【VENTUS PRESS】長嶋洸 前編

ボールをしっかり摘み取ったあと、長嶋洸 選手が見据える先には常に攻撃のビジョンが広がっています。それは元ゴールゲッターの意識が今もなお彼女の中で脈打っている証拠。最終ラインの真ん中で、守備のみならずビルドアップの重要な起点となっている長嶋選手の原点に触れる前編です。

Vol.49 文・写真=早草 紀子

「インターセプト、狙っていきます」 長嶋洸

幼少期はサッカー以外にも何かスポーツをしていたんですか?
父が野球をしていたので、小学校に入るまではキャッチボールから始まって素振りまで、ジャイアンツグッズを身にまとって結構ガチめの野球をやってました()。サッカーに触れたのは、小学校1、2年の頃。親から「運動神経はいいみたいだから、なにか少年団に入ったら?」と言われて、近くにあったのは野球とバスケとサッカー。決め手になったのはサッカーが一番難しかったから、ですね。

得意なものではなく、難しいからという決め手に長嶋選手らしさが出てますね(笑)
ですかね()。多分野球は練習に行ったときに出されたメニューより、父としていたメニューの方が高度だったので()、簡単に出来ちゃったんです。サッカーは足を使うので全然出来なかった。それが面白かったんだと思います。

そこからはサッカー一筋ですか?
そうですね。でもポジションはいろいろ経験しました。浦和レッズレディースのセレクションもFWで受けましたし、中学2年までは前めのポジションでした。大学時代はときどきボランチ、トップ下でもプレーしましたよ。

ほぼすべて経験してますね。今、出来る出来ないではなくやっていいと言われたらどのポジションを選びますか?
ボランチかな。一番楽しかったですもん()。あ!今の自分はもう無理ですよ?ボランチはしんどい(苦笑)。でも、ウチのボランチはボールが欲しい欲しい捌きたいっていうタイプではないので、CBとしてその役割は担いたいなって思います。柳井(里奈)監督はそういう運び出しのところも評価してくれるので、今はやっていて楽しいです。

ビルドアップは得意ですもんね。真ん中が合ってるとは思いますが、ビルドアップのことを考えたら、選択肢が広がるサイドバックもアリですか?
いやいやいや…無理()! 若い頃は運動量がもっとあったので、ゴリゴリのサイドバックだった頃もありましたけど…結構CBのポテンシャルによってハマらないときってとことん孤立するじゃないですか。自分じゃないところの影響をすごく受ける。だから今はその点はすごく考慮しながらプレーしてます。いろんなポジションを経験したから、気持ちがわかるので。

いろんなポジションの視野を持っていますが、一番の成長期っていつだと思いますか?
DFにコンバートされた中学3年ですね。U-15U-18とチームがあって中学2年でU-18に入りました。ちょうど高校3年生がいなくなったタイミングで10番が空いたんですけど、まさかのその10番を渡されてしまって…。先輩からはブーブー言われましたよ()。しかもボランチでもなくCBになるし。でもそのときに監督から「攻撃の起点にもなるし、サイズ感的にもCBやったらもっとよくなる」と言われて受け入れはしました。それでもCBなんてやったことないし、どんなものかもわからない。当時はボランチっぽい、ただ攻撃的なDFでしたね。それでも、関東リーグでは大学チーム相手にセットプレーからですけど2点、3点取ってはいて、自由にプレーさせてもらってました。自分の攻撃的な良さを潰さずに評価してくれつつ、守備力を鍛えてもらえました。だから今のビルドアップや攻撃の起点になる長所が消えなかったんだと思ってます。

守備のどんなところが長嶋選手自身を引き付けたと思いますか?
限定していって自分のところでインターセプトがバッチリ決まったとき予測して取り切れたときはめちゃくちゃ嬉しいし、やりがいを感じます。そこからさらにドリブルとかで運べたら、してやったりって感じじゃないですか()

VENTUSで一番その“してやったり! ”が出たプレーは?
昨季のアウェイアルビレックス新潟レディース戦で、(高橋)美夕紀とワンツーでつないでシュートまでいくシーンがあったんですけど、あれはよかった今はゴール前まで行く流れにはちょっとなりにくいですけど、インターセプトのチャンスは随所にあるので狙っていきたいですね。

VENTUSではさまざまな守り方をしてきました。ここまでWEリーグを戦うことで得られた感覚というのはありますか?
1年目からずっと守備に追われていて… (苦笑)。より守備のリスクを意識するようになりましたね。今季は、奪ったあとに繋ぎたい、ボールを大事にしたいという思いがあって、欲でつなごうとして2次攻撃されちゃうみたいなことがありました。そういう場面で蹴り飛ばしてクリアしちゃうみたいな割り切るということも必要。この間の三菱重工浦和レッズレディース戦はまた欲が出ちゃって、いろいろと攻め手が湧き出てくるチームだから、それで失点してしまった。よりシンプルにしていいところはあると痛感しました。

カップ戦では持てるものすべてを相手にぶつけて得られる課題を必死に拾っていた感じでした。それが上手くハマったことで、相手がケアしてきている分、リーグ戦では苦しい展開が続いています。
昨季よりもボールを保持できる時間は増えていると思います。カップ戦ではこれまで描いてきたものを形にできることを初めて実感できたんです。当然、相手も対策を練ってくることを想定はしていても、そこをねじ伏せるまでは至っていないというのが前半戦の戦いでした。

変化が必要だと?
はい。自分たちでも選手ミーティングを開いていろいろ話し合いました。柳井監督が常に使う“ポジティブ”という意味をもう一度考えよう、と。捨て身でチャレンジしていたのがカップ戦だとしたら、リーグ戦はそのチャレンジも、もう一段階上げないといけない。でもチャレンジしてることが全部良しとなって、その基準が低くなってしまった感じがしてました。チャレンジすることはもちろんいいことですが、取捨選択をした上でのチャレンジになってないといけないと思います。その感覚は全員が持っていないといけない。

—中断中の沖縄キャンプは絶好の修正の機会になったと思います。長嶋選手はどんな後期の戦いにしていきたいですか?
“攻守の優先順位を忘れない” 前半戦の試合を振り返ると、これに尽きるんです。ボールを保持はしたいですけど、ゴールに直結するプレーを狙うことを忘れないように。守備の時間を減らすためにも攻撃していたいです。前半に2点取られると苦しいけど、1点を返す力はついてきてると思うんです。後半に流れを生むパターンも増えてきているので、守備でしっかり凌ぎつつ、攻撃し続けられるように全員で意識を共有して後半戦に挑みたいと思います!


早草 紀子(はやくさ のりこ)
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。女子サッカー報道の先駆者であり、2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマンを務める。

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