【VENTUS PRESS】スタンボー華
今シーズンから創設された女子サッカーチーム『大宮アルディージャVENTUS』。デジタルバモスでは毎月1回程度、採れたてのVENTUS情報をお届けします。



Vol.005 文・写真=早草 紀子

「VENTUSを“引っ張る”存在になりたい」
INACから加入したスタンボー華の秘めたる野心

 
 どんな状況でも欠かさず最後尾から聞こえてくる “声”——その主がスタンボー華だ。2018年FIFA U-20女子ワールドカップで、日本女子が唯一手にしていなかった優勝をつかんだメンバーでもある。タレントぞろいのINAC神戸レオネッサで定位置をつかんでいながら、22歳のチャレンジに大宮アルディージャVENTUS(以下、大宮V)を選んだ。ひとつ一つの想いを丁寧に紡ぐ姿に、GKとしてだけでなく、人間として“言葉”を大切にしていることが伝わってくる。貪欲に、元気に、時に厳しく、時に楽しく——ほんの少し、等身大のスタンボー華を感じ取ってもらいたい。

——INACで定位置をつかんでいたスタンボー華選手の移籍は正直驚きました。
「みなさんそう思いますよね。INACでは、世界経験の豊富な選手が多いなかでやらせてもらっていて、引っ張ってもらえるけれど、引っ張ることはできない。GKとしては自分でどうにかしていかないといけない部分もあると思うんです。(引っ張ってもらえる)ありがたさに気づきつつも、そこに甘んじるのもちょっと違うかなと。私が欲しいものを得るにはかなり時間がかかるかもしれないと感じていて、だったら、WEリーグができるタイミングで、環境を変えて挑戦したいと思いました」

——大きな決断だったと思うのですが、先々を見越して行動するタイプなのでしょうか?
「いやいや……タイプ的に言うと先は見越せません!(笑)。自分は結構、感情的な部分があって、先を見越しすぎて逆に空回りするタイプです。今回はその場に居続けて得られるものと、動かないと得られないものを天秤にかけたときに、得られるものが大きいのではないかっていうのが一つ決断の要素としてありました」

——大宮Vで得たいものとは?
「人を引っ張っていく、人を動かして自分の考えを伝えて守れるようになる、という目標はいまも変わらないのですが、この5カ月、このチームで過ごしてみて少しずつ考えに変化がありました。新しいチームなので、もともと基準がない状態で、自分の基準を押し付けてもそれは合わせられないし、それぞれに基準はある。いろいろな人が集まったなかで自分がしたいことはあっても、それを押し付けてはダメだというバランスが大事だと感じました。また、チームと自分の求めていることが少し違ったとき、どうしていくか。曖昧なところをどう自分で言葉にして落とし込んでいくかということは、新たに学べることなのではないかと思っています」

——難しいところですよね。空気読んでばかりではダメだし。スタンボー選手の良さの一つにあえて空気を読まずにガンガン行くところがある。それは空気を読んでいないとできないことで、それを新チームでやるのは相手がどう受け止めるかわからないから難しい。結構、時間かかりました?
「まだかかってます(笑)。5カ月と言っても代表活動などで1カ月近く離れていましたし。代表に行けたことはすごく良かったのですが、1カ月のロスは痛い部分もありました。ただ自分のなかで対策のようなものは見えてきています」



NACKで感じた独特の雰囲気

——そんななか4試合ではありましたが、プレシーズンマッチを戦いました。これは大宮Vらしいと思えるプレーは出ましたか?
「攻撃で言えばカウンターですかね。やっぱりベレーザのように阿吽の呼吸でパスをつなげるかと言ったら、あそこまで達するにはまだ時間がかかる。だったら自分たちの個の力を生かしたカウンターというのは魅力的だと思います」

——そのうち2試合はホームNACK5スタジアム大宮で開催されました。
「INACでもホームゲームは力が入って、素晴らしい経験だったんですけど、NACK5スタジアム大宮で感じたのは、女子だけのチームと違う応援の仕方というか……ひとつ一つのプレーに何かしらの反応がある。もちろんINACのときもあったのですが、反応の仕方が違う。そこは男子を応援されてる方々独特の雰囲気だなと思いました。いつもは自分たちがJリーグを見ている立場でそれを体感していましたが、自分たちが直にその空気感に触れるというのは面白いです」

——それは初めて聞く視点です。声援はないとしても拍手やどよめきどころが違うということですよね?
「そうです。やっぱり一人ひとりのプレーにどよめくというのもありますけど、迫力を求めてるんだなと感じました。女子と男子の迫力は違うので、『このタイミングでこのどよめきか』というのは発見というか新鮮というか。また違った応援なので思わず反応してしまいました。あ、もちろん試合には集中してましたよ(笑)」

——それは確かに感じるところがありました。スタンドにいる観客のみなさんが求めてるものが、沸きどころでわかる。無理なボールでも全力で追いかけたりするプレーは好ましいんだなと。
「わかります。あと、バチっ!と人と人がぶつかり合うだとか、そういう体を投げ出すみたいなのも沸きますよね。ちょいちょいちょいっと相手をかわしてつなぐっていうところも盛り上がるけど、裏にボーンと抜けて、バチーンとシュート打つと盛り上がるなと」

——観客席の反応、かなり見ていますね。
「もちろん試合は集中してますよ!」

——はい(笑)。GKにも、反応がいい人、読みがある人、視野が広い人、指示を出せる人など、いろいろなタイプがいます。共通して必要なのが簡潔に伝える能力だと思うのですが、状況を瞬時に判断して端的に伝える。この能力はどうやって体得していくのでしょう。
「それは……まだ全然、体得してないです(苦笑)。ただ、危険を察知すると『ヤバイ!』って思うんです。だから“声”は『首振って見といて』になる。結構、言葉に詰まりますよ。『そこ……ウッ!アッ!』って(笑)。しっかり指摘できていたら防げたのに、ということもあります。後からなら何とでも言えるし、それが一番簡単じゃないですか。だから間違っていても、『そこ怖い!』『そこは気にしといてほしい』『真ん中バランス見て』『CB後ろ走りそうだから見て』『前、走りそうだったら前に声かけて』といったように、まず怖いところは伝えるようにしてます。まだ、体得はしてないです(笑)」

——そういう怖さを誰よりも早く感じ取る第六感も重要です。
「性格的に自分は“ビビり”なんですよ。そういう意味では、その“ビビり”も有効に使えてるのかもしれません」

——アッという間に開幕まであと2カ月です。スタンボー選手の目指すプレーとは?
「勝とうが負けようが、自分が納得するプレー。ここは良かったと必ず胸を張れるようにしたい。それが一か八かのプレーではなくて、自分のなかで論理立てた上で狙ったプレー。自分自身に自信を持たせるプレーを目指したいです」

——そして開幕戦の相手はINACです。ファン・サポーターの皆さんにどんな試合を見せたいですか?
「GKとして目指すのはシンプルに無失点。攻められる時間が多いかもしれないですけれど、相手がどこであれ、初戦は無失点で勝ちに行く! だから、皆さん応援よろしくお願いします!……言うのはタダなので強気に言わせてもらいました(笑)」


早草 紀子 (はやくさ のりこ)
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。女子サッカー報道の先駆者であり、2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマンを務める。

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