Vol.62 岩本 勝暁「新たな歴史の証人に」【ライターコラム「春夏秋橙」】

ピッチで戦う選手やスタッフの素顔や魅力を、アルディージャを“定点観測”する記者の視点でお届けする本コーナー。12日に開幕するWEリーグと、大宮アルディージャVENTUSにかける佐々木則夫総監督の思いを、オフィシャルライターの岩本氏が紹介してくれた。

Vol.62 岩本 勝暁
新たな歴史の証人に

 
 一人の少女のひとことが、夢の扉をこじ開けるきっかけになったという。

 「ハッとしましたね」

 そう言って教えてくれたのは、大宮アルディージャVENTUSの佐々木則夫総監督だ。

 毎年秋に、少女サッカー、女子サッカーの普及を目的とした「のりさんガールズ&レディースサッカーフェスティバル」を開催していた(2020年、2021年は新型コロナウイルスの影響で中止)。場所はNACK5スタジアム大宮。美しい緑のピッチ、元なでしこジャパンのメンバーが特別ゲストとして招かれるなど、大きな盛り上がりを見せていた。

 ある日のこと、アルディージャのユニフォームを着た少女が、佐々木総監督のところに駆け寄ってきてこう言った。

 「私は大宮アルディージャが大好きです。でも、このユニフォームを着て大きな大会に出られないのが残念です」

 その言葉に、佐々木監督は心を動かされたそうだ。

 「私自身、スーパーバイザーという形でFC十文字VENTUSという女子チームに携わっていたことに満足感があったのかもしれません。その単純な発想が浮かんでこなかったのです。でも、そう思ってくれる子どもが一人でも二人でもいるのなら、私たちは大人としてそういう場を提供してあげなければいけない。それ以来、大宮アルディージャに女子チームを立ち上げることを、心の中で密かに思うようになりました」

 
 
 2019年秋、佐々木総監督は日本サッカー協会の「女子新リーグ設立準備室」室長に就任する。2021年のプロ化に向けて、一気に舵を切ることになった。そして2020年、大宮アルディージャは女子サッカーチームの設立とWEリーグへの参入を発表した。

 25人のメンバーからも、クラブの真摯な覚悟が見て取れる。鮫島彩、阪口夢穂は2011年のワールドカップで優勝を経験。初代キャプテンを務める有吉佐織は、日テレ・東京ヴェルディベレーザで6度のリーグ優勝を経験した。キャリアのピークを大宮アルディージャVENTUSで迎える選手も少なくない。大野忍コーチの存在も、チームに芯を通した。

 佐々木総監督はWEリーグにどんな青写真を描いているのか。

 「いまはもう、これから描く未来が楽しみで仕方がありません。なにしろ新しいものが生まれたわけで、繁栄しか描けないわけですから。一日一日が歴史の積み重ねになり、毎日をとても楽しく過ごしています」

 思い出すのは1993年5月15日、Jリーグが開幕した日のことである。テレビで見たヴェルディ川崎対横浜マリノスの一戦は鮮烈だった。国立競技場を包むチアホーンの音、ピッチを照らすカクテル光線、Jリーグ第1号ゴールとなったマイヤーのミドルシュートは、いまも鮮明に思い出せる。

 確かに、新型コロナウイルスの影響もあって、あのときほどの派手さは望めないかもしれない。

 ただ一つ言えるのは、僕たちはいま、新たな歴史の証人になろうとしている、ということだ。プレーの一つひとつ、ファン・サポーターの拍手、ピッチの匂い、そして、スタジアムの空気感――、あらゆる光景を脳裏に焼き付けてほしい。いよいよ日本のサッカー界が、新たな一歩を踏み出す。


岩本 勝暁 (いわもと かつあき)
2002年にフリーのスポーツライターとなり、サッカー、バレーボール、競泳、セパタクローなどを取材。2004年アテネ大会から2016年リオ大会まで4大会連続で現地取材するなど、オリンピック競技を中心に取材活動を続けている。2003年から大宮アルディージャのオフィシャルライター。

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