今村南海 厳しいシーズンが予想されるからこそ持つことができた覚悟

今、チーム発足以来の大きな変化の年を迎えようとしているVENTUS。チーム構成が大きく変わり、今シーズン当初まではGKの末っ子だった今村南海 選手は、来シーズンは最もVENTUS歴の長いGKとなります。いつも明るい笑顔で練習に臨んでいる今村選手が、今オフに抱えた大きな葛藤を超えて抱いた決意を語ってくれました。

文・写真=早草 紀子


—2023-24シーズンはリーグ戦で4試合、カップ戦で1試合の出場機会がありました。今村選手にとってどのようなシーズンでしたか?
やっぱり一番は試合経験を積めたことは大きくて、成長につながるシーズンになったと思います。

勢いがあって上位を狙える時期につけていたアルビレックス新潟レディース戦、近い順位でライバル関係にあったジェフユナイテッド市原・千葉レディース戦、AC長野パルセイロ・レディース戦、絶対に負けたくないさいたまダービーの三菱重工浦和レッズレディース戦とリーグ戦では節目になる一戦を任されていた印象があります。
そう言われてみれば、確かにそうですね。カップ戦では生き生きとしたプレーができていましたが、リーグ戦では対策もされたことでなかなか思うような結果を得られずに、思うような試合展開ができないことが多いシーズンでした。みんな苦しそうで、あまり雰囲気が良くない時期もありましたから、自分もそこまで気が回っていなかったのが正直なところです。

—今シーズンは途中でスタンボー華 選手が海外へ挑戦し、高校を卒業した中村菫 選手が加入したことで、今村選手の立ち位置が変わりました。
末っ子のときは、華さんがやんちゃで(笑)、それをモチさん(望月ありさ)が引き締めてくれて、自分は自由にやらせてもらってたんです。スー(中村)が入ってきたことで、そうは映ってないかもしれませんが(笑)、自分なりにしっかりしないといけないと思いながらのシーズンを送ってました。

—来シーズンは最終ラインも含めて、今村選手は最もVENTUS歴が長いGKとなりますね。
大変ですよ…。だからものすごく葛藤がありました。いろいろ契約満了や引退の発表があってからの1週間は正直ボロボロでした。これまで一緒にやってきた人たちが一気にいなくなる…。改めて頼り過ぎてたんだなと感じる日々でした。自分と(乗松)瑠華さんが一番凹んだんじゃないですかね(苦笑)。

—それでも実践を得た今シーズンで自信になったこともあったのではないですか?
一つはクロスボールの対応。比較的積極的に出れたと思います。あとはシュートブロック。特に千葉L戦の後半に左手で止めた場面は、ずっと練習してきたセービングができました。手の出し方がめちゃくちゃよかった。それで言えば、浦和戦はそこがちょっと甘かったのかなと反省です。ただあの展開の中でもそれを感じ取れたから、後半に修正できた。これが経験値ということかと改めて感じました。

—柳井里奈 監督になって、ビルドアップのところは期待されていると思います。実践を踏まえて、成長を感じるところは?
ピッチでも周りから「ここを見てほしい」という話もあって、今までよりも一つ奥のスペースを見れるようになりました。人を動かすのは得意だったんですけど、そこが視野に入ってくると、選択肢がすごく広がったんです。でも今はさらにキック力を身につけたいです。

—そう思うきっかけがあったんですか?
INAC神戸レオネッサとの試合で、山下(杏也加)選手がトップの選手にロングキックをつけて一気にフィニッシュまでつなげているのを見て、「ロング一発でここまで生かせるんだ」って思ったんです。もちろん裏に抜け出せる選手がいるっていうのもありますけど、そもそも自分のキック力では届かないですから。弾道とか足元につけるキックは得意なんですけど、ひっくり返すキックは届かないなっていうのはいつも感じていたことなので、来シーズンは体作りを終えたら、最重要課題として取り組むつもりです。

—シーズン中にその片鱗はぜひ見たいです!
見せられるようにがんばります!

—来シーズンは確実にピッチ内の声が乏しくなりますよね。
だからこそ、GKの声が重要になってきます。サメさん(鮫島彩)もアリさん(有吉佐織)も経験値があって、ああいう声が出せてる。そこに比べたら自分らは到底及ばないけど、3シーズンずっとその声を聞いてた自分らが全員でコミュニケーションを取って、イメージを合わせていくことでカバーできるようにしないといけない。先輩たちに大きな指標をもらえたんだから、しっかり継承していることを見せたいです。ただ、そう思えるまでの時間は本当に苦しかったです(苦笑)。たじ(田嶋みのり)と(吉谷)茜音の引退は知っていて、その二人がいなくなることでも正直しんどかった中で、追い打ちのようにみんなの発表が立て続けにあったから…。もういっぱいいっぱいになって「もう無理だ!」ってマイナスにマイナスを重ねたときに、残る人たちで「来季はやるしかない!」って話になって覚悟を持つことができました。

—今村選手の目標は?
目標っていうのはないんですけど…。来シーズン、自分は厳しい戦いになることはわかっているので、やれること全部やって出し切ろうと思ってます。そして試合に出続けること!

—それが自信につながりますよね。理想のGK像はあるんですか?
シュートを打っても入らないんじゃない?って思われる存在になりたいっていうのはずっと思ってます。これも入らないの?って思わせたい。来シーズンからプロ契約になるんですけど、最初はプレッシャーに感じました。でも覚悟を決めてからは、今まで仕事があるからってやれてなかったことを全部なくしたいです。まずは、筋トレ!スピード、キック、ジャンプ…、全部伸ばします。

—今村選手、個人としてはどんなシーズンにしたいですか?
自分は、人としてアリさんみたいな存在になりたいと思って3シーズンを過ごしてきたんです。アリさんは必要なときに必要な言葉をくれました。ヤバイ状況なんだけど、ヤバくないテンションで伝えてくれる。気持ちが落ちすぎないようにしてくれるんです。言葉で伝えることは苦手ですが、自分のやりきる姿を見せて、チームのために周りの気持ちを落とさせないような雰囲気を作っていきたいです。



早草 紀子(はやくさ のりこ)
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。女子サッカー報道の先駆者であり、2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマンを務める。

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