Vol.012 平野貴也「昨年の悔しさを爆発させたい」【オフィシャルライター「聞きたい放題」】


クラブオフィシャルライターが今、気になる人や話題についてどんどん切り込みます! 今回は、FC東京から加入したばかりの矢島輝一選手を突撃しました。


Vol.012 平野貴也
昨年の悔しさを爆発させたい

初の移籍でも自然体

――まずは、現在の沖縄キャンプの感想を教えてください。
「僕自身のコンディションは、まだ3割くらいですけど、チームとしてはすでに戦術的な部分の取り組みも始まっていて、やるべきこともハッキリしてきています。同じポジションの選手との競争もできていると思うので、順調に進んでいます。試合に出て活躍することが一番大事で、それが90分なのか、70分なのか、残り5分なのか、それぞれで結果を出すことが求められますけど、やっぱり長い時間出場したいので、コンディションを上げて普段の練習での競争に勝たないといけません。岩瀬健監督は積極的にコミュニケーションを取ってくれますし、しっかりと自分のサッカー観を持っている方だなという印象です」

――山田将之選手がFC東京でチームメートでした。翁長聖選手が中央大学の1学年先輩ですよね。同い年の中野誠也選手は大学選抜のチームメート。ほかに知り合いはいます? また、チームに合流して、思っていたイメージと違った選手などはいましたか?
「大山啓輔選手も個人的に知っていました。初めての移籍先で知っている選手がいるのは大きいとは思いますが、僕自身は新しい環境になじむのが得意なタイプなので、問題ないですよ。特に、話して緊張してしまうような選手もいません。ヒジ君(翁長選手)は、めっちゃ優しくて生意気な僕でも許してくれますし、サッカーでもそれ以外の部分でもアシストしてくれる存在。ヒジ君のプレーの特長は熟知しているので、連係に関しては特長を探るというよりも、完成度を高めるイメージです。誠也とは全日本大学選抜で一緒でした。僕が持っていない特長をアイツが持っていて、すごく合わせやすいですね。性格的にも素晴らしい選手。同じポジションですけど、うまくコミュニケーションを取って、良いユニットを作りたいです。もちろん、僕自身がポジション争いに勝たないといけませんし、誰と組んでも自分の特長を出し、味方の特長も発揮させる選手にならないといけません」

――アカデミーで育って小さいころから愛着を持っているFC東京からの完全移籍。悩むところもあったと思いますが、あらためて「第二章」に踏み出した決断の理由を教えてください。
「今までの目標は、FC東京の選手として活躍し続けることでした。でも、自分自身が結果を出せませんでしたし、自分の特長がチームの求めるものにフィットしなくなっていきました。サッカー選手としてFC東京のためになれていないという思いを持っている中でオファーをいただいて、サッカー選手として挑戦しようと思い、移籍を決断しました」

――アルディージャには、どのような印象を持っていましたか?
「まず、NACK5スタジアム大宮という素晴らしいスタジアムと応援。サポーターの方に自分を知ってもらいたいというより、僕が早くサポーターのことを知りたいです。今はコロナ禍で声を出して応援ができないのが悲しいですけど、それでもチームごとに独特のスタジアムの雰囲気があると思うので、それを早く知りたいです。あと、大宮というと、浦和レッズとのさいたまダービーで、浦和の方が上の順位にいることが多いのに、ダービーで勝つという勝負強さを持っているという印象がありました」

――東京都八王子市出身で、これまで在籍したチームは全て西東京地域でしたよね。大宮という町の印象は、いかがですか?
「八王子やFC東京のクラブハウスがある小平は、東京とは言っても郊外。大宮は本当に人が多いなという印象で、ちょっとジャージで出かけるのは恥ずかしいと感じたので、新しい服を少し買いました(笑)」


矢島輝一のこだわり

――プレー面についてもお聞きしたいです。体格を生かしたポストプレーをこなしながら、ゴール前で勝負するストライカーというイメージですが、がむしゃらさだけでなく、アイデアや技術を駆使して相手の予測を裏切るプレーもするという印象があります。どんなプレーを見せたいと思っていますか。
「僕の取り柄は、ゴール前のかけ引きに勝ってゴールを決め切るところ。チームを勝たせる、チームにいなくてはいけない存在になるという自負もあります。あとは、魂を持って最後まで諦めずに戦うベーシックなところも見てもらえればと思います。ゴールに関しては、体のどこに当たろうが、相手のクリアが僕に当たってゴールに入る形であろうが、全部、僕のゴールだと思っています。ただ、がむしゃらにやるだけでなく工夫も必要で、柔軟に、そのとき一番良い選択をできるというのも僕が持っているスペックだと思っているので、相手が思いつかないプレーもできると思っています」

――矢島選手はインタビューなどで「憧れの選手はいなくて、自分のプレースタイルが好き」と答えていますよね。
「本当に、誰に憧れたということはないし、マネをしたということもないです。自分にしかできない点の取り方を、自分のフィーリングと会話をしながら、昨年の自分、昨日の自分より魅力的なストライカーになるということを考えています。僕は体格が大きくて、ポストプレーや空中戦が得意。そういうふうに見てくれる方が多くて、それが嫌なわけではないです。でも、僕は足下の技術やサッカーIQも持っていると思っているし、たくさん見てもらえれば、体の大きさはプラスアルファの部分だと気付いてもらえると思います。FWだけど、中盤タイプのプレーも好き。好きな選手というのも、強いて挙げるなら、元フランス代表MFのジダン選手。あんなプレーは、できませんけど(笑)」

