現役引退を決めた吉谷茜音スペシャルインタビュー

吉谷茜音 選手のラストシーズンは、必ずしも順風満帆ではありませんでした。それでも、彼女のまっすぐにサッカーを楽しむ姿が消えた日はありません。「“人”に恵まれた」と彼女はふわりと笑います。それはきっと吉谷選手自身が“人”との出会いを大切にしてきたから。一日、一日を大切に過ごした日々を含めて吉谷選手が自身のサッカー人生を振り返ってくれました。



──大きな決断をしました。
はい。でもあまり苦しんで決断したという感じではないんです。30歳の節目ということもあって、そろそろかなって思いながらやっていた感じはありました。決心したのは…、いつって言われると、ここ!って言えないんですけど、結構早い時期で決断してました。

──まだシーズンもある中で、どうモチベーションを保っていたんですか?
最後のシーズンだから、どういうときもやり切ろうっていう割り切りがあったから、逆にがんばれたと思います。いろんな意味で苦しいシーズンではあったんですけど、最後だからこそ、楽しく終わりたい、サッカーを嫌いになって終わりたくなかったんです。

──一番苦しかったのは?
試合に絡めなかったことですね。練習試合で得点を決めても、自分の中で満足とまではいかなくてもよかったなと思えるプレーをしても、なかなか出場機会が訪れなかった時期が続いたときは、ちょっとひねくれちゃいそうだなって思うこともあったんです(笑)。でも、そんな時間すらもったいないと思って。自分の感情だけでチームの輪を乱すのは違うって思ったし、チーム自体もうまくいってない状態が続くことも多かったですから。スタンドから試合を見てても、みんな苦しそうに見えた。そんなときに選手ミーティングをしたんです。「試合に出てる人は背負い過ぎずに楽しんでほしい」って伝えたくて、話したんですけど、私、感極まっちゃって…。このとき、自分も悩んでる時期だったけど、みんなもそうだったんだって知れてよかったです。

──VENTUSとして戦ってきて、一番心に残っている場面は?
悔しかった場面になるんですけど、今シーズンのカップ戦でスタメンで出た第2節ちふれASエルフェン埼玉戦が30歳の誕生日だったんです。何度かチャンスはあったんですけど、決めきれなかった。古巣ということで気合いが入るわ、楽しみ過ぎるわで、前夜まったく眠れず。今シーズンで最後かもしれないっていう気持ちもどこかにあったから、完全に昂り過ぎましたね。でもすごく楽しかったですよ。だからこそ、決めたかったなっていうのが…。そこが足りない部分なんだなとも感じました。思えば、これが現役最後の試合になりました。

──VENTUSで学んだものとは?
サッカーを楽しむこと!アリさん(有吉佐織)、サメさん(鮫島彩)、(上辻)佑実さんの87会のみなさんが本当に楽しそうにサッカーしているのを見てもそう思うし、オンでもオフでもその立ち振る舞いとかは本当に学ばせてもらいました。だからサメさんの引退も、アリさん、佑実さんがVENTUSを離れることも、本当に寂しいです。87会はいつまでもサッカーやってると思ってましたから。サメさんとは練習でも一緒に組むこともあったし、アリさんとはマッチアップで、佑実さんはパサーとして数々のいいボールを出してもらいました。一緒にやってて本当に楽しくて、すべてが学びでした。

──これまでのキャリアで、それぞれに学んだことは多かったと思います。
高校時代、顧問の先生にサッカーだけじゃなくて、礼儀とか人としての部分を伸ばしてもらいました。当時のサッカーノートにはいっぱい言葉を書いていて…。あ~でもすぐに思い出せないのが悔しい!今浮かんだのは「勇気、自信、誇り」と「必要以上に侮らず、必要以上に恐れるな」という言葉。すごくシンプルで当たり前のことなんですけど、すごく大事なことですよね。これが大学で生きました。自分たちで何が足りなくて、どんなメニューをするかを考えるスタイルで、スタメンも自分たちで考えて監督に提出するんです。もちろん直されたりもしましたが、自分たちが主体となってチームを作っていく…。同期内でのぶつかり合いもすごくて、いろいろすごい経験をさせてもらったと思います。

──刺激たっぷりですね…。しっかり土台を作れたからこそ、トップカテゴリーで揉まれる強さが身に着いたのかもしれないですね。
そう思います。私は“人”に恵まれてここまで来てるんですけど、ちふれASエルフェン埼玉時代は特にそう思います。いいときも悪いときも、絶対に“一人”じゃなかった。監督の菅澤大我さんに出会って、サッカーの楽しさを改めて教えてもらいました。そうするとそれをしっかりと試合で出したい欲が出てきました。アンジュヴィオレ広島への移籍は一番悩みましたが、すごく地域に愛されているチームで、アンジュの路面電車とか作ってくれたり、本当に温かい応援をいただきました。アンジュでチャレンジする決断をしたからこそ、VENTUSから声がかかったので、悩んだ決断だったけど、意味があったんだって思います。


──改めて、どんなサッカー人生でしたか?

本当に“人”に恵まれたサッカー人生だったと思います。サッカーでも、仕事場でも、これだけは自信がある!本当にいい人たちに囲まれてました(笑)。サッカー的にもやり尽くしたと思えるので…。でも、なんでこんなにスッキリしてるのかわからないくらいです(笑)。ただ、最後に肉離れしちゃって、「なんで今!?」って思って、それだけがちょっと心残りかな(笑)。

──引退発表があってから、練習を見たとき、吉谷さんは別メニューではありましたが、そこにいることを大事にしていると感じました。リフティング一つ、ボール拾い一つにしても、すべてを噛みしめてるよう見えました。
めちゃくちゃ噛みしめてました(笑)!たじ(田嶋みのり)と2月くらいから、「今日は〇月〇日!」って練習前に言うようにしてて、それを言うとがんばれるというか、本当に噛みしめながら過ごしてましたね。

──最後にスタジアム内のサンクスウォークを終えて、ピッチを降りる最後の一瞬まで存分に楽しんでください。
…大丈夫かな、私、持つかな(笑)。なかなかうまくいかないことも多かったんですけど、ファン・サポーターの皆さんとは公開練習のときとかにお話する機会も多くて、本当に温かい言葉をくれたり、イジってくれたり、すごく楽しい時間を過ごすことができました。現役最後をVENTUSで過ごすことができてよかったです。サッカーが好きなままで現役を終えることができました。ツラいことも、すべてひっくるめてサッカーが大好きです!ここまでの30年、サッカー中心の時間は充実していて、やや濃過ぎ(笑)ではありましたが、サッカーができてよかったと心から思ってます。本当にありがとうございました。


※インタビューは最終戦前に実施しました。


早草 紀子(はやくさ のりこ)
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。女子サッカー報道の先駆者であり、2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマンを務める。

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