パワーアップした姿で復活!

U-20女子ワールドカップを決勝まで駆け上がったチームを、キャプテンとして牽引した杉澤海星 選手。彼女が練習試合で右膝前十字靭帯損傷したのはWEリーグ2シーズン目開幕目前のことでした。術後、懸命にリハビリに励み、驚異の回復力を見せた杉澤選手は、ついに第20節ジェフユナイテッド市原・千葉レディース戦の終盤、NACK5スタジアム大宮のピッチに戻ってきました。約7か月間、求め続けていた場所に立った杉澤選手に話を伺いました。

—まずはお帰りなさい!コンディションはもう問題ないですか?

杉澤 絶好調!という訳ではないですが、もう痛みはありません。まだ試合勘が戻っていないですが、ちゃんとサッカーを楽しむことは出来ていて、これまでプレー出来なかった分もっとやりたい気持ちがあるので、ここからどんどんやって行こうって感じです。

—U-20女子ワールドカップを戦った手応えをWEリーグにぶつけようとしていた、まさにその時の受傷でした。

杉澤 オフもありませんでしたから、疲労もあったんだろうと思います。開幕前最後の練習試合だったんですけど、チーム的にあまり状態がよくなくて、ちょっとダラっとした雰囲気があったんです。自分が守備の部分でがんばろう!ってボールを獲りに行って切り返されたときにやってしまいました。コンディションがよかったからついて行けちゃったんですよね。初めてのケガだったんですけど、「これか!」って、もうその瞬間にわかりましたよ。膝が思いっきり中でズレた感覚があったので、これはやったな、と。

—調子良さそうだったので、実は少しケガの心配はしてました。

杉澤 わかります(笑)、そういうときにケガするって言いますよね。でも自分的にはそこまでショックじゃなかったんですよ。遅かれ早かれ、ケガってするものだと思ってましたし、こういう壁はあるだろうなと。ただ「今か・・・」とは思いましたけど。でもリハビリはやることが本当に多くて、あっという間の半年でした。

—そのリハビリが順調過ぎて驚きました。

杉澤 本当に順調で・・・練習の全合流は6か月くらいだったと思います。悔しいっていう気持ちがあまりなかったから焦りもなくて。不思議なんですけど、1シーズン目は高校卒業後すぐで試合にも出れないし、自分を表現することも出来ない。ただ時間が過ぎてっちゃったって時期もありました。今シーズンはケガでプレーは全然出来なかったけど、成長できてるって自分で思えるんです。

—特に成長を感じるのは?

杉澤 ケガのことでメンタルも鍛えられましたけど、サッカーを観るようになりました。Jリーグとかバルサ(FCバルセロナ)とか・・・スペインのサッカーは面白いですよね。そのおかげで、ずっとやる方が好きだったんですけど、観るのも面白くなりました。観てて楽しいのはやっぱりバルサ!同じサイドバックの選手・・・(アレックス)バルデとか(ジュール)クンデとかはさすがです。

—いろんな視野を持ってサッカーを観ることが増えたんですね。気分転換も出来るようになりました?

杉澤 ケガの前に自動車教習所に通ってたんですけど、ケガで中断してて、動けるようになって再開して無事に免許取得しました。普段は近場しか乗らないんですけど、一度、祖父母を乗せて箱根まで運転したんです。めちゃくちゃ喜んでくれました(笑)

—いいツールを手に入れましたね(笑)。今シーズン、外からVENTUSを見たことで感じるチームの成長はどう捉えてますか?

杉澤 みんな同じ意識を持ってサッカーをしようとしてるのを感じました。つなぐ、蹴るの判断もそうだし、シンプルにゴールに向かう意識が出てきたから昨シーズンよりも点が取れてるし、勝てる試合も増えてきたんだと思います。

—そんな変化の見えるチームに、わずかな時間ではありますが第20節ジェフユナイテッド市原・千葉レディース戦で復帰しました。

杉澤 これまでと全然違う感じでした。アップから久しぶりに緊張感がありましたし、ドキドキワクワクしてましたね。実際試合に入ったとき、相手と競ってライン割ったんです。審判が相手を差したから「いや、マイボーでしょ!」って思わず叫んでたんです(笑)。そのときふと我に返って、「こんなに熱くなったの久しぶりかも・・・これが“試合”だよな」って思いました。しかもNACK5スタジアム大宮での試合が、昨年の最終節以来だったから、なおさらみなさんからの拍手や声が嬉しかったです。

—復帰戦、これだけはやり通す!と決めていたことはありますか?

杉澤 走り切ること!

—出た、杉澤選手の十八番!リハビリをすることでより一層走力に磨きがかかったのではないですか?

杉澤 走る段階に入った際に、和田トレーナーに「ケガする前よりも走れるようにしてください!」と話してメニューを組んでもらったので、おそらく走れるようになってるはずです。まだ自覚はないですけど、ステップや身体の使い方もしっかり落とし込んだので試合でそういう感覚を掴んでいきたいです。

—いよいよ最終節を迎えるんですが・・・

杉澤 あ、言いたいことがあるんでした!

—いいですね、そういうの。どーぞどーぞ!

杉澤 自分の中で一番悔しかった試合って昨シーズンのさいたまダービーで三菱重工浦和レッズレディースにアウェイで勝った試合なんです。これまでは悔しい試合で思い出す、っていうのはなかったんですけど、これからはこの試合のことを思い出すだろうなと。

—勝ち試合ですよね?一体何をしたんですか? もしくは何をしなかったんですか?

杉澤 その試合、自分は出てないんです。アリさん(有吉佐織)がケガもあってギリギリまで出られるかどうかわからない状態で、前日のセットプレーの合わせとかは自分がサイドバックとして入ってました。結局アリさんが出たんですけど、今思うと「でも結局アリさん出るよね」っていうレベルでの準備しかしてなかった。アリさんはしっかり決勝ゴールも決めたじゃないですか。チームが勝ったことは本当に嬉しかったんですけど、終わったときに「自分って何してるんだろう?」って思ったんです。

—自分はごまかせないですからね。まだやれることがあったのにやってないことを自分は知ってるから・・・

杉澤 そうなんです。アリさんが出て当然だと思っちゃってる自分がいた。その試合から随分経ってからなんですけど、アリさんに「ミホシには負けないから」って言われたんです。アリさんは自分をそういう風に見てくれてるのに、自分自身が引いちゃってそう見れてなかったことに、情けなさを感じました。弱いなって。言葉では表せないけどすごく悔しい試合だったんです。だから来シーズンのダービーでは何かしら残したいです!

—その頃にはサッカー勘も戻って、“新生ミホシ”が誕生してるかもしれませんね。今週末は今シーズンの締めくくりとして最終節がホームであります。目標である6位フィニッシュのためには負けられない一戦です。

杉澤 ケガしたときも、ファン・サポーターのみなさんから「早くピッチで駆け回る姿を見たい」という言葉をすごくかけてもらったんです。そこは絶対として、その上で見てる人がワクワクするようなプレーをしたいです!

—サイドはどうしても中を使うイメージですが、ゴールという形もありますしね。

杉澤 ・・・確かに(ウィスパーボイス)

—ビックリするほど声量が落ちましたけど(笑)

杉澤 フィニッシュは・・・課題ですね。「自分が決めてやる!」って意識を持つところから始めます。来シーズン、期待しててください!


早草 紀子(はやくさ のりこ)
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。女子サッカー報道の先駆者であり、2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマンを務める。

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