【VENTUS PRESS】牧野美優 後編

2023-24シーズン、VENTUSの新たな中盤カラーとなったのが牧野美優 選手です。165cmと長身を生かしたハイボールへの強さ、正確なキック力を武器に、ピンチを救い、チャンスを作ってくれました。見た目はクールな牧野選手ですが、その内側はギラギラとした“何苦楚魂”で満ちあふれています。すべてを吸収する!と意気込んで臨んだシーズンを牧野選手はどう受け止めたのか、必見です。


Vol.56文・写真=早草 紀子

「どんな形であれ、失わなければマイボール」 牧野美優

—牧野選手は生粋の中盤選手なんですよね?
そうですね。イレギュラーでCBとかSBに入ったこともありますが、基本的にはボランチ一本ですね。足がそんなに速くないので、サイドをやっても楽しくはない(苦笑)。

—ずっと同じポジションをしていると、どのような瞬間にサッカー観が変わるんですか?
私は大学のときです。正直ずっと試合に出れていたから何が正解なのか、役割を果たせてるのかわからなくなった時期があったんです。変化がなくて同じことを繰り返してるような気がして…。ミスしてもそれがいいミスだったのか、次につながらないミスなんじゃないかって。そう考えてしまっていた時期にケガして外から見る機会があったんです。

—確かケガからの復帰戦でケガをしたとか…。
はい…。復帰戦は後半から出たんですけど、20分で負傷交代しました(笑)。トータルでほぼ4ヶ月リハビリしてましたね。ケガをすると、長い時間自分と向き合うことになるじゃないですか。自然とベクトルが自分に向くんです。リハビリ中は体作りをしっかりしていたから、ケガする前よりも動けるような気がしていて、当たり負けしないようになったとも感じてました。外から見たからこそ、結構前を向けるんだなとか、ポジショニングも周りや試合展開を見て、こうしたら前に進めるとか、いろいろ気づきがありました。

—VENTUSの練習に来ていた頃の話ですか?
練習参加したのが5月で、6月に受傷…。もう無理だな、辞めようかなって思いました。WEリーグでプレーすることを目指していましたが、立て続けのケガで自信がなくなってしまって。でもどこかのカテゴリーでサッカーを続けていれば上に這い上がるチャンスはあるだろうって思い直しました。練習参加が私にとっては就職活動だったので、一般社会への就活もしてなかったですし、自分の生活の中からサッカーがなくなることが想像できなかったんです。周りのチームメートは所属先がどんどん決まってるのもリリースを見てわかってましたし、ここでサッカーを辞めたら自分が苦しくなるだろうなって思いました。

—新加入のときも「自分から売り込んで練習に参加させてもらって加入をもぎ取った」って言ってたじゃないですか。このギラギラ感って昔からですか?
高校時代からだと思います。結構、自分のプレーについて言われることが多くて、時々跳ね返せなくなるときもありましたけど(苦笑)、そこで強くなったんでしょうね。

—折れることなく、跳ね返す!でもこのメンタルは一生モノですよ。
本当にそれはそう思います。

—VENTUSに来たばかりのときはレベルが違いすぎると言ってました。VENTUSに来てからあえて変えたことはありますか?
高校のときは自分のプレーに対して意見を言われると「はぁ?」ってなってたんですけど(笑)、大学になると言ってくれる人がいなくなって、自分で成長を感じられなかったんです。だからVENTUSに来たらイチから学ぶつもりで、言われたことはすべて受け止めよう、全部吸収してやろう!と思ってました。

—ここまでで一番刺さったアドバイスは?
これ、本当のことなんですけど、すべてなんですよ。守備、攻撃、ポジショニング…。自分は何もわかってなかったんだなって思います。でも考え過ぎちゃうと体が動かなくなるタイプなんだっていうことには気づきました。考えてやってる方だと思ってたんですけど、どうやら感覚でやってることが多かったみたいです。

—それが馴染んでくるまでにはどのくらいの時間が必要でした?
正直、今もフィットしてるとは言いづらいです(苦笑)。まだ言われますし、逆にボランチとして言わなきゃいけないことも多くて…。自分がわかっていれば指示は出せるんですけど、やることがハッキリしてないとき、状況が定まってないときに自分の考えが合ってるかがわからない。ってなると、もう違うシーンに変わってるから…。

—牧野選手はいいキックを持っているので、その一本の方が雄弁だったりしませんか?
蹴れるってことは、柳井(里奈)監督もチームメートもわかってくれてて、そこは自信あるんです。スペースが見えたら逆に蹴っていいよとも言ってもらってて、最初は難しかったですけど、最近は自信を持って蹴るようにしてます。それで展開が変わったり、落ちつかせたりできる場面も増えてきていると信じてます(笑)。

—そんな牧野選手の初スタメンはWEリーグ第12節のノジマステラ神奈川相模原戦でした。
だいぶ緊張しました(笑)。みんなが緊張をほぐしてくれて、自信を持たせてくれたのでなんとかなりましたけど。自分をすべて出せたかと言われたらそうではないですけど、得点に絡むこともできましたし、良さは出せたのかなと思います。その流れがあって、次の試合では得点もできたので、ひとまず結果として形にできてホッとしました。

—印象に残っている対戦相手はいますか?
やっぱり浦和レッズレディースですね。最初の当たりで違うなって感じて…。ボールは動くんですけど、デュエルまでいかない。唯一、ハイボールの競りでは負けてはいなかったとは思います。でも落ちついて考えれば、もっとボールを受けて前を向けたし、守備も前に押し出していけたし、スタジアムで声が届かないってこともありましたけど、もっと自信を持ってやるべきだったと悔やまれます。

—その自信をつけるには成功体験。一番積みたい成功体験ってどんなことですか?
ボールを受ける前に、状況が見えてれば焦らないですよね。試合中も言い聞かせてはいるんですけど、考えることが多くて見えなくなってくる。“見れる”ようになる、この経験値を高めて、成功体験につなげていきたいです。

—一緒にボランチを組んでいる林みのり 選手も同じことを言っていました。
みのりさんとはタイプが全然違うので、みのりさんがバランス取ってくれる分、私は結構自由にやらせてもらえてます。たまに勢いで出て行ってしまうので、止められることもありますけど(笑)。

—タイプの違う二人が、違う視点で“見る”ことができたら面白いでしょうね。来シーズンはまた大きくVENTUSも変わります。どう戦っていきたいですか?
自分にできることを全力でやりきることしかできないんですが…、とにかくボールを失いたくなんです。前に進めなかったとしても、どんな形であれボールを失わなければマイボール。失わない選手になれば、ボールも出してくれるし、信頼も得られると思ってます。あとは得点!1ゴールじゃ足りないですよね。どこからでもどんな形でもゴールを狙えるようにがんばっていきたいです。


早草 紀子(はやくさ のりこ)
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。女子サッカー報道の先駆者であり、2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマンを務める。

FOLLOW US