど、思ったより自分が動けなくて、落ちたなって感じました。頑張って戻そうともしたんです。でも身体と頭のギャップが埋まらなかった。頭は動けてるときのイメージがあるのに、体が全然ついてこない。これは一番自分がよくわかってしまうから…。

──今シーズン、特にリーグ戦ではなかなかVENTUSとしてのスタイルが築けず、苦しい戦いが続きましたが、いろいろな選手から「たじが入ると推進力が出る」と度々田嶋選手の名前が上がってきてました。少しずつフィットしていくのかなと思っていたのですが…。
え~! すごく嬉しい!! プロっていうのは厳しい環境でもあるから、いろいろな選択肢も考えたんです。移籍もその一つ。でも一番大きなきっかけは結婚を決めたことです。ちょうど引退の二文字がよぎった頃に、結婚の話も出て、本当にいろいろ考えました。29歳という年齢もありましたし、コンディションの問題もあったから。でも後悔するのはイヤだったのであと1年、と覚悟を決めました。

──結婚! それはおめでとうございます! これも女性アスリートの一つの選択ですね。
本当にそう思います。だからこそ、ラストシーズンはしっかりと向き合いたかったんです。

──VENTUSとしてプレーして印象に残っている試合は?
サメさん(鮫島彩)との左サイドでのコンビネーションは、自分のやりたいイメージというか、好きなプレーでした。この試合の、ってわけじゃないんですけど、サメさんと組むときはいつもこれがコンビネーションだって感じのプレーをやらせてもらえたと思います。足が速いから、そのスピードを生かしたいって気持ちがあって、サメさんがオーバーラップしたところへのパスは特別な一本に感じていました。

──改めてVENTUSで成長したと感じるところは?
プロサッカー選手としての自覚、です。お金をもらってサッカーをする。初めてサッカーが仕事になって、責任感が出ました。仕事をしながらだとなかなか時間を割くことができなかったけど、パフォーマンスを上げるために食事やトレーニング、活躍するための行動がとれるようになりました。

──ターニングポイントを挙げるとしたら、いつになりますか?
ちふれ時代に指導してもらった菅澤大我 監督の頃ですね。海外の選手の映像を見せてもらったりしながら、初めて“考えながらサッカーをする”ことを学べた。サッカー観がガラッと変わりました。一番変わったのは相手の逆を突く楽しさを知ったこと。これがサッカーの醍醐味なんだなって初めて感じることができました。

──そうなると得意のドリブルの感覚も変わりました?
変わりましたね。どうしたら抜けるかをやってみせてもらいながら体得していったので、当時の私にはその“説得力”がすごく響きました。

──今後のビジョンは何かあるんですか?
本格的な指導者に、とは考えてないです。ただお声がかかれば、みなさんと楽しくボールを蹴れたらなとは思います。

──スクールコーチとして楽しそうに活動していたので、そういう道を見ているのかと思いました。
スクールコーチはすっごい楽しかったです! ただ将来的なものを見据えてやらせていただいていたというよりは、現役生活はあと1年って決めたときに何か残したいと思ったんです。それがスクールでした。子どもたちに「サッカーって楽しいよ! 」ってことは伝えられたと思ってます。

──今後もサッカーに関わったことをしようとは?
そういうのは…、ない(笑)! もうやり切りましたから。

──1年かけて心の整理をつけたから、もう心残りがない感じですね。清々しいです(笑)。
本当にそう! あとから悔いることがないように、この1年でそう思う可能性を潰していったというか、悔いが残りそうなところに「やり切った! 」と思えるところまで全力を注いだから。キツかったけど、筋トレの回数も増やしましたし、それで少し動けるようにもなった。でも、それはすべて“引退”っていうゴールを決めたからこそ、できたことだったとも思います。

──引退するかどうか決めるための1年じゃなくて、最後をどうプレーするかを求めた1年だったんですね。
まさに、それ! です。だから引退する気持ちが揺らぐことはなかったです。とにかく1週間のスケジュールをめちゃくちゃ詰め込みました。筋トレやスクールを入れて充実させようとしてましたね(笑)。自分を納得させるためにも。ここまで充実させることが出来たのはこの1年が最初で最後だったかもしれません。毎日が本当に一生懸命でした。だから、やり切った感じがすごくあります。もう突っ走った! 今、とってもスッキリしています。

──VENTUSに残していきたいものはありますか?
そんなの、おこがましくないですか(笑)?ん~…、強いて言うなら楽しくサッカーやってほしい! ぶっちゃけ29歳でやめようとしている私からしたら36、37歳でサッカーしてる87会(鮫島選手、有吉佐織 選手、上辻佑実 選手)のみなさんはすごい存在なんです。だから言えることなんて何もない(笑)。でも下の世代には…、うん、やっぱりサッカーは楽しくやってほしい。悩むこともあると思うけど、やり続けてたらチャンスもくるし、腐らずにやってほしいです。結局、楽しんでプレーすることが一番“伝わる”と思います。

──現役最後の瞬間をホームで迎えることができます。
本当に幸せ! 神様、ありがとうって思ってます(笑)。今シーズンはホームでなかなか勝てなくて、サポーターのみなさんも苦しかったと思うんです。でもいつも前向きな言葉をかけてくれた。感謝の気持ちでいっぱいだし、本当に選手たちの力になってました。私はすでに大宮アルディージャのサポーターですが(笑)、これからもできる限り応援していきたいと思ってます。今後は一緒にゴール裏で声を張ってるかもしれません(笑)。最終節は感謝の気持ちを目一杯込めて、魂のこもったプレーをピッチに残していきたいと思います。これまで応援していただき、本当にありがとうございました!


早草 紀子(はやくさ のりこ)
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。女子サッカー報道の先駆者であり、2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマンを務める。

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