【VENTUS PRESS】井上綾香
今シーズンから創設された女子サッカーチーム『大宮アルディージャVENTUS』。デジタルバモスでは毎月1回程度、採れたてのVENTUS情報をお届けします。



Vol.006 文・写真=早草 紀子

2度の大ケガを乗り越えた
井上綾香の新たなる挑戦

 
 プレシーズンマッチ最終戦のノジマステラ神奈川相模原戦で決勝ゴールを奪ったのが井上綾香だ。気迫を通り越して鬼気迫る球際のプレーは見るものを引き付けた。前十字靭帯断裂を続けて負い、ピッチから長く遠ざかっていた時期もあった。そんな彼女が自らをリセットするために選んだVENTUSでのスタートにかける想いを聞いた。

2度の大ケガを乗り越えて

——もともとは鮫島彩選手と同じチーム(河内SCジュベニール)の出身なのですよね。
「年齢が8つ離れているので全然被ってはいないのですが、サメさんはオフシーズンによく遊びに来てくれていて、なでしこリーグでプレーする選手と触れ合ったのはサメさんが初めてでした。余裕を持ってプレーしているのに速いしうまい。手を抜かず本気でやってくれるというか、本気のプレーを見せてくれていました」

——それから経験も積んで、成長を見せられてますか?
「まだ対等に張れるというところまでは行っていませんが、それなりには。でもサメさんにはサッカー面ではないですが、『もう26歳!? (見た目が)18歳で成長止まってる』と言われます(笑)」

——確かに。カテゴリー別の代表では、もっと小さいイメージがあったのですよね。
「身長はさほど変わってないんですけど、あのころはガリガリだったので、そういう印象があるのだと思います」

——スピードを武器にしていたプレースタイルでした。
「でもケガをしてスピードが落ちてしまったんです」

——前十字靭帯の断裂ですね。
「2018年の夏と去年の2月に切ってしまいました。復帰して少し経ち、オフが明けて『さあやるぞ!』というときの2回目だったんです。1回目のときはすぐに感覚が戻ってきたのですが、2回目は復帰から間もなかったこともあったのか、結構痛みが長引いて……ほぼ3年弱くらいまともにピッチに立てませんでした」

——スピードが落ちたと言ってましたけど、リハビリでトレーニング方法も変わったことで新しく強みになるプレーは出てきました?
「ケガをする前は全部スピードで行っていて、感覚でプレーしていました。ボールが来たら『全部行けるぜ!』という感覚でできていた部分が、できなくなった。でもケガをしたことで今までよりもサッカーを考えてやるようになりました」



心強いチームメートたち

——そんな厳しい時期を経てWEリーグ開幕元年にVENTUSを選びました。
「気づけばマイナビ仙台レディースに8年間在籍していました。仙台も好きだったし、もちろんそこでプレーする選択肢もありました。でも、VENTUSという新しいチームで、自分もゼロからスタートしてみたい気持ちがありました。環境もチームメートも全然分からなかったのですが、飛び込んでみようという気持ちで来ました」

——そして、入ってみたらこのようなメンバーでした。
「サメさんもそうだし、(上辻)佑実さんも仙台で一緒にプレーしてたので、自分のプレーも知ってくれてるからその二人と一緒にプレーできるのもうれしかったし、キングさん(有吉佐織)と(阪口)夢穂さんは同じチームでプレーしたことはなかったけれど、いろいろなことを教えてくれるし、プレーでも言葉でも伝えてくれるので、すごく勉強になります。『めっちゃ強くなれるチームだ!』と思いました。あとはシノさん(大野忍コーチ)。現役のときは一緒にプレーしてないのですが、うまいし、自分に持ってない感覚を持ってるので毎日勉強になります」

——大野コーチから一番盗みたいところは?
「動き出しです! なんかフラフラ〜ってしているけど、ここぞというときにはパッと一番嫌なところに入ってる。結局、シノさんが一番うまいです(笑)」



