その月で最も印象的な活躍をした選手をオフィシャルライターが選定するコーナーがスタート。2022年2、3月のマンスリーMIPは、新しいポジションで新境地を開きつつあるMF41 小野雅史選手です。
「左サイドバックで日本代表を目指す」
文=戸塚 啓
プロ4年目のコンバード
4月9日の第9節終了時点で、小野雅史は全試合にフルタイム出場している。チーム内では彼一人だけだ。[4-2-1-3]でも[4-1-2-3]でも、最終ラインの左サイドは背番号41の定位置となっている。
プロ4年目にして、未知のポジションにトライしている。
「プロの世界でいきなりポジションを変えるのは、相当な覚悟が必要だと思います。正直なところ、いままでやったことがなかったですし、複数のポジションができるのは自分の強みではあったんですけど、基本的に中盤から前のポジションをずっとやってきたので。前線からの守備とかはできると思っていますが、DFラインに入っての守備はやってこなかったので、ゼロからのスタートというか、右も左も分からないような感じでした。いまでさえ分からないこともあります。そうですね、最初は戸惑いがありました」
練習の合間には、岡本隆吾フィジカルコーチと話し込む場面も見られる。左サイドバックのスペシャリストとして活躍した知見に触れ、自らのものにしようと日々格闘している。
「岡本さんは気にかけてくれて、何かあれば言ってくれます。僕も何か分からないことがあったり疑問があれば、聞きにいったりしています。岡本さんだけでなく他のスタッフにも、分からないことがあれば聞いたりしています」
ポジションを変えたことで、見えてきたものがある。
「中盤だと全方向からプレッシャーを受けますが、サイドバックはずっと前向きな状態なので、正直プレッシャーを感じないというか。中盤とか前線でプレーしていたからそう思うんですが、相手のプレッシャーをプレッシャーに感じないというか、はがせる自信があって」
マイボールの局面では自在に動く。タッチライン際の上下動をメインとせず、内側のレーンに立ってポゼッションに参加したり、最前線へ飛び出したり、右サイドまで動いたりとする。「シモさん」こと霜田正浩監督からも、自由に動くことを認められている。
「シモさんには『フリーマンだ、ポジションはマサヒトだ』と言われてるいんですけど、サイドバックのポジションじゃなくて中盤に入るとか、タイミングがあれば前線に抜け出してもいいと言われています。タッチライン際に張ってもいいし、中へ入ってもいいし、中途半端なポジションを取ってもいい。自分の判断で変えています。自分が中盤に関わりにいくと、かなりの確率でフリーなんですよ。右サイドまでいったら絶対にフリーだし、中盤でプレーしているときみたいにマンツーマンのようなプレッシャーを受けなくなったので、左足のパスとかはより出せるのかなと」
オフェンスについては、手応えを感じている。「アシストや得点といった目に見える結果を残さなければ」との思いを抱きつつも、「フィーリングはすごくいいです」と話す。
一方で、ディフェンスには難しさを感じている。これはもう、無理のないことだろう。強度の高い実戦でしか学べないことがあり、サイドバックにコンバートされたばかりの彼には失敗も必要だからだ。
「失点が多くなっていることは、自分のなかで重く受け止めています。自分だけの責任ではないところはあるんですが、自分が守れていたらというシーンもあります。改善しようとしていますけど、まだまだ足りないです」
押し込まれる時間が長くなると、攻撃へ出ていくのが難しくなる。小野のプレースタイルを考えても、オフェンスの局面でより多くプレーさせたいところだ。
「守備の時間が長くなると、自分がこのポジションをやる意味は薄れてしまいます。あとは、今年のチームは攻撃的なチームだと僕は思っていますし、一人ひとりを見ても絶対にボールを保持して生きるチームです。とくに中盤はすごくうまい選手がたくさんいて、うまくかみ合えばもっともっと得点できる。いまは守備に課題がありますが、攻撃がうまくいけば守備につながるので、自分たちの特徴を発揮できる試合をしなければ、と思っています」
有言実行。自分を追い込むために
今シーズンは副キャプテンを任されている。キャプテンの三門雄大を、西村慧祐とともに支える立場だ。勝敗に対する責任を、これまで以上に感じている。
「序盤はミカさんが離脱していたので、自分と西村が引っ張らなくちゃいけないところがあって、でも、結果に結びつかなくて。すごく責任を感じました。あとは自分だけがフル出場しているので、シモさんが信頼して出してくれているので、勝利に貢献しないといけないとすごく感じています」
オンラインによる取材が終わりに近づくと、小野は「ちょっと、一つ付け加えたいんですが」と遠慮がちに切り出した。選手が質問以外で発言をするのは、こうした取材ではあまりないことだ。自分の言葉で伝えたいことがあるのだろう。
「サイドバックをやるにあたって、シミさんやキタジさんからすごく言われたんですけど、『代表を目指せ』と。いまの日本代表の左サイドバックには長友選手とか中山選手とかいますけど、『絶対にいける』と言ってくれているので。それを自分は冗談とかにとらえていなくて、本気で目指そうと思っているんです」
霜田監督は日本サッカー協会で、日本代表や五輪代表の強化に携わった。世界のスタンダードを熟知する。「キタジさん」こと北嶋秀朗コーチは、柏レイソル在籍時に日本代表に選出されている。日本代表入りの「基準」を知る二人の言葉は、小野を後押しするのに十分なものと言える。
「いまのチームの順位とかを考えると、『何を言っているんだ』と思われるかもしれません。でも、自分は本気で目指してやっていきます。キタジさんは現役の時に日本代表に入るとメディアに言っていたそうで、言うことでそれが基準になり、もっとプレーが良くなると。自分もホントに目指しているので、できればこういうところで言えればなと思っていたので」
日本代表入りを目指して基準を上げることは、チームメイトにも好影響を及ぼすに違いない。ひいてはチームの結果を好転させることにつながっていくはずだ。ここから先の巻き返しを牽引していくことで、小野は自身の「覚悟」や「決意」を示していくのだろう。
戸塚 啓(とつか けい)
1991年から1998年までサッカー専門誌の編集部に所属し、同年途中よりフリーライターとして活動。2002年から大宮アルディージャのオフィシャルライターを務める。取材規制のあった2011年の北朝鮮戦などを除き、1990年4月から日本代表の国際Aマッチの取材を続けている。