有吉佐織 選手はVENTUSが始動した当初からチームを牽引し続けています。相手の嫌がるポジショニングを取り、身体の角度一つで侵入経路を半減させる。ピッチでは誰よりも頼りになる存在です。常に数歩先に目を向ける有吉選手が見据えるVENTUSの未来像とは——?多くの経験と努力によって育まれた彼女の強さの真髄に触れるインタビューです。
Vol.52 文・写真=早草 紀子
—あっという間に3シーズン目です。改めてそれぞれのシーズンを振り返ってもらえますか?
1年目はすべてのことが手探りでした。サッカーはもちろんですが、そこに行くまでの段階での準備を結構がんばった1年だったように思います。試合やプレーのクオリティも誰も手は抜いてないし、向き合ってきたけど、VENTUSとして、プロサッカー選手としてやっていく上での環境を整えるために、このチームの未来のためにやるべきことをやっていました。
—クラブとしても新チームを作るというのは何年も手掛けていなかったため、練習場やロッカーの整備…。さらにコロナ禍ということもあり、その都度修正しなければならないことも多くありました。
今ではそれもすごく前向きにとらえています。きっとこの経験があったから選手会にも興味が沸いたし、男子選手の話を聞いてどこまで要求していいものなのかを知ることもできました。今は日本プロサッカー選手会(JPFA)の理事をやらせてもらっていますけど、まだまだ学ぶべきところはあります。
—…2年目は?
難しいんですけど、いろいろ“我慢”のシーズンでした。リスクを負ってまでチャレンジするかどうかのシーズンで、他のチームはチャレンジを選んで、VENTUSは我慢を選んだから6位という結果になったと思います。ただVENTUSが強くなるためには、この成績ではない方がよかったのかもしれないと考えることもありました。
—結果がついてきてしまうと、その“我慢”から抜け出すのが難しくなります?
そうですね。だからこそ、3シーズン目はチャレンジ色の濃いものでありたいんです。
—現在5位にはつけていますが、今なかなか思うようなサッカーが貫けず、苦しい状況でもあります。
柳井(里奈)監督になって、どんどんチャレンジしていたカップ戦がよかったじゃないですか。あのまま右肩上がりに成長していけるのが理想だけど、そんなことある訳ないのです(苦笑)。だけどVENTUSというチームがこれから先積み上げていく上では、一年をとおしてやっていくことの中身が大事。自分が最年長だから言えるのかもしれないけど、目の前の試合の結果も、最終順位もすごく大事だけど、それより先につなげるような何かを積み上げていきたいんですよね。そのためのチャレンジだから、ノーリスクは嫌だ!って思っちゃいます。
—初年度とは異なる難しさがありますよね。プロリーグ3年目となれば、個々に結果が重要視されてくる時期でもあります。それは個々で乗り越える必要があって、なおかつ、“チーム”としてどう挑戦していくのかも視野に入れられる選手をどれだけ増やすことができるか…
いろいろ伝えていこうとは思ってはいますが、自力で掴まないと経験にならないんですよね。だからこれまで以上に姿勢を見せていかないと、とは思ってます。1、2年目に背負っていたものを今シーズンは下の世代に少し渡して整理をつけているので、違う形でのサポートはしようと思ってます。今シーズンはちょっと長い目で見てもらえれば…。
—有吉選手のその精神力はどこから来るんですか?モチベーションがあっても、フィジカルがキープできないと、マイナスへ引っ張られますよね?
だってこっちは進み続けないと終わるしかないから(笑)。それにやっぱり悔しいんですよ、すべてにおいて負けるのは。今シーズンは試合に出れないこともあって、同じポジションの(杉澤)海星には頑張ってほしいんですけど、やっぱり悔しいんですよね(笑)。だから突き進むことができているんだと思います。この年齢になると、こういう感情がいつなくなるかわからないじゃないですか。でもそれがある限り、続けられる。絶対に試合に出る、勝つ、チームのためにプレーする!っていうのがあるからやれる。でも、矛盾もあって…、もう一回ここからうまくなりたい!そういう気持ちにさせてくれる海星に感謝したりもするんです。
—有吉さんって…。
なに、気持ち悪い?
—なんでそうなるんですか(笑)!ついていきたくなる選手たちの気持ちがわかります。代表週間も終わって、WEリーグも再開します。アルビレックス新潟レディースと対戦した翌週は、三菱重工浦和レッズレディースとのさいたまダービーも控えています。
相手によって多少の戦術は必要だけど、それよりもまずは自分たちがやるべきこと、VENTUSとしてどういうサッカーをやるべきかが大事。少し思うのは、タレントが揃ってて結果が出ているチーム…、例えば浦和、INAC神戸レオネッサ、日テレ・東京ヴェルディベレーザとかに対してリスペクトし過ぎはよくないです。強豪だからボール回されちゃうよねって空気が流れるんです。真向勝負って訳にはいかなくても、“同じ人間なんだから”くらいがちょうどいいんだと思うんですよね。
—リスペクトが過ぎると、消極的な選択肢に振れがちですよね。できるはずなのにやらない選択をする…。
そう、安パイを取っちゃうんです。やれるんだ!っていう自信が必要なんですけど、それこそ試合で掴み取っていくものも多いから、最初から消極的だと…、ね。でも1点差のゲームが多いっていうのは、ギリギリの試合ができてるってことなのでプラスにとらえたいですね。
—ここからの終盤戦、どんなプレーを見せてくれますか?
他チームからノーマークだったカップ戦は柳井さんのサッカーもそうだと思うんですけど、みんなが前にいく姿勢があった。3点取られても4点取り返す、みたいな。攻撃も守備も積極的にアクションを起こしてアグレッシブにやっていきながら、自分たちの個性を出すのがVENTUSの魅力だと思う。フィジカル、スピードに溢れた選手もいれば、玄人好みのちょっと変化を出せる選手もいる。いろんな選手が混ざり合ってるサッカーを見せたいです!応援よろしくお願いします。
早草 紀子(はやくさ のりこ)
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。女子サッカー報道の先駆者であり、2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマンを務める。