Vol.023 下薗 昌記 自分の目指すべきものが 大宮アルディージャにはある【聞きたい放題】


選手に気になる質問をどんどん聞いていく本コーナー。今回はガンバ大阪から加入した矢島慎也選手に、G大阪の番記者・下薗昌記さんが移籍の経緯や今後の目標を聞きました。

Vol.23 下薗 昌記

自分の目指すべきものが
大宮アルディージャにはある


霜田監督のサッカーに惹かれて

――G大阪時代は技術の高さはもちろん、戦術理解の高さも見せていた矢島選手でしたが、G大阪でのプレーには悔しさも残したのではないですか。
「G大阪に移籍した当時は『ガンバで優勝したい』という思いがありました。移籍した理由の一つでもあったので、タイトルを一つも取れなかったことは悔しかったですね。2位になったシーズンはありましたけど、それほど納得が行く内容での2位ではありませんでした」

――昨年はFUJI XEROX SUPER CUPで右ウイングをこなし、さまざまなポジションを経験した矢島選手でしたが、今回、大宮への移籍を決めた要因には霜田正浩監督の存在もあったのですか。
「シモさんの目指すサッカーが自分の理想に近いというか、そういうサッカーをしたいと思わせてくれるような話ができましたし、僕がこれからもサッカー人生を歩み続けていくなかで、シモさんの下でプレーすることが、自分にとって意味のあるものになると思ったんです」

――霜田監督からの誘いや話のなかで、具体的にどういう点に惹かれたのですか。
「チームとしてボールを保持する戦い方を目指していて、保持するだけでなく“ゴールに向かうため”にボールを保持する点に惹かれました。できるだけ相手陣地で押し込みながら戦いたいし、守備も前から行きたいと。守備でも攻撃的な印象を受け取りました。僕はボールを持って攻撃し続けるチームにいたほうが、自分の良さが出やすいタイプです。チームとしてやりたいサッカーがあり、そこを目指すなかで自分たちが成長していく過程に『ここでやりたい』と感じさせてくれたのが、一番の要因でした」

――G大阪時代のプレーを見ていても、戦術的にしっかりしているチームのほうが、矢島選手の持ち味が生きるようにも思います。
「そうですね。考えて走ることに頭を使うよう、このチームでもたくさん言われていますし、僕はそこをどんどん伸ばして、さらにうまくなりたいという気持ちがあります。ガンバ時代は個人の技量というか、勢いや即興性に頼る部分が強かった印象です。それも大事な要素ではありますが、大宮はチームとして戦おうという意図をより感じます」



プロ11年で一番の練習強度

――先日28歳になりましたが、J1を再び目指す大宮でのプレーを決めた一番の要因は、霜田監督の存在を除くと、どのあたりだったのですか。
「自分がやりたいことと、チームが目指しているものが一緒だったのと、僕にとって大宮はほぼ地元でもあるので、そういう意味もありました。何か一つの要因というわけではなく、全てを考えて判断しました。J1とJ2ではレベルの差はあると思いますが、年々J1とJ2との差が埋まってきている感覚も僕のなかであります。だからJ2でプレーすることへのひっかかり感はなかったです」

――近年のJ2を見ていると、戦術的にはJ1のチームに負けないしっかりしたスタイルを持っているチームもありますからね。
「いち選手としては、よりレベルの高いリーグでやりたいという思いは誰もが持っていると思いますし、僕にもそれがあるのは否定しません。それでもJ2でプレーすることに対するネガティブな気持ちは全くなかったですね」

――矢島選手は年齢的にもまだまだこの先がある選手だけに、目先のJ1というより、ご自身がより成長できる環境を重んじるあたりが、矢島選手らしいなと感じます。
「そうですね。それに加えて、根本的にサッカーを楽しみたいという思いもあるんです。楽しむというのは、好き勝手にプレーするという意味ではなく、チームがやりたいサッカーに対して自分がどう力を注げるか、ということです。そして勝っていく過程が楽しいので、霜田監督のもとならそれができると思い、移籍を決めました」

――G大阪時代はアンカーやインサイドハーフなど様々なポジションをこなしましたが、必ずしも矢島選手ご自身が納得した役割でない時もあったと思います。ただ、守備のタスクも多く経験したことで、プレーの幅が広がったのではないですか。
「去年はシャドーをよくやっていて、あのポジションはあのポジションで好きでした。宇佐美(貴史)君とパトリックと組むことが多かったですが、なるべく宇佐美君には攻撃でパワーを使ってほしかったので、僕のサイドで守備のスイッチを入れて、ボールを奪いたいという思いはありました。そういう意味では『自分がもっと守備を頑張ろう』とも思っていましたし、そこもいい経験になっています。今の時代、守備で頑張れない選手はダメですし、守備をしない選手もいません。そういうなかでは、ガンバでいろいろなポジションを経験したのは、自分のなかで良かったという感覚はあります」

――様々なポジションをこなせるのは矢島選手の強みですが、大宮では具体的にどのポジションにチャレンジしているのですか。
「基本的には前目のポジションですね。ガンバではボランチやアンカーもやっていましたが、それよりは一つ前のトップ下やバイタルのところでいいポジションを取る役割をやろうとしています」

