【VENTUS PRESS】坂井優紀


Vol.003 文・写真=早草 紀子

新しい環境で日々成長するベテランの坂井優紀。
「どん欲な姿勢は何歳になっても大事だなと痛感しました」

高い打点から一気にゴールへ突き刺す鋭い一撃——。プレシーズンマッチのジェフユナイテッド市原・千葉レディース戦での決勝ゴールはこの人、坂井優紀が頭で合わせたものだった。前所属のマイナビ仙台レディースではチームを牽引したベテランが、VENTUSでは初心にかえって一から学びの日々を送っている。

——もともとFWでプレーしていましたよね?
「そうですね。その後、INAC神戸レオネッサでサイドバックをやるようになって、センターバックを本格的に始めたのは仙台のときです。試合に出られない時期があったのですが、大宮アルディージャでもプレーしていた村上和弘コーチと話をしていたときに『センター(バック)もできるのになぁ』ってポロっと口から出たんですよね。そしたら村上コーチが『そうなん⁉』ってなって、そこから練習でやり始めるようになったんです(笑)」

——一番難しかったことは何ですか?
「ラインをそろえること! 自分はけっこう前にガツガツいく方だから(相手に)食いつきすぎてしまうんです。いつ我慢して、いつ行っていいのか、その判断は悩みました。いまはサイドバックをやっているので、またそれはそれで悩みます」

—— “サイドバック坂井”の強みは何ですか?
「スピードを持って裏に飛び出せるオーバーラップですかね。点が取れる、点に絡めるサイドバックだとみなさんに思ってもらいたいです。あとはカバーリングも一番のストロングポイントです」


——以前、VENTUSは新しくできるチームだという最大の魅力があると言っていましたが、当然大変なことも多いですよね。
「それは……大変なこともあります(笑)。でも、すでにでき上がっているチームに行くのは、そこに自分を合わせることができればある意味ではラクだと思うんです。チームの色に合わせるのではなく、一からみんなで作り上げることができるのは、やっぱり魅力的です」


頼もしいチームメートたち

——集まってきたこのメンバーを見たときの印象は?
「サメ(鮫島彩)さん、みずほちゃん(阪口夢穂)、キングさん(有吉佐織)、ゆみさん(上辻佑実)の名前を見たときに『うわ~!超楽しみ~!!』ってなったんですよ。シノさん(大野忍)がコーチというのも! みんないろんなことを経験してきてるし、たくさん教えてもらえる、早く一緒にサッカーしたいとワクワクしました」

——そろそろチームの方向性など見えてきましたか?
「まだまだ(力を)出し切れてないと思います。自分も最近、キングさんとタテの位置関係を組み始めて、まだキングさんを全然生かしきれてないんです。そこはもったいない。最終ラインの4人がそろっていないときもまだまだあるし、考えることが多すぎて(笑)。でも、もっとできるぞというのはあります」

——ケガ人などでまた違うメンバーとの組み合わせも出てくるなか、これまでは有吉選手がいろいろと声掛けをして整えていた位置をやることになりました。彼女の動きを見ていただけに見習うべきところがありそうですね。
「そうなんです。それができれば、より一層攻撃にかかわれると思うんです。この前のプレシーズンマッチのサンフレッチェ広島レジーナ戦では、キングさんがあまりボールに触れてなくて……。なんで自分はこんなにキングさんを生かせないんだと。あれから自分のポジショニングを含めていろいろ話しをして、それを紅白戦などで試してみたり……。そうすると、そればかり考えてしまい別のプレーに支障が出ました(笑)」

——きっといまはそうやっていろいろと問題点を出していく時期ですね。触れずにはいられないのが坂井選手のセットプレーの強さです。トレーニングマッチからプレシーズンマッチ初戦と連続でセットプレーを決めています。何か自分の中で変化があったのでしょうか。
「理由はわかりませんが、とにかく安定して良いボールが入ってくるんです。源ちゃん(源間葉月)もすごく良いキックを持っているので、ここに入れようとみんなで話しているところにピッタリ入れてくれる。こっちはマークを外してタイミングよく入っていけばいいだけなんです」

——入っていけばいいだけって……それが大変なのですが(笑)。その感じだと、まだまだパターンがあるということですね。
「ありますね。(長嶋)洸も(大熊)良奈も身長が高いですし、(乗松)瑠華も強い。自分に強いマークがつけば、いつでもほかの人が飛び込めます!」


若い選手たちから得る学び

——頼もしいですね。VENTUSは若い選手も多いですが、年齢的にもチーム内の役割は意識しますか?
「声掛けなどは意識しているのですが、なにせ自分も先輩たちから吸収しなければいけないので、練習中は初心にかえって若手同様のスタンスです。前チームのベガルタでもベテラン層だったので教わる機会がなくて、おろそかにしてきたことがいっぱいあったんだなと」

——上の人たちから刺激を受けることは想定できたと思います。若手から吸収していることはありますか?
「VENTUSの若い選手たちは『この瞬間どこ見てますか?』『何考えていたのですか?』とかすごく積極的にどん欲に聞きにきてくれるんです。こちらは答えるだけで必死なのですが(笑)、(成長のために)どん欲な姿勢は何歳になっても大事だなと痛感しました。そういうのをサメさんとかキングさんは1~100まで全部答えてくれるんです。それもすごいのですが」

——一歩ずつ進んでいるVENTUSですが、5月8日には初めてNACK5スタジアム大宮のピッチに立ちました。
「2800人以上の方が見に来てくださり、本当にありがたかったです。コロナ禍ですが、手拍子や、一つひとつのプレーに対して拍手を送ってくださったり、温かいサポーターの方々と一緒に戦えるのがうれしくて、なおさら勝ちにこだわらないといけなかったのですが…。でも、あの0-1の敗戦も自分たちにはすごく価値のあるものになりました」

——試合前は緊張しました?
「めっちゃしてました! でもみんなが『大丈夫だよ』『一人じゃないんだから』と声をかけてくれたし、会社の方々が横断幕を作ってくれていたのも目に入って…緊張してる場合じゃないぞと。その緊張も良いプレッシャーにできたかと思います」

——次は5月22日に日テレ・東京ヴェルディベレーザをホームに迎えます。言わずと知れた名門チームです。当然のことながらプレス強度も上がってくることが予想されます。
「いま、この一戦に向けてみんなで前からプレッシャーをかけて奪おう、などいろいろと話し合っています。できることとできないことが出てくると思いますが、勝利にこだわりながらたくさんチャレンジをしていきたいと思っています。みなさん、ぜひ応援よろしくお願いします」


早草 紀子 (はやくさ のりこ)

兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。女子サッカー報道の先駆者であり、2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマンを務める。

FOLLOW US