――プロになって2年間はU-23チームでコンスタントに出場する中でJ1出場という形でしたが、昨シーズンはコロナ禍でU-23がJ3参加辞退となりました。出場機会が減った中で、どんな工夫をしていましたか?
「FC東京では、長澤徹さん(2020年までFC東京U-23監督、今シーズンから京都サンガF.C.でヘッドコーチ)に組んでもらったメニューに100%で取り組んでいました。それが、自分のスキルアップにつながると信頼できる素晴らしい指導者で、実際に手応えもありました。個別にメニューを組んでくれて、僕の場合は、クロスに飛び込む前の、抜け出すときの一歩目のスピード強化とか、本当に細かいところにフォーカスしてくれて、対人形式の泥臭い削り合いのメニューなども組んでもらっていました。それによってプレーの強度が上がったというか、ゴール前で相手にぶつかられたときやバランスを崩しながらシュートを打つときでも、プレーを成功させられる範囲が広がったと感じています」

――今年、個人的に取り組みたい課題や目標は?
「今年は、とにかく結果を出したいです。岩瀬監督にもアルディージャを応援する皆さんにも、そういうところを期待されていると思いますし、そういう意味でオファーをもらったと思っています。自分を獲得してくれたことへの恩返しというか、矢島を獲って良かったと思われるようにするには、目に見える結果が一番だと思っています。昨年、思うように試合に出場できなかった悔しさを、今年は爆発させたいです。勝利に直結するプレーで、例えばポストプレーで起点になったり、相手と競り合って潰れ役になったりという形でもいいので、20得点に関われるようにしたいというのが目標です」

――ご自身の得点数は明確には決めないタイプですか。
「目標とする得点数というのは、掲げません。それを言われて気にするようになると、試合中に、チームが勝つための一番良い選択をするのに妨げになってしまう可能性があります」


みんなが輝く存在になりたい

――サッカー以外のことも少し聞かせてください。オフのときは、どのように過ごしていますか? 趣味などがあれば教えてください。
「基本的には、インドア派ですね。暇だなと言いながらゴロゴロしたり、部屋でYouTubeを見たりしている時間が好きです。お気に入りは、料理をして大食いするという『谷やん谷崎鷹人」という方のチャンネルです。外に出るときは、おいしいご飯を食べに行ったり、車で少し遠出をするなど、一人旅をしますね。昨年は熱海に一人で行って、和食だったので日本酒を飲んでみたいと思ったのですが、お酒のメニューを見ても何が合うのか分からず、聞くのも恥ずかしかったので、ハイボールにしてしまいました……』

――ご実家では猫を飼われているそうですが、動物好きなのですか?
「猫を飼うようになったのは、僕が子どものころに実家の近くの公園で段ボールの家を作って飼っていたのがきっかけでした。母がそれを知っていたらしく、大雨の日に、とりあえず家に入れてあげなさいと。それで、里親を探す間だけ預かってもいいからと言っていたのですが、数日で家族がみんな猫の虜になって、正式に飼うことになりました。そのあと、親がほかに2匹の猫をもらってきて3匹飼っているのですが、猫が増えたあたりで、僕は猫アレルギーだということが分かって(笑)、実家に帰るとくしゃみが止まりません。猫は好きだけど、猫アレルギーです(笑)」

――「輝一」という名前は、込められた意味が分かりやすいですし、良い名前ですよね。
「僕も、この名前がすごく好きです。輝きが一番、というのは意識しているところです。目立つことも好き。今はサッカーに取り組んでいるので、そこで輝きを放って一番になりたいし、その輝きで、今はまだ輝いていない人に光を灯すような存在になりたいと思っています。それは、例えばそれまで出番がなかった選手が出たときに、僕とプレーすることで輝いてもらうことだし、スタジアムに見に来てくれた方が勇気や感動を覚えて、その人の人生に輝きを与えるということです。この名前は最終的に母が決めたらしいのですが、他の候補は『太郎』とかだったらしくて、それはそれで良い名前だとは思いますけど、輝一で良かったなと思います(笑)」

――最後に、あらためて今シーズンの抱負を聞かせてください。
「J2優勝という目標達成のために、できることを全てやりたいと思っています。僕自身が勝利に飢えていますし、ゴールに飢えている自分のプレーを見てもらいたいと思っていますし、それが結果につながるものだとも思っています。自分らしく、大宮アルディージャの先頭(前線)に立つ人間として、勢いを持って今シーズンを戦い抜きたいと思います。よろしくお願いします」



平野 貴也 (ひらの たかや)
大学卒業後、スポーツナビで編集者として勤務した後、2008年よりフリーで活動。育成年代のサッカーを中心に、さまざまな競技の取材を精力的に行う。大宮アルディージャのオフィシャルライターは、2009年より務めている。

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