【VENTUS PRESS】今村南海 前編

GK——たった一つしかないポジション。常に自分と、そしてライバルと向き合うシビアさでいけば、最も過酷と言えるかもしれません。VENTUSで先輩の背中を追い続けてきたのが今村南海 選手です。高校2年でGKへコンバートされ、そのポテンシャルの高さからWEリーグへの道が開かれました。躊躇なく相手の懐に飛び込める今村選手のシュートストップ力の起源につながる言葉の数々。等身大の今村選手の魅力に迫ります。

Vol.40 文・写真=早草 紀子

「やり続けないといけないことはわかってました」今村南海

—WEリーグでプレーするということで、自分の中で何か変化はありましたか?
今村 働きながらサッカーをするのが当たり前だと思っていたので、サッカーだけで食べていける道が開けた=自分は“サッカー選手”だって言える感じがしました。小さい頃はサッカー選手になることは夢でもありましたし。

—VENTUSは新規チームということで、どんなサッカーをしているのかわからない中での決断は難しかったのでは?
今村 ちょうどWEリーグができるときに、大学卒業だったんです。VENTUSはポゼッションサッカーを目指したいと聞いてましたし、自分もずっと足元系の強いチームでプレーしてきていたので決めました。何より上のカテゴリーでやりたいっていうのがあったので・・・

—実際に感じたWEリーグは?
今村 まず、みんなの意識が高いというのを最初に感じました。当然のことながら食べ物とか気を付けてる(笑)。それまでの自分は好きなものを好きなだけ食べてたので(笑)

—初出場は2022-23シーズンのWEリーグカップ第3節のちふれASエルフェン埼玉戦。凄まじく緊張してましたね(笑)
今村 もうめちゃくちゃ緊張してました(笑)。ずっとアリ(有吉佐織)さんにいじられてましたよね。その週には出場することは決まってたんですけど、前日の夜から結構緊張が来ちゃって(笑)。ピッチで円陣組んだあたりで、やっと解放されました。雰囲気が練習試合と比べて全然違うし、楽しかったですね。サメ(鮫島彩)さんとかアリさんってテレビで見てた人だし、チームメイトになって時間も経ってたんですけど、試合で一緒にプレーするのは全く違う感覚なので、まず、その嬉しさがありました。

—彼女たちの動きや指示を一番感じ取れる場所にいますもんね。
今村 2人とも試合の流れを見る力がすごいんです。流れの動きを一早く気づいて「落ち着いて」「大丈夫だよ」「ゆっくり!」「できるから」とか声をかけてくれる。流れを掴むのが早いんです。本当は自分が先に気づかないといけないんですけど・・・

—もともと声掛けはどんどん出来るタイプですか?
今村 GKになったのが高校2年の6月くらいからなんですよ。遅いですよね(笑)。それまではDFラインの真ん中をやっていたので、声掛けに関してはベースがあったんですけど、GKはまたちょっと視点が違いました。

—まだ5,6年ってことですよね?伸びシロしか感じないんですけど(笑)。でも大いに納得します。シュートストップに出ていく際、躊躇がないのはDF経験が効いてるんですね。
今村 それはあると思います。でも見える景色が全然違いました。最初の頃は“もう一枚のDF”みたいな感覚でプレーしてましたね。手が使えるので、ハンドになる心配をせずに守ることが出来る!って(笑)

—どんなきっかけでGKになったんですか?
今村 当時、一個上の先輩にGKはいたんですけど、あまり大きくなかったんです。監督に「デカいからお前やれよ」って急に言われて・・・冗談だと思ってたんですけど、そのうち毎日言われるようになって、本気らしいぞってなって(笑)。自分の代もGKがいないというのもありましたが、2年になったときに、アリさんとかと(日テレ・東京ヴェルディ)ベレーザで一緒にプレーしていた曽山加奈子さんがチームに来てくれることになったのが大きな転機でした。一から教えてもらえるという環境はありがたかったです。

—だから、尊敬する人として曽山さんの名前を挙げてるんですね。
今村 はい(笑)すべてを教わりました。でもずっと怒られてましたよ。最初は転がり方もわからないんで、もう腕引っ張られて転がされる感じ(笑)。その中でも特にコーチングはすごく言われ続けてました。最初は何を伝えていいのかわからなかったんです。そしたら「見えてるもの全部伝えればいい!」って。練習終わってからも、練習付き合ってもらってたし、オフでもグランド行くと曽山さんいるんですよ。

—そこでのコンバートは賭けですよね。しかも一つしかないポジション。メンタルが強くないとやっていけないイメージがあります。
今村 いやー自分、弱いですね(苦笑)。でも最近、逆に強いのかな?って思い始めてます(笑)。多分、打たれ強いんでしょうね。

—GKのトレーニングメニューはどうしても自分はもちろん、周りのGKと向き合う形になるじゃないですか。
今村 最初はめっちゃ他の2人を気にしてましたよ!試合には一人しか出れないし、一人はベンチ、でも一人は絶対メンバー外になる。二人は代表経験があるし、何よりうまいんですよ。でも自分は練習試合にも出れないときもあって・・・正直キツい時期もありました。でも、もともと自分はポジティブに考えられるところがあって、どういう立場に置かれても気にしない!って思ってたんです。悔しいけど、やり続けないといけないってことはわかっていたので。一回泣いて切り替える、の繰り返しだった気がします。

—そんな時期を経て、今の自分は「ここだけは負けない!」っていうプレーは見つけられてますか?
今村 足元を生かしたビルドアップですね。柳井(里奈)監督になってからはうまくいくことは多いかな。あとは球際に突っ込める度胸はあると思います。

—それ、望月ありさ選手も褒めてました。
今村 なんてなんて?

—えーっと・・・
今村 そこ、絶対に思い出してほしい(笑)!!

—相手の懐に深く入り込むことが出来て、相手に身体をしっかり当てられる能力は3人の中でも断トツだって言ってました。
今村 嬉しい!そこは自信を持ってます。何と言っても、GKは全身でシュートブロックに行けますからね。ちょっとDFとして削りに行ってる感覚が混じってますね、絶対。

—いろいろ経験を積んだ今、対戦してみたいチーム、選手はいますか?
今村 代表選手のシュートは止めてみたいですね。一度止めたら病みつきになりそう(笑)

—そのためにも、今いちばん欲しい能力って?
今村 ジャンプ力!上だけじゃなく左右の。これは二人の先輩を見てても感じるところで、“伸び”のところは意識して取り組んでいます。

—では最後に今シーズンの目標を聞かせてください。

今村 試合出場!経験値の部分では絶対的に足りていない。それが続いたこの2年で自信を失ってるところも正直ありました。柳井監督と話したときに「じゃ練習試合とか、同カテゴリーで経験積めばいい」って、今は練習試合で使ってくれたりしてます。ここでしっかりと取り戻して行きたいと思ってます!


早草 紀子(はやくさ のりこ)
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。女子サッカー報道の先駆者であり、2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマンを務める。

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