女子選手初のJPFA役員就任を受けて

先月、都内で日本プロサッカー選手会(JPFA)の総会が行われ、有吉佐織選手が役員に就任しました。女子選手としては初めてのこととなります。まだまだ走り始めたばかりのWEリーグの代表としてJPFAの活動からどんなことを学び、VENTUSとしてできることは何か、有吉選手に聞きました。

 —女子サッカーにはそもそも選手会というものはありませんでしたよね?
有吉佐織選手(以下、有吉) はい。WEリーグが設立されるにあたり、初めて選手会というものを立ち上げることになったのですが、その際に、(宮間)あやさんをはじめ、近賀(ゆかり)さん、(永里)優季とか、海外で選手会の知識がある選手含めて女子部を作る上でどうしていこうかっていう話し合いをしてくれていたんです。最初は候補というか、やっていく人を決めないといけなくて、初年度は南萌華(元三菱重工浦和レッズレディース)が支部長で私と植木理子(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)が副支部長を任されました。

1年目は初めてのことばかりで大変だったのでは?
有吉 まずはどういうものにするのか話し合おうって感じのスタートでした。作ったことで1年が終わってしまいました(苦笑)。連絡がチームによって滞ってしまうところもあり・・・、初めてのことだらけで、WEリーグ選手としてそれぞれのチーム代表者もどうすればわからない。そもそも選手会に対しての理解度が低すぎたから、まずはそこからで。1年はそんなことで駆け足で過ぎて行ったからメディアのみなさんにも報告できるようなものが何もなかったんです。

—そこから南選手が海外へ移籍することになって・・・
有吉 そう! 通常は副支部長から上がるということで自分は理子を推したんですけど、理子が「いつ海外挑戦するかわからないし」と言えば、「そんなの、こっちはいつ引退するかわからない」っていう言い合いになりつつ、結局は有吉で行こうということになった次第です()。コロナ禍が落ち着いてきて、JPFAの役員に私が入ることになり、ちょうど吉田麻也さんが選手会長に就任するタイミングだったので、記者会見をした、ということです。

—これまでにも総会には参加していたのですか?
有吉 総会自体は2回くらいオンラインで出たことがありますが、内容的にも男子のことがメインだったから、「イイねボタン」を押すくらいで(笑)。今回は自分が役員に就任するということだったので対面で参加しました。

—総会の印象を教えてください。
有吉 自分も含めて女子選手は、もっとリーグやサッカー環境をよくするために考えないといけないなって感じました。会議の議題ごとに担当となった選手がチーム内でヒアリングをすることも多いんです。今まで自分はなでしこリーグも含めてみんなに意見を聞いたり、話をするということをすることもなければ、されたこともなかったから、こういうことは本当に大事だと感じさせられました。こういうことをやっていかないと自ら考えるという機会がない選手も多いんです。

—選手自身が権利などを考える責任もあるということが、こうした総会に出ると感じ取れるんですね。
有吉 男子選手はこういうことに慣れているのもあると思うんですが、女子選手の方が我慢しちゃうのかなと感じます。実際に話を聞いていても、自分からしたらそれは許容範囲だと感じることもあります。そういう“意見”と“我侭”って紙一重じゃないですか。そこが難しいです。

—大きくメディアでも取り上げられた今回の役員就任ですが、会長でもある吉田麻也選手はどんな存在ですか?
有吉 彼はすごいですよ。海外で一人で戦ってきた経験は強い! いろいろなことに対して知識があるし、ずっと代表キャプテンをやってきた人だからか、出てきた意見に対しても、「それは甘えだよ」っていうのもハッキリ言えるんです。選手側から出てきた全部の意見を鵜呑みにする訳じゃないから、その会議のなかで整理されていくのがいいですね。

—海外と日本の対応の違いもわかってる。その見極めができる人がいるのは大きいですね。こういう機会に触れると向き合わないといけない現実が見えそうです。
有吉 女子選手は、与えられた環境の中でやってきた人が多いから、そこに対して何か行動を起こして変えていこうっていう気持ちがすごく薄いと感じます。そうなっちゃってること自体は仕方ないというか、そういう環境のなかで育ってきた事実は受け止めるしかないけど、変わっていかなきゃいけないっていうのは強く感じてます。今回の就任で、いろいろとインタビューを受けていて、一人ひとりが考えて発信、行動するのが大事だということを実感しました。

—そのためにどういう行動が必要になってきますか?
有吉 自分は“吉田麻也タイプ”ではないので、発言力がある訳じゃない。だからこそ、プレーはもちろん、プレー以外でも貢献したいんですよね。ただそのやり方がわからない、という状況だったから選手会を通じて頑張れることがあるならやりたいと思ってます。

—有吉選手は、いつも何か新しいことに取り組もうとする姿勢を見せてくれますよね。
有吉 そもそもWEリーグができたのは歴代の先輩たちのおかげだったりするじゃないですか。そういう方たちへの感謝の気持ちもあるし、プロサッカーリーグができて、そこでやらせてもらえるなんて幸せなこと。いろんな人たちへの想いがあります。自分は“人”が好きだからそういう人たちのためにって何かしたいという気持ちが大きいです。

—ここ数年、有吉選手はずっと何かの土台作りをやっている気がします()
有吉 本当にそう! 女子の選手会の方も移籍した選手もいますし、自分もあちらの役員になるので、女子支部の代表者がまた変わります。兼任してもいいんでしょうけど、自分的には他に女子支部長をしっかり作ってその人にも総会にぜひ参加してほしい。できるだけあのような場に触れられる人を増やしていきたいんです。あの場の空気感を知ったら、もっとやらならきゃ! って普通に思うはずだから。

—そういう意味ではVENTUSからできることもありそうじゃないですか?
有吉 そう思います。大宮は男子チームもあって、すでに男子の選手会長の中野誠也くんと、佐野(秀彦)社長と原(博実)フットボール本部長とミーティングをさせてもらったんです。こういう試みを初めてやったのは大宮だけど、(日テレ・東京ヴェルディ)ベレーザもやったらしいので、こうしたことを知ってもらえるとまた違うじゃないですか。一応活動内容は選手のみなさんに届くように代表者にメッセージは送るんですけど、なかなか見てもらえない。ウチのチームですらきちんと目を通してる人は少ないんじゃないかな。

—これはアスリートに限ったことではないですが、連絡事項は特に興味を持ってもらうって難しいですよね。
有吉 チームからの連絡ですらちょっと流し読みなところがある(苦笑)。重要なことはあとで読み返すけど、選手会についてあとで読みなおすってことはほぼないと思うんですよね、きっと自分事じゃないから。でも、一瞬だけ女子ワールドカップの賞金上がったって内容にはみんなちょっとだけ食いついてましたね()。わかりやすく金額が跳ねてたから(笑)。

—まずは大きく見過ぎずに、VENTUS内で意識改革をして、そのなかでこんな変化がありましたよ、VENTUSはこんなことできましたよと提示していく手もありそうですね。
有吉 それならやりやすい! こうしたらこうなったっていう成功例を見せられるといいんですよね。一人ひとりの意識、責任、覚悟が薄いがゆえに他人事になっちゃうと思うので、それが選手会に対してとかじゃなくても、もっとそこが出てきたらプレーも変わるし、一人の人間として全体的にバージョンアップすると思うんです。そういう想いを持つこと、考え方をすることっていいことしかない。今も持ってると思うけど、もっと自覚が芽生えて、WEリーグをよくしていきたいって思う人がちょっとでも増えたらWEリーグは確実に変わっていくと思ってます。

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