Vol.011 早草 紀子「オフサイド!」【ファインダーの向こうに】

クラブ公式サイトなどで目にするアルディージャの写真は、その多くがプロのカメラマンが撮影したものです。彼らが試合中に見ている選手たちの姿は、スタンドから見ているそれとは少し違います。ファインダー越しにしか見えない風景を、クラブオフィシャルカメラマンが綴ります。



Vol.011 早草 紀子
オフサイド!


さあ、今日は何を狙おうか――。キックオフ直後、流れを読むまでの時間は重要だ。調子が良いのは誰か。どこからの攻撃がハマりそうか。守備の健闘が際立つ展開か。読みが外れれば、はるか遠くに選手たちを眺め、全くシャッターが切れない危機的状況に陥ってしまう。

読みが当たり気味だった第8節・ツエーゲン金沢戦では、コロナ禍だからこその発見があった。狙っていたのは最終ライン。画角(1枚の写真)に何人入れられるか、というのは常に掲げているテーマでもある。

クロス対応に入ったDF陣の動きに予感が生まれる。「お? そろうか?」と、ワクワクしながらシャッターを切る瞬間を待っていた。そのとき、大声が響いた。「オフサイッ!!!」――。

あまりの大声に思わずビクっとシャッターから手が離れそうになる。フレーム内で完全にロックオンしていた山越康平選手のみならず、大外に戻ってきた吉永昇偉選手、そしてよく見ると畑尾大翔選手も声をあげている。総出のオフサイドアピールだった。

期待していた通りのシーンにも関わらず、なぜここまで驚いたのか。その理由は“音”だ。今やすっかりおなじみになったリモート応援システムが、この試合では導入されていなかった。陸上競技場ということで、思わず漏れる観客の声やため息といったざわめきもピッチまでは届きにくい。選手たちの手前に位置する副審とカメラポジションが、もう少しで被りそうなギリギリのタイミングだったこともあるだろう。

あらゆる条件が重なって、山越選手たちの視線とアピールがダイレクトにこちらに向かってきた。シャッターに指を置いていなければ、一緒に右手を挙げてしまいそうなほどの臨場感。ひょっとしたら一番手前でマークについていたであろうマクシメンコ選手も叫んでいたのだろうか。次のチャンスでは注意深く耳をそばだてながら狙いを定めてみよう。


早草 紀子 (はやくさ のりこ)
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマン。

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