【VENTUS PRESS】杉澤海星

デジタルバモスでは毎月1回程度、大宮アルディージャVENTUS情報をお届けします。今回は、8月に開催されたFIFA U-20女子ワールドカップに出場した、杉澤海星選手に話を聞きました。

Vol.018 文・写真=早草 紀子

「自分が相手より走れば勝てるということを強く感じました」  (杉澤海星)


準々決勝で見せた驚異の粘り

――FIFA U-20女子ワールドカップに出場し、準優勝という結果を得たいま、思うことはありますか?
「うれしい……です」

――煮え切らないですね(苦笑)。
「正直に言うと、ワールドカップに挑む前は決勝まで行けると思っていませんでした。決勝では実力で負けた感じだったので、やり切った感はありました。でも、振り返って映像を見返したりすると悔しさがあります」

――対外試合ができないままワールドカップへ向かいました。どのあたりから「行ける」と確信できたのですか?
「初戦のオランダ戦は大事だと思っていて、そこで勝てたことで波に乗れたというのもあります。でもやっぱり一番は、負けたら終わる準々決勝のフランス戦です」

――延長戦のラスト1プレーでVAR待ち。そのチャンスをゴールに結びつけて、その後のPK戦を制す……しびれました。
VARのあいだはもう『お願い~!』って祈るしかなかったです(苦笑)

――劇的な勝利を収めたそのフランス戦の前に、選手だけのミーティングを行ったと聞いています。一気にチームが団結したこのミーティングで、杉澤選手はどのようなことを伝えたのでしょうか?
「この年代になって思うようになったのですが、大人になると好きなことをできる人は限られてくるじゃないですか。自分たちが好きなサッカーでワールドカップに出られるのはすごいこと。だから、結果で周りの人に恩返しできるといいね、といったようなことを話しました」

――いいこと言いますね。
「でも、みんなの心に一番刺さったのは大場朱羽選手(イーストテネシー州立大)の『いま、コロナ禍で東日本大震災のときのような状況になってる日本に、自分たちの勝利で元気を届けよう』という言葉でした。さすが朱羽(笑)。がんばろう、届けようと彼女のその言葉で強く思いました」

世界に通用した“走力”

――杉澤選手のアップダウンは見応えがありました。
「自分でも実際に感じていましたけど、周りのみなさんからそこを見てもらえて本当にうれしかったです。自分としてもそこは武器として出して行こうと考えていたので」

――この大会で成長を感じたところは?
「どのような状況でも気持ちの変動がなかったこと。常に落ち着いてプレーできましたし、自分が相手より走れば勝てるということを強く感じました」

――攻守においてその強みが出ていました。
「海外のチームを相手にすることでわかる部分も多いと感じました。国際試合ができていなかったなかで、練習試合でもそうですが、初戦のオランダ戦でうまくいくシーンが多かった。そこでうまくつかんだことで、自信を持ってプレーできたと思います。ウイングバックのポジションは攻守どちらの役割も大事になってきます。一番自分の強みを出せるポジションだったので、プレーしていて楽しかったです。最終的に走りは気合いでしたけど(苦笑)

――世代別代表は年齢が近いというのもあり、どっしりと構えている上級生と元気はつらつの下級生。いいバランスでした。
「私はおとなしい組でしたけど()、下の選手たちがワイワイ騒いでましたね」

――昨季、大宮アルディージャVENTUSでプレーした経験を、U-20でのプレーに落とし込めましたか?
「昨季はサイドでプレーするようになって、自分のプレーが定まってないというか、がむしゃらにやるしかない状況でした。そのなかで自分が走れるということを再認識しました。今大会これだけ『前に前に走ってやろう』というプレーをできたのは、VENTUSでプレーしたからこそだと思います」

――CBではあそこまでのアップダウンはないですもんね。
「スタミナは自信があったのですが、スピードがまったくなくて。藤野あおば(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)とは日テレ・メニーナ・セリアスや十文字高でも一緒にプレーしていたんですけど、代表で一緒になったときに『ミホシさんってそんなにダッシュするんだね』と驚かれました()


VENTUSの一員としての目標

――逆に、U-20の活動からVENTUSに持ち帰ってきたものは?
「下の子たちが要求してくるんです。『自分はこうしたいからこうして』とどんどん言ってきてくれる。そうしてくれると、こっちとしてもやりやすいんです。VENTUSでは自分が一番下の立場だけど、自分のやりたいことをどんどん伝えていかなければと思いました」

――VENTUSは先輩後輩関係なくコミュニケーションを取れるのでは?
「そこは自分の問題だと思います。これまではCBのポジションだったので人を動かす側だったから……VENTUSで動かされる側をやるようになってわからないことだらけで、要求するところまで行かなかったんです。それがわかり出してきているので、こういうパスがほしいということはもっと言っていきたいです」

――1ヶ月の代表活動から戻ってきてチームに変化を感じますか?
「この1ヶ月でけっこうチームを作り込んでいるので、チーム戦術を早く理解しなければと思いました。サイドを起点にした攻撃が多いので、よりゴールに迫っていけるように意識したいです」

――先日はカップ戦で久しぶりにVENTUSとしての実戦でした。
「全然ダメでした……個人で打開できないとダメですよね。ドリブル突破もそうですし、ポジショニングもそうですけど、必ず一人ははがせるようにならないと」

――チームとしても昨季は悔しい結果だったので、もう一段階ステップアップしたいところですよね。
「はい。今回、ワールドカップで感じたことがありました。土壇場で勝てるチームだったじゃないですか。試合中に『これが負けないチームだな』という実感があった。失点しても『大丈夫、行ける!』と思っていたんです。それはなぜかわからないのですが、一つ言えるのは、やっぱり日本の選手はすごく走れるんですよ。チームのために戦うという意識が海外のチームよりも強い。それが勝てると思ったポイントでもあります。だから、目の前の選手よりも走る。あれ? 自分『走る』しか言ってなくないですか()。でも、そうなんです」

――特に国際試合ではそうですよね。最後まで走れていれば……。
「勝てる! WEリーグでも同じだと思います。たとえムダだったとしてもその走りでスペースを空ける、守備も速く戻る。ここをしっかりやれれば負けないと思いました」

――しんどいときにそれをどれだけできるか、なんでしょうね。では最後に、今季はどのようなプレーでNACK5スタジアム大宮を沸かせてもらえますか?
「昨季は相手との駆け引きをまったく楽しめていなかったので、楽しんでプレーしたいです。観ている方にも『この選手のプレーは楽しそうだな』と思ってもらえるようにしたいですね。あと、ゴールもこだわりたいですし、守備の部分でも結果を出す年にしたいです」


早草 紀子(はやくさ のりこ)
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。女子サッカー報道の先駆者であり、2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマンを務める。

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