――霜田監督のサッカーに対するフィット感や、楽しみを感じている点はありますか。
「やはりサッカーに対しての考え方は楽しさを感じています。これからどんどん試合が増えていくなかで、その考え方が全てうまくいくわけではないので、その時に自分たちがどう動いていくのか、という話もミーティングでは出ています。大宮では選手間でもだいぶコミュニケーションが取れているので、自分もそのなかの一人としてうまくできている気がします」

――ポジション争いも待っていると思いますが、キャンプ中のここまでの手応えを聞かせてください。
「ポジション争いについては詳しくは言えないですけど、ただ、むちゃくちゃ練習がきついです。きつくて、大変です(笑)。『なんかしっかり走ってるなぁ』という感じがします。戦術には当たり前の土台が存在しますけど、その当たり前の部分をかなり徹底していますね。走るとか、走り切るとか球際の部分もそうですし、そこを徹底しているので戦術が一人歩きしている感じもないですよ。今年でプロ11年目ですけど、一番きついです。体も練習もきついです。昨日は3部練習をしましたからね。僕は少し外れましたけど、一応3回全てに顔は出しました。充実しています」


このチームで果たしたい役割

――G大阪時代に番記者として取材させてもらっていて感じたのは、海外サッカーにも精通する矢島選手のサッカーへの情熱でした。サッカーをしっかりと言語化できることも矢島選手の強みだと思うのですが、大宮では積極的に周囲ともコミュニケーションすることを意識していますか。
「いろいろなところで、いろいろな選手の組み合わせがあって、そこでもだいぶ話をしています。僕から話しかけなくても自然と会話する場面が生まれているので、特別に僕から意識して声をかけなくても、大丈夫な感じですよ」

――リオデジャネイロ五輪の日本代表経験もあり、実績的にも豊富な選手だけに、サポーターも矢島選手には期待するところが多いと思います。あらためてピッチ内でのご自身の役割をどう認識していますか。
「若い選手が多いチームではありますし、僕も上から数えたほうが早い年齢になってきました。そういう意味ではチームがうまく行っている時には皆が、気持ちよくやれると思いますが、うまくいかない時にどう振る舞えるか、チームをどう動かせるかが大事になってきます。僕は今までそのような時に人任せにしてきた部分があったので、そういう部分もしっかりとやる必要があると感じています」

――G大阪も昨季はコロナ禍の中で残留争いを経験し、矢島選手が在籍した期間もチームとして苦しんだ時期はありました。いい時も悪い時も経験してきたご自身の経験を、大宮で生かせそうですね。
「J1でもガンバでの4年間ではいいことも悪いこともたくさん経験させてもらいましたし、もともと岡山時代にJ2も経験しています。42試合を戦っていく過程で、いろいろな状況が生まれると思いますが、若い選手が多いなかで、意見を求められた時に納得した答えを伝えられればとも思います」

――J2にはJ1にない難しさやプレッシャーも存在します。そういう意味でも、岡山時代にJ2を経験しているのも大きいですね。
「岡山にいたのはかなり前ですし、当時と比べてもJ2のレベルは上がっています。僕も去年、J1で試合に出ていたからと言って、J2でやれる保証もないですよ。まずはチームがうまく行くようにプレーで示そうと思っています」

――矢島選手は浦和市生まれで、浦和のアカデミー育ちです。当時からライバルでもある大宮とはダービーも経験してきたと思いますが、あらためて大宮でのプレーに感じることはありますか。
「そういうことは全く考えてないですね。僕は浦和と大宮のちょうど中間ぐらいに住んでいたんです。そういう意味ではどっちもどっちというか(笑)、浦和の下部組織出身で、浦和のユース時代に僕のサッカー観は教え込まれたので、ちょっと変な感覚はありますが、だからと言って、大宮でプレーすることに何か思うことはないですよ。大阪が生活しにくいわけじゃないですけど、昔から大宮の土地勘はあるので、暮らしやすいです」

――J1復帰を目指す大宮ですが、今季の矢島選手は、霜田監督のもとでどういう目標を定めたり、目指したりするのですか。
「チームの目標はありますが、僕もそこに対してしっかりとプレーしたい。それが大枠にありますが、個人的には1試合1試合を無駄にしたくない。やろうとしているサッカーがこのキャンプでも明確にあり、それが間違っていないとは思いますが、相手があることですし、全ての試合でうまく行き続けるのも難しいと思います。その時に、自分たちのリアクションが大切になります。自信と自分たちができるプレーのバランスですね。自信を持ちすぎてもダメだし、持たなすぎてもダメですし、勝って自信をつけていくのが理想です。そのためにも1試合1試合をきっちりプレーしていきたいです」

――あらためて矢島選手のプレーを楽しみにするサポーターに、見せたいプレーや期待してほしい点を聞かせてください。
「基本的な技術のところは、しっかりとやりたいと思っています。それに加えて攻撃のところで点に絡みたいです。NACK5スタジアム大宮も素晴らしいので、そこで一つでも多く勝てるように頑張りたいです」

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