ピッチで戦う選手やスタッフの素顔や魅力を、アルディージャを“定点観測”する記者の視点でお届けする本コーナー。1月16日(土)に行われた新体制発表会を取材した戸塚啓さんが、新シーズンに抱く期待感を綴ります。
Vol.57 戸塚 啓
「新しい大宮」の萌芽
胸が高まる。新しいシーズンが動き出すこの時期は、いつもワクワクしてソワソワする。もう何十年も経験してきたのに、気持ちはいつもはずむ。
昨シーズンは苦しんだ。リーグ戦で3位に終わった2019シーズンを受け、「J2優勝でJ1昇格」を現実的な目標としたが、昇格争いから早々に脱落してしまった。J2がスタートしたばかりの2000年前後を含めても、2ケタ順位に沈むのは初めてのことである。J2におけるクラブワーストの成績に終わってしまった。
アルディージャは変わろうとしている。
1月16日(土)に行われた新体制発表会で、西脇徹也 強化本部長は「新しい大宮にトライしていく」という表現を使った。歴代の監督を振り返ると、外部からの招へいが多いことに気づく。大きな意味での方向性を担保しながら、J1やJ2の他クラブで監督を務めた指導者にチームを託すことが多かった。
岩瀬健監督は違う。監督としてのキャリアは、18年の柏レイソルでの2試合に限られる。昨年はJ1の大分トリニータでヘッドコーチを務めたものの、経験や実績を重視した選考ではない。
西脇強化本部長は「新しい大宮にトライしていく中では、監督も我々とともに新しいキャリアを作っていくことが必要ではないか」と説明した。「抜てき」という表現も当てはまる人事の理由がそこにある。
監督が持つ経験や実績は、期待感や安心感につながる。シーズン開幕前のこの時期なら、「J1昇格経験を持つあの人にチームを託せば、目標を達成できるだろう」という期待感が醸成されていく。シーズン中に難しい局面に立たされても、「あの人なら乗り切ってくれるはずだ」との希望を抱ける。
その上で言えば、経験や実績は明るい未来を保証するものでもない。監督という職業で大切なのは、目標に向かっていく意思の強さ、絶え間ない学びの姿勢、ここぞという場面での決断力、結果に対する責任を背負う覚悟といったものだろう。名将や智将と呼ばれる監督たちは、過去の名声に寄りかからないという共通点を持つ。
岩瀬監督はトップチームの指導歴こそ少ないものの、非常にクレバーで分析力に長け、サッカーへの情熱にあふれる方だと聞く。「キレ者ですよ」との評価も聞いた。「アルディージャはいい人を監督に選びましたね」とも。
そういう声を聞くとまた、期待感が胸の中で渦巻いていく。どんなチームを作ってくれるのだろう、どんなサッカーを見せてくれるのだろうと、心が躍っていく。
もちろん、岩瀬監督に頼り切りにはならないようにしたい。クラブに関わる全ての人たちが、自分の立場でできること、やるべきことを積み上げていく。みんなで手を取り合って、「新しい大宮」を作っていけたらと願う。
戸塚 啓(とつか けい)
1991年から1998年までサッカー専門誌の編集部に所属し、同年途中よりフリーライターとして活動。2002年から大宮アルディージャのオフィシャルライターを務める。取材規制のあった2011年の北朝鮮戦などを除き、1990年4月から日本代表の国際Aマッチの取材を続けている。