【VENTUS PRESS】仲田歩夢
今シーズンから創設された女子サッカーチーム『大宮アルディージャVENTUS』。デジタルバモスでは毎月1回程度、採れたてのVENTUS情報をお届けします。



Vol.004 文・写真=早草 紀子

仲田歩夢、名門クラブからの挑戦。
「絶対に大変。でもそこに飛び込んでみたいと思った」

 
 プロ同様の環境が備わったINAC神戸レオネッサで9年間プレーしていた。恵まれたその環境を失ってでもチャレンジする価値があると信じてVENTUSへやってきた。仲田歩夢、27歳。ケガでスタートこそ出遅れてしまったが、WEリーグプレシーズンマッチ第3戦の日テレ・東京ヴェルディベレーザ戦でスタメン出場を果たした。VENTUSにとって最終戦となったノジマステラ神奈川相模原戦では、仲田も絡んだコンビネーションで決勝ゴールが生まれた。アンダーカテゴリー代表として、強豪チームの一員としてあらゆる経験を経たいまの彼女だから感じるVENTUSの可能性は、前向きなものばかりだった――。

——9年間のINACでのプレーで最も成長したと感じることは?
「ポゼッションサッカーというか、つなぐ意識を持ったサッカーをINACに入って初めて触れたんです。知識としてほぼゼロに等しかったので、そこは一番学べたことです。あとは気持ちの部分。INACにいたからこそ強くなれた。もともとメンタルは弱かったんですけど、それでもたくさんの先輩方に揉まれて強くなりました」

——澤穂希さん、大野忍さん……当時なでしこジャパンを牽引するそうそうたるメンバーがいましたから、新人としての仲田さんは完全に委縮してしまっているように見えました。
「いっぱいいっぱいでした。教えてくれたり伝えてくれることも、怖いと感じてしまい、1年目は毎日のように『明日練習に行きたくない』と、家に帰ると泣いてました(笑)。でも徐々に伝えてくれること自体がすごくありがたいことだと自分でも分かってきてからは、かけてもらった言葉を自分のなかにうまく取り入れられるようになりました」

——そんな環境を長く経験していて、初の移籍でVENTUSを選びました。
「これまでにも何度か移籍を考えたことがあったのですが、まだINACでもやってみたいとか、絶対に移籍したいという気持ちになったことはありませんでした。でも今シーズンは『今だな』と思えた。実はオファーが来る前からVETUSには興味があったんです。もちろん絶対に大変だし、このままINACにいた方が、自分が楽なのはわかっていたんですけど、そこに飛び込んでみたいと思った。INACに入団したときの“挑戦したい”という気持ちと似ています。そのときと立場は変わるけど、面白そう、楽しそうというポジティブな感情が大きかったんです」




心に決めていること

——初代VENTUSの選手たちを見たときの感想は?
「有さん(有吉佐織)とかサメさん(鮫島彩)とか(阪口)夢穂さん、(上辻)祐実さん……といった私より年上の選手と一緒にプレーができるのはすごくうれしかった。あとは、前のチームでもどかしい気持ちを抱えてる選手たちが覚悟を持って移籍してきたんだろうなと。私も出場機会を求めて移籍を決めたし、そういう同じ気持ちで戦えそうだなと思いました」

——4試合のプレシーズンマッチを経験して、自分なりに挑戦したいことも見えてきたのではないですか?
「挑戦か……私もケガでプレシーズンの少し前から合流し始めたばかりで、まだレギュラー争いも厳しい状況にある。でもここでプレーするにあたって、自分で決めていることがあるんです。INACから来たから、年齢的、経験的にとか『きっと使ってもらえるだろう』と思わないこと。正直言って、INACのときとはレベルの差があることは確かです。だからこそ、変わらないパフォーマンスをしなければいけないし、むしろそれ以上のことができないと結果は出ないし、チームのためにつながらないと思うんです。だから自分がまず頑張らないといけません」

——そういう姿勢を仲田選手が見せることで、ほかの選手の奮起につながりますよね。
「今までは自分がそういう先輩の姿を見て何かを感じさせてもらう側にいたけど、これからは自分も見てもらえる選手になっていきたいと、このチームに来て思うようになりました。攻撃の選手なので得点面や、積極的な仕掛け、粘り強さ、切り替えの速さとか、要所要所で“強さ”をどんどん見せていかないといけない立場にいると感じています」

——レベルの差を埋めていくには、いろいろな選手が個々に成長していくことが一番。それが追いつくまで、チーム力をWEリーグのレベルに持って行くためには、それを知ってる選手たちが今まで以上の動きをしてその差を埋めていかないといけない。
「そう思います。いきなりうまくなることはできないじゃないですか。でも本気でがんばろうとする選手たちなんです。話をしているなかで合わないことも、合うこともあります。時にはもどかしいところもありますけど、だから伝え方とか、同じ方向を見てプレーすることは大事です」

——初めての中堅の悩みですね。経験ある選手たちが、一つのことをすごく丁寧に言葉数を増やして伝えてるのがわかります。きっとその先にVENTUSのカラーが生まれる。ある一定のレベルに達するまではこの作業は必要ですよね。でも若い選手が貪欲に聞きに来るのがこのチームの良さでもあります。
「若いときの自分はできなかったのですごいと思います。私ももっといろいろ聞きに行けばよかったなといまになって思います。何より上の世代だけに任せていない感じがすごくする。そういうのを見たり感じたりするともっと自分もやらなければと思います」


イメージどおりの得点

——4試合のプレシーズンマッチを終えてこれからのVENTUSのイメージも湧いてきましたか?
最終節の得点シーン、ああいうプレーはいいイメージですね。あれは自分がボールを出して、もう一度、自分も動くという自分の課題でもあるプレーなんですけど、あのときはイメージができた。ユキさん(坂井)もヒールで残してくれると思ってスピードを上げてなかに入っていったんです。それがイノ(井上綾香)へのアシストにつながった。ちょうどあのプレーの前の飲水タイムにその3人で『厳しくなりそうだから早めにゴールを取ろう!』と話をしていたんです。結果につながって本当によかったです」

——ようやく見れたコンビネーションでした。
「そうですよね。まだコンビネーションのところは合い切ってないし、一つひとつのパスのコース、ボールを置く位置が合っていけばもっと形ができてくると思います」

——そういうプレーをNACK5スタジアム大宮で見たいです。
「もともとNACKは好きなスタジアムなんです。サイズ感もいいし、距離も近い。そこに自分たちを応援してくれる人たちがたくさんいる状況は初めてだったので本当にうれしかったんです。そのホームゲーム2試合をどちらも勝ちで終われなかったのはすごく悔しい。9月のWEリーグ開幕時には、いまよりももっとレベルアップした姿をみなさんにお見せしたいです」

——ここまで3カ月。成長率としては右肩上がり。そしてここから開幕までも残すところ3カ月です。
「大事な期間です。ここで何ができるかで結果が変わってきます。必ず全員でレベルアップします。だから、またオレンジに染まったNACKでプレーができたらうれしいです。それまで私たちVENTUSのことも忘れないでいてほしい……。積極的にSNSなどの発信もしていきたいと思いますので、そちらも楽しみにしていただきながら開幕を楽しみにしていてください!」


早草 紀子 (はやくさ のりこ)
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。女子サッカー報道の先駆者であり、2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマンを務める。

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