——チームが始動して半年。個人的に変化を感じているところは?
「最近では一番長くサッカーができています(笑)。ヒザがやっとなじんできたなと思います。2年くらいずっとテーピングを巻いていたのですが、VENTUSに来てそれが取れました」

——何も巻かずにピッチに立った感想は?
「すっごい解放感! しかもガッツリ巻いてたからスッキリしてます。でも筋トレには気をつかっています。ヒザが細くなりがちなので、毎日練習前にやる筋トレは欠かさないです」

——好調なコンディションで臨んだプレシーズンで印象に残っている場面は?
「それはもうノジマステラ神奈川相模原戦のゴールです。あのゴールの前から、あゆさん(仲田歩夢)とゆきさん(坂井優紀)のところでいいイメージがあって、あとは決めるだけという流れだったんです。3人でも『そろそろ点取らなきゃね』と話していて、イメージは3人とも合っていたからスムーズに生まれたゴールだと思います」

——相手も引くほどの気迫でした。
「いや、その前に2本くらい外していたからそろそろ決めないとヤバイなと、すごく焦っていて……。目に見えない何かに追われてました(笑)。あと、なかなかあのような崩しの形を作れなかったので、相手を崩して点を取れたことにみんなホッとしたと思います。練習試合でも最初は全然点が取れなかったんです。それが最近ようやく流れのなかで点が取れるようになってきました。あとはちょっとしたズレの調整だと思います。でもそこは絶対に良くなると思うのでWEリーグでは流れのなかからしっかり点を取りたいです」

——紅白戦を見ていても、どちらのチームも活気がありますよね。
「いいですよね、ああいうの。最初からいい雰囲気でした。自分はあまり声を出すタイプじゃないんですけど……あの元気で明るい雰囲気はVENTUSの良さだと思います。当たり前なのですが、手を抜く選手が本当にいないんですよ」


WEリーグ開幕に向けて

——9月の開幕が近づいてきました。ここからどう高めていきたいですか?
「前のポジションなので、シュートまでのイメージを練習から多く出していきたいです。点を取れる選手になりたいという思いは昔と変わらず持っています。チームで絶対に必要だと思ってもらえる選手になりたいです」

——まさか前線で坂井選手とコンビを組んでいる姿を見るとは思っていませんでした。
「いや、ホントですよ! 仙台のときにタテ関係で組むことはあったのですが、まさかトップの位置で組むとは……。結構試合中とかもリラックスしているんです、あの人(笑)。スローインのときなんて、ゆきちゃん(坂井)のほうが近くにいるのに、疲れてるから『無理。行って!』とか託されることもあって、『はいはい(笑)』って私が行くハメになるのですが、仲が良いぶん、お互い強くも言えるしやりやすいです」

——いつも一緒にいますよね。さて、開幕戦の相手はINAC神戸レオネッサです。井上選手が考える試合の見どころは?
「INAC神戸レオネッサが強いのは分かっています。そこに全員で食らいついて行けるのがVENTUSです。それはWEリーグでは一番だと思ってます。良い相手とできると思って、全員で勝つ!という気持ちで臨みたいと思っています」

——その次に控えるのはNACK5スタジアム大宮でのホーム開幕戦です。スタジアムの印象は?
「今までタイミングが合わなくて、NACK5スタジアム大宮でプレーするのはプレシーズンマッチが初めてだったんです。大きさもすごくいいし、ユアテックスタジアムも結構客席とピッチが近かったのですが、それよりもファン・サポーターの皆さんとの距離が近い気がします。だからこそ、VENTUSのサッカーをまた見たいと思うプレーをできるように全員でがんばるので応援よろしくお願いします! ゴールを決めたら、ゴール後のパフォーマンスを考えておきます(笑)」


早草 紀子 (はやくさ のりこ)
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。女子サッカー報道の先駆者であり、2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマンを務める。

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